第19話 温度を上げる要素は心の闇
「だからオーガには死んでもらうよ。」
ピシュッ
僕は生活魔法の火球をオーガに向けて放った。大きさは…ピンポン球ぐらいの小ささで、ろうそくの火のようにゆらゆらと揺らめきながら進む。たかだか2mぐらいの距離なのに、のろのろと発射された。遅っ!
「何しているセイ! 早く逃げるんだ! こいつに火魔法は効かな…………えっ?」
僕の放った火球はオーガの背中にぺちっと着弾すると、背中全体を包み込み、すごい勢いで燃え広がった。燃え広がった火に気づいたオーガは火を消そうと手で拭ったりしているのだが消えない。地面に転がって火を消そうとしているのだが消えない。
アスナル様は地面を転げ回るオーガを何が起こったのか理解できずにただ唖然と立ち尽くして見やる。
だんだんと肉の焦げる匂いがここまでしてきた。ふん、今まで火の熱さを感じるなどとは無縁の肉体だったのだろう。現にアスナル様が放った火球も肉体に着弾したものの、皮膚に何の損傷も与えなかった…無傷。耐火性は高いようだ。
だけどそれは…消えない炎を前にしても無事でいられるのだろうか? 同じ場所を1000度を超える高熱で焼き続けても効かないのであろうか?
答えは否だ! 生物であるかぎりそれは不可能だと思う。今回はやらなかったが、体全体を炎で覆ってしまうと酸欠になって生きてはいれないよ!作戦も用意していたが…魔物が酸素を必要としているか分からなかったので今回は見送った。今度またゆっくりと違う魔物で検証してみようと思う。
消えない炎だなんて不可能を可能にしたのは、もちろん自称宮内庁御用達のチートと評判の“命素”のおかげだ。
ある時ふと思いついた。イメージによって硬度まで変えられる物質“命素”ならば色々な要素をイメージして“命素”に付与してみたらどうだろうか?
“命素”に液体の着火剤のようなイメージで付与してみた。岩に付着させて火をつけたらものすごい火柱が上がった。
初めての成功で、めっちゃ喜んで火柱に近づいたら、うっかり自分がまとっていた“命素”にも意図せずに着火剤のイメージが付与されていたらしくて、火だるまになっちゃったよ。
「燃〜えろよ燃えろ〜よ、炎よ燃〜え〜ろ。」
と、誰もいないのにキャンプファイヤーの歌を披露してしまうぐらいパニックになってしまった。すぐに慌てて消そうとしたのだが、消し方が分からずにこのオーガと一緒で、地面を雄叫びをあげながら転げまわったけどね。
「うわちゃあああちゃちゃ~」
もちろん消えず。このまま火柱ならぬ人柱になるところだった。
ふと付着した“命素”にイメージで消えろと思ったら消えた。良かった…髪の毛がアフロになるまでにはなっていなかった。長い時間燃えていた印象だったけど実際はすぐに消せていたようだ。
もちろん今現在のように“命素”を自由にコントロール出来るまでには涙ぐましい努力があった事を密かに告げよう。というかその努力の部分をめっちゃ語りたい。めちゃめちゃ頑張った事を話してみんなに褒めてもらいたい!
しかし、そういった影の努力というか地味な話なんかは他人は興味がないものだ…悲しいね。こっちが努力を熱く語れば語るほど、聞いている相手は引く!
そしてその後、他の同僚や友達なんかに
「努力話を自分から言う奴www。自分で熱く語って引くわ~」
なんて言われて嘲笑されていたりするのだ…くそが!
だから努力なんて、誰かがそれをこっそり見てくれていない限り努力していないのと一緒なんだよね〜。だって誰も知らなんだから! 知らない人から見たらパッと出来たように思うんだろうけどね。
だって努力してるの見てないんだからさ〜〜〜〜! だからこっちからその努力をアピールすると…(無限ループ)
はっ、取り乱しました。すみません。つい心の闇が漏れ出てしまった。ふと見ると心無しか転がるオーガの炎の色が一瞬、青色になってた。
青色の炎の温度は10000度以上…なるほど“命素”の温度を上げる要素は心の闇と。また新しい発見をしてしまった。
などと新しく思わぬ得た収穫を喜んでいたら、オーガに纏わり付いた炎が消えた。オーガに付着させた“命素”が無くなってしまったらしい。まぁ消えない炎とはいえ、燃える元の“命素”がなくなってしまえば消えざるをえないということで。
…本当は“追い命素”も出来るんですけどね。なにせ透明なんだから継ぎ足し継ぎ足しすれば永久に燃え続けいるように見えるのだ。今回はやらないけど。
オーガは焼けてただれてしまった痛々しい背中をかばいながら、起き上がった。しかしよく見ると焼けただれた部分がゆっくりと小さくなってきているようだ。
さすが魔物でも上位に位置するオーガだ。耐久力、回復力も優れているのか。
起き上がったオーガは、今度はサナエル様に背を向け、僕に敵対行動である咆哮をあげた。敵認定されてしまったようだ。
僕はビリビリと大気が震える程の咆哮を浴びても動じずに、真正面から木の棒で殴りかかる。もちろんオーガはそれを払いのける動作も見せず、渾身の一撃を僕に叩き込むように筋肉をバッキバキにして拳を振り上げ、振り下ろす。僕を殴ることを優先したようだ。
それほど僕の事を脅威に思ってくれて光栄だね。だけど甘く見過ぎだ。僕がただの棒で襲いかかるわけがない。
ボゴオオオオオオオオ
僕の木の棒はオーガの肩にめり込んだ。比喩ではなく本当に凹んでいる。木の棒なんかで強度を誇る鋼の肉体を凹ました事にオーガは初めて驚いたような顔を見せた。
もちろん棒にはめちゃめちゃデカイ“命素”をまとわせていた。イメージとしてはチュッパチャップスだ。あの丸い部分が“命素”で、振り下ろす瞬間に質量を変えて重くする。後はそのまま惰性でオーガ目掛けて振り下ろす。
7歳の僕には重いものを振り回す力も体力もないからね。剣の振りも別に鋭くもなんでもなく子供の遊びの延長程度の力量だ。
なので方法は1つしかない。そう、適当にぶっとばす!
肩にめり込んだ棒を引き剥がし、間髪入れずにエイトパックぐらいに割れた腹筋に再度遠心力を使って瞬間質量変化チュッパチャップスを叩き込む。
オーガの体が、くの字に曲がって吹っ飛び、今度は地面に突っ伏した。
オーガが突っ伏した事によって反対側にいたアスナル様と目があった。さぞやびっくりしてイケメンのポーカーフェイスが、目が飛び出して、顎が外れるぐらい口を開けている漫画表現を期待したのだが…アスナル様は無表情だった。
今まで見たこともないような顔で、まさに表情が顔から抜け落ちているような顔だった。
…ねぇ、それどんな感情?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます