第17話 憧れのスタンピード
最近魔物が増えている事はもちろん僕たちの村だけでなく、他の村やバッコスさんの領地でも共有されている。すでに魔物に襲われた村などもあるようだ。
なのでアスナル様を中心に魔物の討伐隊が組まれ、間引きするため何度も森に入ったらしいのだが、一向に魔物が減る様子が見られないらしい。そしてこの村にも…
「これはスタンピードの前触れかもしれないな…」
タナンさんが不吉な単語を口に出す。もちろん僕は知っているが初めて聞いた
「……ああ、スタンピードとはな…うん、そうだなぁ、何と言ったら分かるかな…ええっと…………………………えっなに? 母ちゃんが俺を呼んでる? 悪いなセイ、すぐに行かなくちゃいかんから、また後でな。」
そう言って昨年奥さんに逃げられて、独身なはずなタナンさんは奥さんが呼んでいる幻聴が聞こえたようで小走りで帰っていった。
いや、別に知らないなら知らないって言ってくれればいいのに…。7歳の子どもの前で小芝居までしてくれなくても…と思う僕であった。
スタンピード…魔物が大挙して逃げ出したり押し寄せたりする事だ。ラノベでは物語の転換期によく使われる山場の一つだ。このイベントを苦労してクリアすれば当分落ち着くだろう、話的にもな。
という事でやっと僕の出番ですね、わかります。もうすぐ起こるスタンピードイベントをクリアすれば、次の章へと移行してもうそろそろヒロイン候補が出てくる予定なんですね、わかります。
そう思うと死に至るかもしれないイベントなのに血湧き肉躍ますよ〜〜〜僕は! とりあえず誰の目をはばかる事なく、小粋な小躍りだけしてその日は秘密基地に行かずに家に帰って寝ました。
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スタンピードは終わりました。
2日前ぐらいにどうやらここから2つ先の村でスタンピードが起きたようで、すぐに駆けつけたアスナル様が討伐隊と村人の選抜隊でなんとか防ぎきったようです。とはいえ村は怪我人も多く出て半壊状態だそうですが。
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待て待て待て〜〜〜〜〜〜〜〜い!
えっ? えっ? どゆこと? この村じゃないの? 普通は主人公(自分で言う)である僕の村にスタンピードが起こる流れじゃない? 今までの前フリ的に! もちろんスタンピードが起こらなかったのだから村が犠牲にならなくて良かったんだけど…
違うでしょ〜〜〜〜〜〜〜〜!
こういう一大イベントの為に人知れず影でこそこそ隠れて鍛えてきたんじゃないの僕? スタンピードで村が荒らされていく中、実力を出すかどうか迷う僕に迫る魔物たち、そんな僕を恐怖で立ちすくんでいると勘違いして、身を挺して僕を助けようとしたのだが、あっさりと魔物にやられるタナンさん(笑)。怪我を負いながらも、僕を逃がそうと身を挺してやられるタナンさん(笑)。めちゃいい人だな〜タナンさんは…。
そんな状況で「下がっててタナンさん、
村に溢れかえる魔物達と鬼気迫る顔で対峙する7歳児。
そんな僕を見て怯え出す魔物達、唖然とする村人、逃げた妻の幻聴が聞こえ出すダナンさん(笑)。
ていう流れじゃなかったの〜〜〜〜。僕が実力を存分に出してみんなにチヤホヤされたりわっしょいわっしょい担ぎだされたり、くんづほぐれつする筋書きじゃなかったの〜〜。
と一人身悶えていたら、村人が村の入り口に集まり出した。どした?と思ったらアスナル様がスタンピードの魔物の残りを討伐しながら、この村にも念のために様子を見に来てくれたみたいだ。
アスナル様が村長と色々と話した後、村人達と交流していく。僕たちもそれを離れたところから見ていたら、ふいにアスナル様と目があったら、なぜか僕のほうに向かって来た。
えっ、何だろうか。まさか…アスナル様が僕のヒロイン候補なのだろうか。やばいな…ボーイズラブ要素はちょっと…ギリいけるか? などと馬鹿な事を考えていたら、
「君がセイくんかい? 噂は聞いているよ。」
「初めましてアスナル様。噂…ですか?」
「ああ、まだ7歳なのに優秀な子どもいると聞いてね。その歳でたいしたもんだ、これからもこの村を一緒に発展させていこう!」
「は、はい。アスナル様にそう言ってもらえるなんて光栄です。」
そう言って17、18歳ぐらいでやんちゃそうな顔つきアスナル様は僕に手を差し出した。
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惚れてまうやろ〜〜〜〜〜〜。こんなん絶対惚れてまうやろ〜。
見た目とは裏腹にめっちゃ好青年でこんな7歳の小僧にも丁寧に接してくれる。こんなん
というしょうもない事を考えながら、差し出された手に握手をしようとしたら…
どごおおおおおおおおおおおおおおんんんんんんん
ごごごごごごごごごごごごごごおおおおおおおおお
すごい地響きを伴って僕の左100m先に土煙が舞い上がって辺り一面の視界が遮られた。
「何だ? いったい何がおこった?」
いきなりの出来事に集まっていた村人達も騒然として、土煙が舞い上がった方向を凝視する。次第に土煙が晴れていくと、何か…黒いシルエットのようなものが浮き上がる。それは最初岩のように見えた、丸い形だったのだが徐々に起き上がっていき人型に形を変えた。
しかし…その人型は人間のものとは思えない大きさ、推定3~4m? まさか…
「グオオオオオオオオオオオオオオオ」
100m離れた場所にいる僕の体を揺さぶるほどの咆哮! 圧倒的強者の存在感に冷や汗が出る。土煙が晴れて完全に姿を現したそれは…人型の魔物だった。
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