第16話 “神殺し”現象

 あれから何事もなく50年経った…7歳だった僕は今はもう57歳だ…。

 

 うそうそ〜! 本当はまだ7歳だよ! すみません、嘘つきました…ほんの出来心です。


 あれだけ序章だとか女性のシルエットが…とか匂わせておいて田舎でスローライフを送っただけの人生で終わったら、山城国一揆が起きるところだよ、全く…。



 ザナドを殺った後は平穏な毎日を送っています。もちろんたまに森に入っては魔物を倒したりもしている。ちなみに三階位のザナドを殺っても、僕に経験値のようなものが入って階位が上がる、というような事はなかった。


 自分よりも階位が上の人を殺したらどうなるか?の検証でもあったんだけど、やっぱりこの世界では魔物であるリフランを倒す以外に、階位を上げる手段は無いようだ…無いと思う…無いんじゃないかな。


 ちなみに僕は階位を上げていない。ゼロ階位だ。もちろん僕に階位を上げる器がないという訳ではなく、“命素”を使って魔物を倒してもカウントされないみたいなんだ。直接自分の手で…物理的な手や道具、魔法なんかで魔物を倒さないといけないみたい。


 まぁ7歳で階位を上げると面倒くさいことこの上ないので上げませんけどね。だから魔物を倒す時は必ず“命素”で止めを刺しています。



 さて、僕は今日も午前中の農作業を手伝っていた。こう見えてもまだ7歳なので手伝い程度だ。ザナドを簡単に殺っちゃえるほど強いのだが、いかんせん体は7歳なので遊びたい盛りなのだ。仕事が終わったら何をして遊ぼうかな〜と思っていたら、急に目の前が真っ白になった。


 ぴしゃああああんん


 目の前の全ての物が消えたように何もなくなってしまった。天も地も何もかも。セイに転生する前に見た白い空間を思い出したが、それとはまた雰囲気は違うようだが…ただただ目の前が真っ白になった。


 実際にはほんの一瞬の出来事だったのかもしれないが、僕には5秒、10秒と長く感じられた。後でタナンさんに聞いてみたら、この出来事は僕だけじゃなく村人全員が体験したようだ。


 「これは“神殺し”と言われている現象なんだが…まぁ詳しい事は何もわかっていないんだ。俺も今回で2回しか体験したことがないしな。」


 “神殺し”…なんか物騒な名前だけど比喩だよね? ぶっちゃけこの世界には神様はいないと思うし、そもそも神様が居たとしても全知全能であらせられるので殺す事は出来ないと思う。


 もちろん「神様なんていませんよ、ぷぷっいい大人ななのに信じてるんですか?」なんて事をタナンさんや他の村人には言わない…なぜなら僕以外の村の人たちは神の存在を信じているから。


 この村にもオリナス教会はあるけど…怪しい宗教とかではなく、神の存在を感じて清く正しき生きましょうみたいな、助け合い精神的な組合なのだ。田舎だからなのかな? これが都会だともっと宗教宗教しててドロドロしているのか今の僕には調べる術などはない。


 とにかく“神殺し”というのは不思議な現象だった。





 この日を境に森の奥に住む魔物が活性化した。




 僕はいつものように夜に抜け出し、秘密基地から少し奥の森に入る。いつもなら魔物の一階位ぐらいしか現れない森の浅いところにも、今日は二階位の魔物が多く見られる。


 木々を渡って移動する猿の魔物の群れに対して、ピンポン球大の大きさにした“命素”を次々と打ち出し猿に当てる。まだ正確に眉間を撃ち抜くだの致命傷を与えるなどの威力はないので、とりあえず当ててダメージを負って落ちてきたところに止めを刺す。


 いや、動いてる的に当てるだけでも難しいんですからね! だいたい当たるのは2割かな…いやいや、動いてる的に当てるのは本当に難しいんですからね! ただし2割とはいえ打ち出す数が多ければ多いほど…後は分かるね?


 へたな鉄砲数撃ちゃ当たるの理論で、やたらめっぽう打ちまくって全魔物に当たるまで打ち続ける…後は分かるね?


 落ちてきた猿をグサ、落ちてきてグサ、だんだんながれ作業になってきて草(笑)。


「ふ〜良い仕事したな〜。」


 かなりの魔物を駆除した後、岩の上に座って水を飲んで寛いでいると…遠くから獣がこちらに向かって走ってくる音がする。耳をすませると…7、8匹以上。すぐに木に登り遠くを見やると、狼の群れだ。10匹の群れがこちらに向かってくる。


 しかも…目の色がグレーという事は二階位か。狼の魔物はこの辺りにいないこともないのだが、10匹の群れは珍しい。とりあえず牽制のために木の上から小さい火魔法を当てて気をひきつけた後に、無色透明な“命素”弾を魔物の集団に遠慮なしに浴びせる。


「キャン、キャンキャーー」


 息も絶え絶えになった事を確認した後に、下に降りてグサ、グサ、グサ、クサ、草(笑)としっかりと止めをさして、地面に消えた後のキューブを拾い集めて今日はその場を後にした。




 また違う日にも二階位の魔物が多くみられた。


 そしてとうとうこんな場所には居ないはずの目の色がクリームイエロー、薄い黄色をした体長3mぐらいの大きな熊、三階位の魔物が現れたのだった。


 「本当にこんな浅瀬に三階位の魔物が出てくるだなんて…森に何かあったのか?」


 僕はいつもと同じようにピンポン球大の大きさにした“命素”を打ち出すも、熊には効いていないようだ。正確には表皮を傷つけるぐらいで、やってもやっても致命傷にはならない。このまま続けても僕のスタミナが切れてやられる可能性があるので、棒の先を削っただけの槍に“命素”をまとわせ硬度を上げる。


 その槍をめいっぱい大きくしたインブジブルハンド(見えない手)で、熊めがけて射出!


「おりゃあああああああああ」


 やり投げのイメージで熊めがけてぶん投げる。実際は目に見えない透明な“命素”が投げているので、僕の投げる動作はいらないんだけど…気分の問題です。


ドシュッ

「ガッ?………ガアアアアアアアアアアアアアアアア」


 ものすごい勢いで発射された槍は熊の胸を貫き大きな穴を穿った。しばらくしてやられ事に気づいた熊は、絶叫してドスンと大きな音をたてて絶命して消えた。


「ふう、強敵だった。俺はお前の事は忘れない…たとえ今日寝ても明日の朝まではお前の事は忘れないぞ…多分…自信ないけど…。」


 魔物が消えた跡に残った、今までよりも大きめのキューブを拾い上げて村に帰るのであった。

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