第12話 ザナド狩り

 「なに! ザナドに会ったのか? 本当にザナドだったのか? 容姿は? 何か言ってなかったか?」


 村に帰ってザナドの事を言ったら大騒ぎになってしまった。それから村は慌ただしくなり、厳戒態勢になった。


 村人は不必要な外出は控えるよう通達があった。そして村を警備する男出を増やして4人1組で巡回するようになった。もちろんザナドの事はアスナル様にも伝えられて急遽討伐隊を森に派遣する事になったらしい。


 やっぱりザナドはとんでもない厄災だったみたいで、今まで犯したドン引きするエピソードなんかを聞いた。


 幼い頃から悪ガキで14歳になるまでには、人殺し以外すべてやっていたぐらいの悪だったので村八分にされて嫌われ者だったようだ。15歳の時に疎まれていた村長一家を皆殺しにして森に逃げ込んだらしい。


 もちろん追っ手を放って何度も捕獲を試みるも、神出鬼没でどこにも定住せずに時おり村を襲っては森に隠れるを繰り返していたらしい。


 それがある日を境にぱったりと姿を見せなくなり、いつしか森で魔物に襲われて死んだと思われていたのだが…2年前ぐらいにまたこの辺りにふらりと現れ、50人ふらいの小さな規模の村を襲い村民を皆殺しにしたらしい。


 その村人たちの遺体はすべて四肢が欠損しており、長い間時間をかけて弄んだような跡があった。以前よりも残虐性が増した事によって指名手配されて、ザナドが現れた際は領地に関係なく協力体制を取る事になったそうだ。


 だからアスナル様の討伐隊と隣の領地のバッコスさんが共闘し、これから森の捜索を開始して速やかにザナドを討伐するらしい。


 「それにしてもザナドに見つかってよく無事で帰ってこれたなセイ、怖かったろうに。よしよし肉でも食うか?」


 大人たちは怖い思いをした僕をものすごく気遣ってくれた。僕としては思った以上に大事おおごとになって恐縮しているので、別に僕が悪いわけではないのだが親切にされてひじょ〜〜に居心地が悪い。


 それに7歳の子どもが嘘をついていたらどうすんだ、そんなに素直に信じてもいいのか?とも思ったのだが…


「いや、ザナドという名前を知っていたし、奴が子供を痛めつける時に好んでつける傷がセイにもあったから疑いの余地はなかったぞ」


 そう言ってくれた。あの足をグリグリと押さえつけて痛めつけるやつだな。確かにあれは女、子どもには…大人の男でも恐怖だな。逃げられない上に痛いしな。


「だからあのザナドから逃げ出せるなんて、よっぽどあいつの機嫌が良かったのか…気まぐれだとしても生きて帰れて運が良かったな。」


 といって運も褒めてくれたよ。まぁ誰もこんな7歳の子どもの実力で逃げ切れたとは夢にも思うまい。もちろんザナド本人もな。


 討伐隊が森に入るという事で村人達には、しばらく外に出ずにおとなしくしているように言われた。それから2、3日経ったがザナドを討伐したという情報はなかったが、ザナドが森に潜んでいた形跡は見つかったらしい。


 さらに3日間探したが結局見つからなかったので、たぶんこの辺りを離れてしまったのだろうと言っていた。アスナル様達はもうしばらくはこの辺りを警戒して、危険がないか確認した後に一旦解散する事になったらしい。


「やっぱり見つからなかったか…」


 僕は畑仕事の手を休めて、森の方を見ながら独りごちるのであった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 オレは数日間この場所から一歩も動かずに静かに息を潜めて待った。オレを殺そうと息巻いている連中をやり過ごすには、敢えて存在を匂わした場所を発見させて、誘導する方向を示してやる。オレはその逆方向に潜んで待つだけだ。


 賢いヤツらはオレの思惑通りに反応して、勝手に推測して探し回ったあげく迷路に迷い込んだように結局見つける事はできない。くくくくくっ…全く、笑いをこらえるオレの身にもなれよな。


 いくらオレでも他の雑魚ならいざ知らず、アスナルとバッコス二人を相手取るのは分が悪い。もっともっと魔物を倒し、アイツらよりも強くならねえとな。アイツらは三階位が限界だろうが、オレは違う。もっと強くなる自信があるんだ。


 階位が上がったら真っ先にアスナルの村を端から徐々に皆殺しにして、悔しがる顔を堪能してから最後にアスナルいたぶって殺してやるよ。楽しみだぜ〜〜くくくくっ。


 遠からぬ未来に胸をときめかせすぎて、たかぶって来ちまった。少し早いが奴らもこの辺りにはいないだろうし、もういいだろう表に出るか。


 オレは穴を掘り深さ1mぐらいの所に身を隠していた。もちろん周りをカモフラジューして見つかりにくいようにしてある。偽装工作はバッチリだ。


 空気穴から覗き、他の生き物の気配を感じないのを確認してから、上の土を跳ね除ける…


 「ん? なんだ…ちょっと硬いか。ふん! いつもより力を込めたのにそれでも土が避けれない? どういう事だ。」


 オレは不思議に思って、違う空気穴からもう一度外の様子を伺おうと顔を近づけると…


「み〜〜〜つけた!」

「おわっ、なんだ!」


 覗こうとした空気穴の向こう側からこちらを伺っていた顔が見え、思わずびっくりした。暗くてよくわからないが…子どもの声?


 「こんな姑息な隠れ方してたんだね〜。極悪非道と粋がっている割には…小物感がすごいね〜ハハハハ。」

「なんだと! クソガキがああああああああ」


 オレは力の出し惜しみは止めて、窮屈な姿勢ながらも全力で土を蹴り上げた。


 ドゴーーーーーーン!


 上を覆っていた土が瓦解してそれを退けて起き上がる。辺りは夜になったばかりのようで月がまだ低い位置にあった。子どもの顔は逆光で見えない。


 「子どもだからって容赦はしねえぞ。この昂りが収まるまでいたぶっていたぶって、最後はバラバラにしてこの穴に埋めてやるよ。くっくっくくく。」


 弱者はオレの享楽のためだけに存在するのだ。オレをからかった事を後悔させてやるぜ〜。さあ、狩りの時間だ。

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