第11話 ザナドの残虐性

 「俺は弱いものイジメが大好きでな、最初は抵抗するんだけど次第にかなわないと知って、絶望する時の顔を見るのが大好物なんだ。今も楽しみで楽しみで…自分を抑えきれないんだ。」


 と興奮して息荒く僕に告げてくるザナド。そんな性癖を嬉々として告げられた僕は一体どんな顔をしたらいいんだろう。


「笑えよ。」

「ふぁ」


 一瞬、笑えばいいと思うよ某アニメに変換されて聞こえた僕は変な声をだしてしまった。


「くふふふっ、まだ絶望するには早すぎるからなぁ。最初は笑顔だったのが徐々に顔が曇って、最後には恐怖の色に変わっていく過程が大事なんだよな〜。」

「………………。」


「このままお前をすぐに殺してもいいんだが、あがいてあがいて逃げてくれる方が嬉しいから、オレが10数えるうちに逃げろ。ああ、もちろん四肢欠損だとか苦しませるような事はしないつもりだ…たぶん。約束通りに楽に殺してやるから安心しろよな…たぶん。」

「………………。」


「じゃあいくぞ、10〜〜〜〜〜〜、9〜〜〜〜〜〜…」


 僕は走り出した。無我夢中で走り出した。もちろん“命素”を使わずに自分の力、7歳児の持てる力全てを絞り出して必死に走って逃げた。


「おお〜なかなか早いな、いいぞいいぞ〜、6〜〜〜〜〜」


 後ろのほうで騒ぐザナドの声が聞こえづらくなる距離まで離れた。しかし油断はできない。三階位の力を見た事がないからどのくらいの強さかはわからないからだ。


 僕は森の中を一直線ではなく、なるべく彼から見えづらい死角になるようにジグザグに逃げた。隠れるような場所があれば隠れられるように。


 どうやら10を数え終えたようだ。何を言っているかはっきりとは聞こえないけど、大きな声を上げながら近づいてくるのは、なかなかの恐怖だな…やり慣れていやがる。子供の嫌がることを熟知してやがる。


 くそ、やっぱり方向はごまかせなかったか。このままではすぐに追いつかれてしまうだろう。なんとかしなければ。


 とっさに拾ったコブシ大の大きさの石を自分と逆方向に投げて、見つかりにくそうな茂みに隠れた。遠くからザナドの声が聞こえる(頑張ったけどもっと上手に音を消さないといけないな〜)とか何とかわざと聞こえるように大声でしゃべっている。


 その声は僕が投げた石のほうに向かって遠ざかっていった。良かった、どうやらひっかかってくれたよう…


 「み〜〜〜〜つけた! こんな見えづらい茂みに隠れて気配を消すなんて、なかなか賢いなセイ、はっと!」

 「えっ、ぐあああ」


 いつのまにか後ろに回り込まれていた。びっくりして振り返った僕の顔にザナドの蹴りが入った。蹴りのいきおいで、そのまま後方に吹っ飛ぶ。


 倒れた状態で嬉しそうに僕の顔を見下ろすザナド。もちろん僕は怯えた表情も忘れない。


 「おいおい〜、いい顔するじゃね〜か。そそるね〜、もっともっといじめたくなっちゃうな〜っと。」

 「ぎゃあああ」


 ひょうひょうと語りながら僕の足をぐりぐりと痛めつける。それから逃れようと必死に足を動かすのだが、ザナドの足はビクともしない。もちろん僕は必死な表情も忘れない。ものすごい演技派なのだ、僕は。


 「あとちょっとしたエッセンスに、セイの泣き顔も見たいなっ、と」

 「やめ、やめて。」


 押さえつけていた僕の足を解いて、今度は何度もお腹を蹴ってくる。まぁ明らかに手加減した蹴りなのだがどんだけドSやねん、こいつ。ちょっと涙目で痛がる顔も忘れない。いや、本当に痛いんですけど。


 「いつもなら、もっと痛めつけて痛めつけてか細い声が出なくなるまで痛めつけて、四肢欠損してから生きたまま地中に埋めるんだけど…今日は特別に串刺しで許したげるよ。」

 「うわああああああああああん」


 子供っぽい叫び声(演技)をあげてその場から全力で逃げ出す。手を振り回して全力必死アピールだ。でも発想がきっしょいわ〜、ドSどころではないなコイツSSランクだな…きっしょ!


 30mぐらい離れたところで振り返るとザナドは遠くらかでもわかる悪魔的な笑みで、こちらに槍のような先の尖った棒を振りかぶって投げつけたのが見えた。


ザッシュ!!!!


 ザナドが投げつけた槍は僕の背中を貫通し、そのまま地面に突き刺さりった。僕は血を吐いてゆっくりと地面に突っ伏した。そして、弱弱しく顔を上げて大粒の涙を流しながらつぶやいた。


 「お母さん…、エミリ…死にた…く…」


 ドサッ

 そして僕は事切れた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ザナドが近寄って死体を弄ぶかは賭けだったが、やはりあいつは殺すまでの過程が大好きなのであって、死体には興味がないようだった。先ほどまでの快楽に酔いしれていた顔はすぐに真顔になって森の奥へと去っていた。


 …………………もうこの近辺にはいないようだな。念のために周辺を確認してから、ゆっくりと起き上がって涙の跡と血を拭き取った。


 「ふー、疲れた。エミリ…って誰だよ。もちろん母さんもいないけどね。」


 あいつは興味ないだろうが、子供のバックボーンを演出する事でリアリティが出ただろう。顧客満足度No.1が僕のモットーだからね。


 怯えた顔、痛がる顔、必死な顔などの子供っぽい演技も喜んでいただけたようだ。槍が貫通したのもインビジブルハンドで小細工させてもらった。この血も隠れている時に獲った小動物を隠し持ってそれらしく出血を演出したのだ。


 涙は…ごめん、全然出ないからめっちゃお尻をつねってたわ。肉えぐれてない?ってぐらいに、つねってひり出したわ、大涙。


 さてと、ひととおり身綺麗にして村に帰る事にした。とりあえず村に帰ったらザナドの事を聞いてみるか。あんな危険人物の事を村人全員が今まで知らされていない訳がないだろうしね。あいつもたくさん人を殺しているような事ほのめめかしていたし。


 ザナドはまだまだ全然本気じゃなかったけど、僕の今までの修練達成度を測るのと、三階位の力量を測るのをアイツに決めた。アイツなら殺すのに罪悪感など感じないだろう。魔物ではない対人戦が出来ると思ったら、オラわくわくすんぞ!


 今度はこっちが全力であいつを狩ってやろうと決意して村までスキップして帰った。

 

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