第3話 白い空間の主

 唐突にハーレムは別にいいのだが…許せない事もある!


 ラノベでお馴染みのハーレム展開、人には色々な趣味趣向、性癖があるから、みんな違ってみんないい まさと。


 しかし僕が許せないのは出てくる女性キャラが全員主人公を好きになる事だ。次から次へと雨後タケノコのように湧いて出てきては、大したイベントもなく簡単にホイホイ主人公に惚れていく…職業選択の自由など一切なく、すべて主人公のお嫁さんになっていく展開のみを見せられるこっちの身にもなってみろ!


 結局増えすぎた嫁さんは1週間に1度自分の日が割り当てられて…7人以上に増えると1日に2人ずつと割り当てられて…夜のほうも出番も減らされてるけどそれでいいのか? 解せん…っていうか許せない!


 だからハーレムでもいいけど、キャラが増えすぎるとその分内容がうすうす〜のカルピスで喉越しはいいのだが、飲みごたえが無い。たまには濃いカルピスが飲みたいんだ!となってしまいすぐに読むのを止めてしまう。


 …例えがカルピスばっかりだな、僕。


 ぜーぜー、いかん…ついムキになってしまった。さっきは14〜15歳の中学生だったと言ったが、本当は16〜17歳だったかもしれない。なんか記憶で高校時代の事を思い出した。人生で一番のモテ期だった高校2年生の時、仲の良い女友達2人といい雰囲気になった。1人はクラスメイト、もう1人は部活の後輩。


 告白すれば付き合えたんだと思う。だが、思春期の僕は迷いに迷って迷走してしまった。結果……


 「二人一緒に付き合ってはダメですか?」

 と自分のリビドー性的欲望に従って正直に二人に告白しました。


 ……今思うと彼は素直ないい子でした。素直すぎると言っても過言ではありません。もちろんその後クラスから始まって同学年、そして全校生徒にまで噂が広まり、叩きに叩かれて撲殺されました。彼の亡骸の記念碑は今も高校の花壇のカエルの墓の横に、ひっそりと佇んでいます。合唱。


 どちらも選べなかったんだよ〜〜〜〜〜〜〜。みんな違ってみんないい! どちらかを選んでどちらかを選ばなかった…というのを選ばなかっただけなんだよおおおおおお。それの何が悪いのさ〜〜〜〜〜。


 まぁ現代日本人の倫理的には悪いんですけれどもね。


 という高校時代の淡く切ない“おもひで”を思い出しながら、暗闇の見えない壁に向かって溢れんばかりの僕の劣情の塊(圧縮した濃い聖水)をぶつけまくっていた時にそれは起きた。


 ピキピキピキ…パーーーーーーーーン


 そんな音はしなかったのだが、僕の目の前の現象を擬音化すると上記がぴったりだと思う。突然目の前の暗闇にヒビのようや亀裂が入り、まるで風船の割れる様をスローモーションカメラで見るように弾け飛んだ。一瞬にして暗闇から強烈な光を受けて辺り一面は真っ白な空間へと投げ出された。


 その真っ白な空間は上も下も左も右も何もない。ただの空間だ。自分がどこに位置しているのかも全くわからなかったが…別に不快な気持ちはなく、暗闇の時と同様に“命素”成分が充満していたので驚きはしたのだが不安な気持ちは無かった。


 僕はこの空間に身を任せ漂った。しばらくは呆然としてこの空間に身を委ねて漂った。何もないのは暗闇と一緒だが…明るいというだけでテンションが上がる。


 僕の輪郭を型どる“濃い命素”は真っ黒で…小学生のような体躯だった。よかった僕の股間はモザイクが入るような物ではなく、配慮されているようだ。まぁそんな心配なんぞしてもそんな指摘をする人は誰もいないのだが…


 「これは驚いた。こんな事がありうるのか?」


 えっ? 急に後ろから聞こえた誰かの、僕以外の誰かが発した声に驚いて振り返った。


 そこには見た目が小学生のような右目は髪で隠れているが、左目がちょっと目つきの悪い子供が浮かんでいた。誰? どこから? 何者? なぜ子供が? それ以外にもたくさんの????が思い浮かんだのだが驚きすぎて声が出なかった。


 「嘘だろう…自我まで芽生えてるのか。」


 目つきの悪い彼の目が大きく見開かれていた。よっぽど驚いたのだろう。僕はちょっと誇らしげに後ろにのけぞってみた。僕ののけぞった角度が気に入らなかったのだろうか? 彼は目の前の空間を手で払いのけるような動作をした。


 すると僕の体を型取っている“濃い命素”が分離しだして、今上半身と下半身に分かれてしまった。おいおい、せっかく長い時間をかけて“命素”をかき集めた立派な体躯なのに止めてくれよ〜と思い、またせっせと“濃い命素”をかき集めて分かれた上半身と下半身をくっつけた。ふ〜よかった元に戻ったぜ。


 「本当に意思があるのだな話せるのか? 念じるだけでいいぞ」


 “ボク、ワルイスライムジャナイヨ”

 純真な眼差しで念じてみた。


 「ふむ、スライムというのか…変わった名前だな。」


 小粋なジョークが全く通じていなかった。しまった…最初にかますボケではなかったな。もっと家に寝泊りするぐらいに仲良くならないと通じないジョークだったわ。


 “ウソです。まさとと言います。熊本と福井の両親から生まれた生粋の日本人のハーフです、キリリ。”


 「マサト…キッスイ…ニホンジン…聞きなれない言葉だな。」


 えっ、そうなんだ。地球っていう呼び名じゃないのかな? そもそもこの人は、もしかして…


 “もしかしてあなたは神…”

 「違う! 私は神などではない!」


 めっちゃ食い気味で否定されたし。しかもなぜか怒り気味だし。もしかしてこの人が神ならば異世界ものの定番、チート授与式からの転生指南なのかと一瞬喜んでしまったではないか。そんな僕の純真なぬか喜びを返してほしい。


 「ふむ、もう面倒くさいからお前を読ませてもらうぞ。」


 そういって僕の方に手をかざす少年。僕自身にはなにも感じられないのだが、(地球)(日本)(異世界転生)(ラノベ)(ハーレム許さない)などの単語を真剣な顔でつぶやいてるのをみると、僕を読み取っているのだろうか? 彼は否定したが神に近しい存在を感じるな。


 全部読み取ったのだろう。目つきの悪い目を開いた。


 「なるほどな。日本という国でそれなりの文明を享受していた若者が、いつの間にか暗闇に囚われて長年“命素”という物質を自由自在に操る修行に明け暮れていたが、弾みで暗闇の空間を突き破って私と会合して現在に至るという事か…ふむ。」


 端的に僕を読み取った内容を咀嚼しているのか、顎下に右手を添えて考えるポーズをしている。へ〜異世界の人でも考えるポーズは変わらないんだな〜なんてどうでもいい事を考えながら彼の考えがまとまるのを静かに待つ僕。たぶん僕が今いろいろと話しかけても怒られそうだしな。


 「…なかなか興味深い妄想だったが、もうちょっと現実味がある内容だったら再考してみても良かったのだが。」


 えっ妄想? 何が? えっ えっ どゆこと?


 「ふー、本当は面倒くさいから説明なしで消しても良いのだが…仕方が無い。優しい私が少しだけ解説してやろう。まず君が過ごした日本という国は存在しない。というか地球という銀河系の星というのも存在などしていない。私が分かる範囲で調べた結果だけどな。まず間違いないだろう。」


 うそ〜ん。嘘でしょう? 僕のマサトとして過ごした思い出が全否定された。いや、それ以前に僕の存在自体が否定されたのか? だけど証拠である日本のマサトはここにいるでしょ? 魂の状態なのかよく分からない存在ではいるけど。ここに僕がいるでしょ? それはどういう…


「いや、魂という存在でもない。思念体というほどの存在でもないが…もっと矮小わいしょうな…まあ珍しい存在ではあるがな。」


 ええええ〜魂でも思念体でもないって猥褻わいせつな存在って…今僕はどんな状況なんだ?


 「矮小わいしょうだ、矮小わいしょう! 猥褻わいせつな存在とは言っていないがな…そして、さっきからお前が主張している“命素”という物質? そのようなものは存在していない。」


 うそおおおおおおおおおお。“命素”がないって? それが一番驚いた。今現在も僕が纏っている黒い塊のような形。これが存在していないってありうる? じゃあ一体僕はどのように視えているのだろうか…


 「お前は…これぐらいの綿毛のような見た目だな。だから先ほどから話の齟齬があったのだな。納得だ。」


 彼は親指と人差し指を輪っかにしてみせた。だいたいピンポン球ぐらいか…さっきは珍しい存在と言ってくれて少し嬉しかったのだが…そんなレアな感じではなくて吹けば飛ぶような希薄な存在だったんだな…ショック。


 「さて、もういいだろう。トバルであれば矮小なお前であろうと興味を持ったかもしれないが、あいにく私は忙しいのでな。イレギュラーな存在は煩わしいだけでお呼びではないのだよ。悪く思うなよ。」


 えっ…この流れは消すつもりですか? は? 主人公補正のついたこの僕を? 本気でいってるんですか?


 「…その主人公補正というのはよくわからんが、このままお前の存在を許しても大した影響は及ぼさないと判断したが…私はどんな小さな事でも細かい事が気になるタイプなので不確かな要素は早めに処理しておいたほうが良い。」


 …生きづらいでしょう? そんな小さな事が気になるタイプだと生きづらいでしょう。だから見逃しましょう。いや、見逃してあげましょうよ。あなたはこんなにも純粋な、真っ直ぐな目をした僕を消せますか?


 「…綿毛のような存在に目など付いてはいない。あまり長々と話すと僕にも1mmほどの情が移ってしまうかもしれないから、ここは涙を飲んで速攻で消すとしよう。」


 たった1mmしか情が湧かないの? 絶対無理じゃん! この先どんなに説得しても無理筋じゃん! まったく、一体…


 その少年は目の前で右手をギュッと握りしめて先ほどより強く祓った。


 まだ…人が…しゃべっている…途 中 う ううう


 ぼふっ


 体の力が抜けていく…体を型取っていた“濃い命素”が霧散していくのを感じる…そうして僕は意識を手放した。

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