第九章 芽衣の仮説
第39話 日南に訊く
駅前に通じる目抜き通りは、平日でも昼前には賑わいを見せるが、ショップのほとんどが開店準備をしている今の時間帯は、人もまばらだった。
モスグリーン色のパラソルの下で、抹茶ラテを掻き混ぜながら、芽衣は恐縮したように肩をすぼめる。
「お忙しいところ、付き合っていただいて、ホント、すいません」
「いいわよ。今日は、仕事も落ち着いてるから。それより、相談したいことって何?」
向かいに座る日南は、さほど気にしていない様子だった。
芽衣は、朝の会議が終って戻って来た日南に声をかけ、オープンカフェに連れ出すことに成功していた。
「はい。率直に聞かせていただきます。日南さんが、アリバイ屋を利用したのは、なんでなんですか?」
「は? な、なによ、いったい、どうしたの? そんなこと、急に聞いてきて……」
「理由を教えてもらってもいいですか?」
「あ。ひょっとして、あのアリバイ屋さんから、なんか聞いた? ひどいなあ。守秘義務があるはずなのに、あの男、芽衣ちゃんに、なんか言ったのね」
「いや、違いま……いや、やっぱり、違いませんね、ははは。確かに、一度は、拘束癖のある彼氏へのアリバイ作りだって、ポロリと聞いちゃったんですけど。ふふふ」
「ポロリって、そんな……。プロなら、そういうことしゃべっちゃダメよね。なんだか、ムカついてきたわ、アイツ……。フラグって言ったっけ?」
「は、はい……。でも、それは、ウソなんですよね? 本当の目的は、フラグに近づくためだったんですよね?」
日南は、視線を落として、ちゅうっと、アイスラテを吸った。「うん」とも、「ううん」とも言わない。
「実は、私、その理由、わかった気がするんです。ミス・ハナとフラグの関係を探ってたんですよね、日南さん?」
「ちょ、ちょっと、待ってよ、芽衣ちゃん。いったい、何があったの? 私の方こそ、芽衣ちゃんが、なぜそう思ったのか、聞きたいわ」
芽衣は、バッグからスマートフォンを取り出して、ミス・ハナの写真を表示した。そして、それを日南の前に置いた。
「これです。こんなのを手に入れたんです」
芽衣のスマートフォンを覗き込んだ日南の表情が、一瞬にして変わった。
「えっ? なにこれ? こ、これって、ひょっとして……ミ、ミス・ハナの写真?」
「そうです。JSRAで清掃員をしていた人から、入手しました」
ミス・ハナがアップで写った写真は、髪型こそショートボブで女性だとわかるが、目鼻立ちはフラグとそっくりだった。
「す、すごいじゃないっ! これは、大スクープよ! 今まで、ミス・ハナの顔写真なんて出回ったことがないんだから」
日南が、眉を上げて驚いている。
想像通りのリアクションに満足した芽衣は、アゴを突き出して、日南の方に首を伸ばした。
「日南さん、今度は私が、教えてもらってもいいですか? 最初に訊いた質問です。なぜ、フラグに近づいたんですか?」
日南は、もう一度アイスラテを一口飲んでから、おもむろに口を開く。
「実は、ミス・ハナの取材に成功したとき、撮影は禁止されたけど、顔は隠して無いから、インタビュー中は、ずっと彼女のことを観察してたの。後から、似顔絵を描かないといけなくなるかもしれないから、忘れないようにね」
「やっぱり、ミス・ハナとフラグがそっくりだったから、近づいたんですか?」
日南がコクリと頷いてから、続ける。
「後日、街中で、偶然見かけたのが、あの男だったの。そっくりすぎて、びっくりしちゃった。きっと、兄妹……いや、もっと似てたから、双子に違いないとおもったわ。それで、彼の後を追ったら、裏社会で生きていて、詳細が掴めなかったら、あの事務所に直接出向いたのよ」
「そうだったんですね……」
「そう、客のふりしてね。でも、彼に聞いても、兄妹はいないって言うし、勘違いだったのね、きっと」
日南は、芽衣のスマートフォンを取り上げて、ミス・ハナの写真を食い入るように見つめていた。
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