第29話 体の異変
次の日は、朝から手の震えが止まらなかった。予約も入っていなかったので、アリバイ屋は休業することにする。
手が震える振動によって、断続的に肘や肩の関節に痛みが走る。
布団に埋もれ、痛みに耐えていると、スマートフォンに着信があった。父の雄二からだった。
「お、おはよう、なに? 何か用?」
「ちょっ……話がしたい……出て来れないか?」
「今日は無理。ちょっと、体調が良くないんだ」
フラグは、すぐにでも切りたかった。話す体勢を維持するのもつらい。
「じゃ……事務所に……ぶか?」
「なに? なんだって?」
スマートフォンを握る手も震えて、父の声を聞きとれない。遠くの方で、なにかしゃべっているようだが、もはや、その内容は全くわからなくなった。
「もう、いいよ。切るよ」
父の用件はよくわからなかったが、通話を続けるのも困難で、フラグは、一方的に電話を切った。
昼過ぎに、事務所のドアが開き、フラグの寝るベッドルームに向かってくる足音が聴こえてきた。
「どうした、フラグ? 大丈夫か?」
父の雄二である。合鍵を使って、入ってきたらしい。
フラグは、体を起こそうとするが、関節が痛くて、力が入らない。
「無理するな、そのままでいい。いつから、こんなことになったんだ?」
「て……手が震えるのは、ずっと、前からあった……。ひどくなったのは、つい最近……。どんどん、ひどくなっている気がする……」
「そうか……かわいそうに……」
父は、痛みのある関節をやさしくマッサージしてくれた。「すまない、すまなかった」と詫びているが、なんのことなのか、フラグにはわからない。
「なあ、フラグ……。この病気を治すには、手は一つしか無いんだ……。その治療は、JSRAでやることができるんだが……」
痛みに耐えるために抱きしめていた布団を投げ出した。荒々しく呼吸を繰り返し、流れる額の汗を、シャツの袖で拭う。
なぜ、父がフラグの病気やその治療法を知っているのかはわからないが、この痛みから、すぐにでも解放してほしかった。
「た、助けてくれよ……親父……」
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