第28話 見限り
「おいっ! なんとか言え! ただでとは、言ってないだろ? 少しは、交渉させろよ、コラッ!」
時田が、フラグの方に向かってきた。
「ふざけやがって、ふざけやがって……」
ブツブツ言いながら、近づいてくる。
「おいっ!」
フラグは、背後から肩をつかまれ、引き倒されそうなほど、強く引っ張られた。
よろけながらも、くるりと体を反転させ、右腕を突き出す。
「何度も言わすな、オッサン」
フラグは、振り向きざまに、時田の眉間にUSP拳銃の銃口を突きつけていた。
「な、なっ!?」
フラグは、時田のことも情報屋に調べさせていた。
工務店の営業マンとして働いているが、売上伝票を細工して、ここ二年間で数百万円を着服している。
その金を酒とギャンブルと風俗通いにつぎ込み、貯金はほとんどない。
工務店は、時田にさぼり癖があることを掴んでいて、営業に出た際は、必ず報告書を提出させていた。だが、売上金を横領されていることまでは、まだ把握できていないらしい。
風俗通いで営業をサボっていることがバレるのも、横領がバレるのも時間の問題だろうというのが、情報屋の見解だった。
「オマエは、会社に叱られた方がいい。今すぐ、ここから出ていけ」
時田のアリバイ工作がバレれば、フラグの仕事にも支障が出てしまう。
フラグの中では、もうこれ以上、付き合うべき客ではないとの結論を出していた。
「うっ……嘘だろっ? な、なんだよ、コレ? こ、これ、なんだよ、本物か?」
時田の額にしわが寄り、眉間に突き付けられているものの方に黒目が寄る。怯えるような目で、本物の拳銃かどうか見定めようとしているようだった。
「本物に決まってるだろ。死にたくなきゃ、出て行けって」
フラグは、USP拳銃の撃鉄を引いた。
「ひっ、ひやぁぁぁぁああああああ!」
時田は、尻もちをつき、ずるずると後ろに下がっていく。
「な、なんだよ、ひどいじゃないか!? ひどすぎるじゃないか!? 客を見捨てるのか? それでも、アリバイ屋か? 今まで、さんざん、高い金払ってきたのに、こ、こんな仕打ちをするのか?」
フラグは、照準を時田に合わせたまま、一歩踏み出す。
「や、や、やめろ! 撃たないでくれ? こ、こんなことをして、どうなるかわかってるのか? き、貴様のことを、警察に言うぞ。見てろよ。依頼を断ったことを、後悔させてやるからな」
拳銃を両手で包むように構え、引き金に掛けた人差し指に、力を込める。
「い、いやぁあぁぁああっ!」
乾いた音が響くと同時に、ドアを開けて、時田が逃げ出して行った。
ドアの横の壁に、銃弾の穴があいていた。
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