第25話 研究所長 井出雄二
「なに、一人で、ニヤニヤしてるの? まるで、ロットネスト島のクオッカみたいにさ」
窓際のフラグが電話を終えて、芽衣の方を見ていた。
自然と頬が緩み、ニヤけてしまっていたらしい。
”ロットネスト島のクオッカ”が何なのかはわからないけど、その問題はいったん放置し、口元を引き締めて、姿勢を正す。
「どうだった?」
「今から取材を受けてもいいってさ」
フラグは白い歯を見せ、親指を立てた。
二人で事務所を出ると、事務所の外に、くたびれたスーツを着た中年男が立っていた。男は、壁際に身を寄せ、フラグの顔を上目遣いで見ている。
「また、勤務時間中に行っちゃったんですか?」
フラグの質問に、中年男は、もじもじしながら、小さく頭を下げた。頭頂部は薄くて、波打つ髪が脂ぎっている。
「今日は無理です。明日、また、来てください」
JRと東京メトロを乗り継いで、秋葉原に出た。
芽衣は、フラグに先導され、待ち合わせ場所だという、喫茶店に入った。
「さっきの、人は、よかったの? お客さんじゃなかったの?」
「ああ、事務所の外にいた、あの人? あの人は、お得意さんだよ。何度もアリバイ工作をしてあげている」
「じゃあ……」
「いいんだよ。ちょっとぐらい待たせても。しょうもないことばっか、してるんだから」
その時、喫茶店の入り口が開く鈴が鳴り、総白髪の老紳士が入ってきた。
「おう、フラグ、久しぶりだな」
右手を挙げて、こちらの席に向かってくるがフラグの父なのだろう。芽衣は立ち上がって、頭を下げる。
「初めまして。この度は、わざわざ、東京まで出てきていただいて、ありがとうございます」
バッグから名刺を出して渡すと、フラグの父も、内ポケットから名刺入れを取り出して、中から一枚をくれた。
「いや、大丈夫ですよ。息子の依頼は、断れませんから」
『戦略的研究機関
渡された名刺に、そう書かれていて、芽衣は、言葉を失う。
フラグの父を見直すと、確かに、先週JSRAで記者発表していた研究所長で間違いない。
(ちょ、超大物……っていうか、
「親父、コーヒーでいいよな?」
フラグが、店員に注文を伝える間、芽衣は、どうインタビューしていくのか、頭をひねった。
一研究者ならば、いつかポロリと漏らすまで、あること無いこと質問し続けて、揺さぶるつもりだったけど、全てを把握しているトップということなら、直球勝負で、反応を見る方がいいかもしれない。
その反応自体が、真実を物語っていると言えるのだから。
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