第23話 不倫疑惑の真相

「じゃあ、芽衣ちゃん、帰ろうか。……芽衣ちゃん?」

 見上げると、田宮は立ち上がっていた。

 芽衣は、メモ帳をバッグにしまうと、返事もせずに、田宮を追い抜いて会場の出口へと向かう。



「芽衣ちゃん? 芽衣ちゃん、どうしたの? 機嫌悪いじゃん」

 駅に向かう坂道で、芽衣は、田宮に振り返った。

 優しそうに見える田宮の顔だけど、騙されないようにと、自分で自分に言い聞かせる。


「田宮さん、なんか、コソコソと、やましいことしていませんか? 私、許せないんですけど」


「はぁ? なに、急に? オレのこと? オレにやましいとこがあるかって?」


 芽衣がこっくりと頷くと、「ないないない。無いにきまってるじゃん。そんなことあるように見える?」と、田宮がおどけて見せた。


「不倫とか、してるでしょ?」


「は? なにそれ。そんなの、してるわけないじゃん。オレ、愛妻家だよ。知ってるでしょ、芽衣ちゃんも」

「だって、私、見たの……」

「見た? 何を? オレが、誰かと不倫しているところを? いつ? 誰と?」

「先週、鶯谷のラブホテル街で……」


 芽衣は、スマートフォンをタップし、現場を撮った写真を表示し、田宮に向ける。


「言い訳は無駄ですよ。写真も撮ったんだから。日南さんと並んで歩いているところを」


 田宮は、芽衣の差し出したスマートフォンを覗き込み、目をむいた。ただ、動揺しているようには見えない。ただただ、驚いているだけのようだった。


 田宮は、画像に指を置いて拡大してから、何かを思いついたらしく、顔を上げた。


「ははは。これか。あん時のことを見られたんだな。それで、芽衣ちゃん、オレを疑ったんだ?」


 芽衣は、じっと田宮を観察した。開き直るのか、ウソを突き通そうとするのか、見極めるつもりだった。


「あれは、取材だったんだよ。ミス・ハナにインタビューが出来るっていうんで、日南についていったんだ」


「ミス・ハナの取材?」


「ああ。一度、インタビューに成功したって聞いててさ、再度、アポがとれたっていうから、期待してついて行ったんだ。でも結局、アレンジしてくれたはずの情報屋のチョンボで、ミス・ハナには会えなかったんだけどね」


 芽衣は、飯島から聞いたミス・ハナの異様な初取材のことを思い出した。確か、インタビューの場所に指定されたのは、ラブホテルの暗い部屋だったと言っていた。


「ミス・ハナが、JSRAジェイスラの職員だって、知ってるかい? だから、オレたちの追ってる倫理違反の疑惑についても、なんか、役立つ情報が得られるんじゃないかなと、期待してね」


 田宮の話に矛盾は無く、芽衣の心の中にあるモヤモヤが晴れていく。


 田宮と日南は、不倫関係では無かった。


 芽衣の心の中は、おおよそスッキリとした。

 けれど、日南に対する心配が、まだ、ほんのちょっぴりとだけ、残ってしまっている。


(日南さんは、別に彼氏がいて、その男に、拘束されているんだ……。やっぱり、かわいそうよね……)

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