第21話 誰もいない実家

 情報屋のアジトを後にしたフラグは、思い立って、実家のマンションに立ち寄る。

 一年以上、帰っていないので、少し緊張していたが、JSRAジェイスラで働いているという、天才数学者のことをどうしても聞いてみたくなっていた。


 しかし、鍵を開けて中に入ると、誰もいなかった。

 ダイニングテーブルには、ほこりが被っている。その量は、1日2日のものではない。

 両親二人で、長期旅行にでも出かけたのだろうか。

 仕方なく、フラグは、実家を後にした。



 事務所に戻ると、ケーキの空き箱の入った紙袋をソファに置き、ヒップホルスターから、オートマチック拳銃USPを引き抜く。


 情報屋の調査結果次第では、その足で日南の彼氏を脅しに行こうと思って、持って行ったものだが、出番は無かった。


 名刺でカムフラージュされた箱に戻す前、念のために確認しておこうと拳銃から弾倉を外す。


「えっ」

 フラグは息を飲んだ。


 弾倉に装填されたパラベラム弾が、一発無くなっていた。



 フラグには、疾患があった。

 それは、きっかけも無く突然手が震え出すことと、頭に血が上ると、記憶が無くなってしまうということ。


 フラグは、USP拳銃の弾倉を見つめながら、今日の記憶を辿った。


 ユウカから紙袋を受け取ったところまでは、覚えている。

 しかし、その後、情報屋のアジトに着くまでの記憶が飛んでいた。


 記憶が無くなっている間に、どこかで拳銃を使ったのだろうか?

 誰か、人を撃ってしまったのだろうか?


 思い出せないまま、フラグは、ソファに崩れ落ちた。

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