第19話 不法侵入者
芽衣は、予想だにせず、不意に出てきたワードに、体がピクリと反応してしまった。
飯島は、それを見逃さなかったようで、眉をひそめて、口元だけ笑う。
「そういえば、
「だ、だ、だ、誰から、それを?」
「田宮さん」
(あのやろー)
その時、入口の扉が開いて、見慣れない集団が入ってきた。
ただ、先頭の男だけは、顔に見覚えがある。
(あの時の、私服警官だ!)
芽衣は、思わず、顔を隠したが、私服警官たちは芽衣には目もくれず、ぞろぞろと、奥の会議室に入っていく。
「どうされたんですか? 芽衣さん、あの人たち知っているんですか?」
芽衣は、会議室の入口を見つめたまま、体が硬直していた。
しばらくすると、私服警官たちは、編集長の置田を連れて出てきた。置田は、そのまま、会社の外に連れて行かれた。
「あれ、私服警官だったのよ……。編集長、連れて行かれちゃったね……」
「えっ? そうだったんですか? 編集長、な、なにか犯罪でもおかしたんですかね?」
芽衣には、心当たりがあった。
「やっぱり、あれは、編集長だったんだ……」
「えっ? ど、どういうことですか?」
以前、芽衣が、
「私よりも先に、編集長が
敷地内に足を踏み入れた時、突然、警告灯が真っ赤に光って回り出し、けたたましい警報音が鳴った。驚いた芽衣は、不法侵入してしまったことに気付き、踵を返して逃げ出した。
後日、私服警官から聴取を受けて以来、いつかは、こうなる気はしていた。
だから、その前に、なぜ、置田がそんなことをしたのか、確かめたかったのだけど……。
「編集長、なんのために、不法侵入なんかしたんだろうね……」
「そういうことですか……。それなら、僕にも、ちょっと心当たりがあります」
飯島の鼻息が、荒くなった。
「ご存知の通り、
「う、うーん……。い、いや……ちょっと言いにくいんだけど……。
飯島は、ぷっと笑った。
「まあまあ。ある意味、正解ですね。というのも、編集長は、自分が作ったUMA班で成果が出ないことに責任を感じていそうでしたよ。会議のたびに、『何か、手伝えることがあれば』って、言ってましたもん。日南さんは、冷たくあしらってましたけどね」
「なるほど。私にも、理解できたわ。編集長は、
「そうそう。きっと、そうだと思います」
「責任感が強い人だったんだ……。ご自分で、なんとか突破口を開こうとして……」
「だとしても、無茶ですよね。ジャーナリストだからって、法を犯していいわけが無いんですから。コンプライアンスを重視する世の中だってこと、わかってるんですかね? 時代錯誤ですね。だから、昭和の人間は、厄介なんですよ」
置田のやったことに関して、飯島の論調は、厳しかった。
芽衣は、何も言わず、ただ愛想笑いをしながら席を立ち、自分のデスクに戻る。
飯島はそう言ったけど、芽衣は、まん丸とした置田が切なく思えてきていた。
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