第13話 ユウカ、はじめてのフラグとの出会い

 初めて出会った時も、そうだった――


 水曜日の昼下がり、天気は良いのに、街ゆく人は少なかった。そんな道を選んだからなのかもしれない。

 慣れないスーツを着たユウカが、おばあちゃんの覚えたての名前を呼んだ時に、後ろから声をかけられた。

「あのー、すいません、ちょっといいですか?」

 それが、フラグとの最初の出会いだった。


「なんですか?」

 返事をしたのは、ユウカと並んで歩いていたおばあちゃん。でも、フラグの視線がユウカに向けられていることは、すぐにわかった。


「道路の向こうのオフィスビルの入口。あの入口の天井付近、見てみてよ」

 ユウカがフラグの指さした方を見ると、気になるものを見つけた。

 ユウカの胸がざわついた。


「なあに、あなた? 急に、何を言い出すの? 何が言いたいのかしら?」

「あと、さっき通って来た道、ちょっと奥まったところに、コンビニあったよね。あそこのコンビニ、この通りの車道まで、映るように設置してあるんだよ。知ってた?」

 フラグは、おばあちゃんと会話をするつもりは無いらしく、ユウカに向かって話し続けている。


「敵の多い自然界を生き抜いてきた生命体は、危険な目に遭うことを前提にして、最初から逃げる手段を準備している。キミの所属する組織も、一緒じゃないのかな?」


 言っている意味はよくわからなかったけど、フラグは、ユウカの正体を勘付いているようだった。


 ユウカは、区役所職員を名乗って、おばあちゃんの家を訪れ、仲良くなって、連れ出していた。これから、銀行のATMに向かおうという時に、足止めをくった。


 ユウカは、特殊詐欺グループの一員で、受け子をやっていた。


 完璧なはずだった。おばあちゃんは、騙されていることに気付いてないし、ユウカとおばあちゃんが歩く姿も、仲の良い祖母と孫に見えていたはずなのに。


「気をつけた方がいい。キミの組織がトカゲだとしたら、キミは、しっぽだ」


 向かいのビルの入口には、ドーム型の監視カメラが設置してあった。

 防犯カメラに映っているし、組織にとっての捨て駒になっているだけだから止めておけと、フラグは言っているのだ。

 フラグは、キツネ目をカッと見開き、突き刺すような眼光を向けてきていた――


 目の前のフラグは、あの時と同じ目をしていた。


 ユウカはドアを開け、フラグを部屋の中に入れた。

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