第三章 やさしく騙されて
第11話 ユウカと時田
山下公園。港の見えるベンチに座っていた立花ユウカは、届いたメッセージを確認すると、画面を消して、スマートフォンをバッグに戻した。
「なに? ユウカちゃん、誰かから連絡?」
「いや、違ったよ。ただの迷惑メールだった」
妹の佐知からだと思ったのに、違った。届いたメールは気になるけど、今は、それどころではない。
「でもさ、ユウカちゃん。こないだも、三万円、貸したじゃん。あれはどうなったのよ?」
ユウカの隣には、オタク系の中年おやじがいた。男の名前は、時田と言い、ユウカが働いていたキャバクラの常連客である。
「覚えてるわよ、使っちゃったけど。でも、ちゃんと、返すって言ってるじゃん。さっきも言ったけど、うち、店を辞めちゃって、今だけ、ちょっと苦しいのよ」
「今だけ? 今だけって、どういうこと?」
「うちも、だいぶと稼いだし、貯金もできたから、自分の店を開こうかと思って、不動産屋と工務店に前金を入れちゃったのよ」
「えっ、そ、そうなの? それは、知らなかったよ……」
「あれ? 言ってなかったっけ?」
「聞いてないよ。水臭いなあ。でも、ユウカちゃんなら、人気ナンバーワンだったから、そのお店、はやりそうな気がするよ。うん、絶対」
「そう思うでしょ? だから、今だけ、お願い。お金貸して。ね? 絶対返すから。なんだったら、倍にして返すよ」
「しょうがないなぁ。もう」
時田は、財布から、一万円札の束を出し、ユウカに手渡した。
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