第4話 田宮の協力
ホーホーホッホーと、どこかでキジバトが鳴く朝、芽衣の足取りは、いつになく軽かった。
いつも通る通勤経路なのだけど、いつもと気分が違う。着ている服が違う。
マネキンに着せた展示であっても、まず選ばないようなセンスだった。ただ、着る前は抵抗があったけど、上から下まで合わせて鏡の前に立つと、これはこれで有りかもしれないと思った。
そして、商店街に並ぶ窓に映して確認するうち、最寄りの駅に着く頃には、すっかり気に入ってしまっていた。
「おっ、芽衣ちゃん、おはよう。なんだか、いつもと雰囲気違うね」
会社に入るなり声を掛けてきたのは、同じ取材班の田宮
「そう? いつもと変わんないけど」
「いやいや。今日の芽衣ちゃんは、なんだか、大人っぽいよ。服のせい……かな? 服のセンスが、いつもと違うような気がするんだけど……」
田宮の軽口に、芽衣の浮かれ気分はすっ飛んだ。今日一日が危険に晒され続けることを予感して、田宮を廊下の端に押しやった。
「なになになに? どうしたの、芽衣ちゃん? オレに愛の告白? まずいよ、それは」
田宮は妻子持ちである。冗談なのか、本気なのか分からないこの手のコメントは、いつも、無視するようにしている。だから、当然、ここでも無視。
「田宮さん、この服、やっぱり似合わないかな? いや、似合うでしょ? いつも、こんな格好してるよね、私」
「え? 似合うかどうかは別にして、初めて見るんだけど、その服」
「いや、初めてじゃない。初めてじゃないと、思い込んでよ」
「は? 何それ?」
芽衣は、昨晩訪れたアリバイ屋でのやりとりを田宮に伝え、この服がアリバイを成立させるポイントなのだと説明した。
「アリバイ屋? そこで、アリバイを作ってくれるように頼んだって? 昨日、そんなところにいったんだ? なんで?」
「田宮さんのところにも、警察、来たでしょ? 私達が取材している
「ああ、
「あれ、私なのよ。ちょっと、勇み足をして、
「えっ? ウソっ!? マジでっ!?」
「マジよ、マジ。だから、アリバイ工作しようとしてるんじゃないの!」
「そ、そうだったんだ……。それで、アリバイ屋からもらったその服で、どこかの女とすり替わろうってことなの?」
「そうなの。私は、以前から、好んでこの服を着ていたことにしたいの。だから、協力して」
「協力?」
「出張とかで、たまに、この服を着ているのを見かけたとか、そういうことにして。周りが、否定しても、田宮さんは、私の味方をして。ね? お願い」
もし、不法侵入で捕まったりしたら、会社をクビになって、路頭に迷ってしまう。人生を棒に振る。
そう転ぶのも、好転するのも、今日一日にかかっている……いや、田宮にかかっていると言っても過言では無い。
芽衣は、田宮の腕をつかみ、「お願い。ね?」と、甘えたような声で、もう一度言った。
田宮が納得しているかどうかは、表情からは読み取れなかったけど、頷いてはくれた。
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