第2話 タカアシガニの謎
「キミの友達の依頼も面白かったよ。愛が行き過ぎて帰着するのは、人によって違うけど、自然界のどこかには存在する生き物と同じ行動を取るんだよ。彼女のケースは、タカアシガニと一緒だね」
(タ、タカアシガニ?)
芽衣の脳裏に、日南の顔が浮かんだ。
(そ、そういえば、焦って、自分のことばかり考えていて気にしてなかったけど、日南さんは、どうして、フラグを知っていたんだろう)
日南は、芽衣の二年先輩だが、芽衣は日南の私生活をほとんど知らない。
「
ただ、フラグに相談するということは、何かアリバイ作りをしなきゃいけない、ヤバいシチュエーションになったことがあるということなのだろう。
芽衣がフラグを見ると、フラグは、持ってきた衣装を袋に詰めていた。
「タカアシガニって、何ですか?」
「ごめん、ごめん。ちょっと、しゃべりすぎちゃったね。ゴメン、忘れて」
(そ、そんな、タカアシガニなんていうパワーワード、忘れられるわけ、ないじゃない。もう!)
フラグは、服の詰まった袋の持ち手を芽衣の方に向けた。
「じゃあ、そういうことだから、明日から早速、これ着てくださいね」
芽衣は、袋を受け取りつつも、状況をよく、わかっていない。
「これ、どういうことでしたっけ? なんで、これを着なきゃいけないんでしたっけ?」
「あれ、聞いてなかったの? まったく、もう……」
ポリポリと頭を掻いたフラグだったが、もう一度、説明を始めてくれた。
この服を着た女性が、アリバイの欲しい当日、終電まで、一人でバーで飲んでいたことが、複数のカメラに映っているという。
その女性とすり替わって、芽衣が、バーで飲んでいたということにするらしい。
「だ、大丈夫ですか? そ、そんなので、上手く、いきますか? 別人だって、すぐにバレるんじゃ……」
芽衣が言い終える前に、フラグは、胸ポケットから写真を取り出し、ローテーブルの上に並べ始めた。
芽衣が見ると、それらは、防犯カメラに映った写真で、どれも芽衣に似た女性が、受け取ったものと同じ服を着ていた。
「あなたに、似てるでしょ?」
「た、確かに……。でも、これらって……」
「少しは、質問を受け付けますよ。企業秘密もありますから、あなたの疑念に、どこまで答えられるかは、わかりませんけど」
フラグは、キツネ目をさらに細め、ニタニタと笑っていた。
芽衣には、確かめたいことがいっぱいある。
前のめりになってローテーブルに手をつき、口を開こうとした瞬間、フラグは、人差し指を唇に当ててきた。
「まあ、聞きたいことは、だいたいわかりますから、先に説明させていただきますね」
芽衣は、固まった。唇をこんなふうに触られたことなど、これまでになかった。
「まず、その写真に写っている女性には、入れ替わることの了承を取っています。その服も、女性から直接買い取りましたから、写真と全く同じものです。バーのマスターにも了解をもらっていますし、防犯カメラを見せてもらった警備員にも、口止めしています。警察が後から防犯カメラの映像を確かめに来ても、先にボクが見ていたことはバラされません」
芽衣の心臓は、激しく脈打っていた。フラグの指をどけようと思えばどけられたけど、そのまま口を開く。
「な、なんで、そ、そんな……そんなことが、出来るんですか?」
「アリバイ屋をなめちゃだめですよ。芽衣さん」
フラグは、唇に当てていた人差し指を、さらにぐいっと、押し込んできた。
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