第310話 2巻発売記念書き下ろし「お宝ハンター」
それは寒い冬の日、実家のあるライリーの城に帰って来ていた時の事。
「お母しゃま、これなに?」
私の幼い娘のエディット、通称小麦ちゃんが小さいお手々で絵の描いてある石を持ってきた。
私が以前描いて棚に飾っておいたものだ。
「あら、小麦ちゃん、それは石に絵を描いたものよ、ストーンアートと言うものなの」
「エディもお絵かきしたい、石ほしい」
「そうねえ、川っぺりなら良い石があると思うけど、今は冬だから寒いわよ?」
「さむくてもへーき!」
「じゃあ温かくモコモコ着込んでね」
「うん! モコモコになる!」
にこっとしてる褐色幼女、我が娘ながらかわいい。
褐色はギルバートの遺伝だろう。
エキゾチックな美女になりそうで将来が楽しみである。
「なになに? 何のお話?」
ここで息子登場!!
「川の側で石を拾いに行くのよ」
「ぼくも行きたい!」
そう言うと思ったわ。
「でもお外は寒いわよ」
さっきと同じ言葉を繰り返す私。
「さむくてもへいき! ぼくは強いので!」
「仕方ないわね、モコモコに着込んで行くのよ」
「はい!」
子供達はメイドにモコモコと着込ませたせいでペンギンのようなフォルムになってて、大変愛らしい。
思わず記録の宝珠の役割をしている板状のもので撮影をしてから、護衛騎士を数人連れて近所の川に出発することにした。
「エディがお母しゃまと猫に乗るの!」
翼猫のアスランが私の移動手段なので、子供達が取り合いのようになってる。
「ずるい! ぼくもお母様と乗りたい!」
「こらこら、喧嘩をしない、ディートフリードは父のドラゴンに乗ろう」
父親のギルバートが突然登場!!
私が出かけると聞いて駆けつけたようだ。
エテルニテの侯爵の仕事はどうしたのか?
まあ、後日やるとは思うけど。
「ワイバーンは強くてかっこいいわよ! 良かったわね、ディート!」
「私のメイジーはかわいいぞ! 白くて綺麗だし!」
両親の必死の説得。
「うー、お母様と乗りたい」
どうやら猫というより、私と乗りたいのかな。
子供はかなりの確率で母親が好きだからね、平民だとたいていご飯とかを作ってくれるからだとは思うけど。
料理人にまかせて楽してる私の貴族生活ではたまにしか料理してない、気が向いた時にはする。
でも、私は衰えを知らぬ容姿のおかげでか、ずっと愛されているわ。
SSRの美貌は子供を産んでも健在!!
「じゃあ帰りね! 帰りはディートと私が乗るから小麦ちゃんは帰りはお父様のワイバーンね」
「しょーがないなぁ」
かくして我々は空を飛んで冬の河原に来た。
「わー! 石がたくさんある!」
興奮した息子が声をあげた。
子供は石を見るとワクワクする生き物のようだ。
どんぐりを見つけても似た反応をする。
「この石、つるつる!」
「これ、色がきれい!」
「これ、形が面白い!」
「エディのが色がきれい!」
子供達が謎に張り合っている?
「ふたりとも、別にかまわないけれど、絵が描きやすい石を選ぶのじゃなかったの?」
本来の目的を忘れてそうなので私は思わず突っ込んだ。
「あ、そうだった」
娘は本来の目的を思い出した。
「絵を描くの?」
息子には石を拾うとしかそういえば言ってなかったかも。
「そう、小麦ちゃんは石に絵を描く予定なのだけど、ディートは好きな石を拾ってもいいわよ」
『あそこの石がおすすめだよ』
突然リナルドが颯爽と空を飛んで登場!
この子はモモンガ的な空飛ぶ妖精なのでよくあることだった。
「この石?」
『そうそれ、トンカチで割ってごらん』
「割るの!?」
驚いた私に、リナルドは
『それ水晶混じってるよ』
「なんですって!?」
金目の石!!
探すわ!
急にお宝ハンターになる私!!
「水晶だって?」
ギルバートや護衛騎士達がワラワラ集まって来た。
「私は水晶の混じった石を探すわ! 護衛騎士は子供達をよく見てて」
「かしこまりました。お嬢様、絵を描く石は私達と探しましょう」
女性の護衛騎士達二人が娘に付き添ってくれる。
「水晶……」
「お嬢様、水晶はそう簡単には見つからないと思いますよ」
「エディット、水晶ならお父様が買ってやるから」
「分かった」
『ディート、それ』
「リナルド、これも水晶!?」
『それは翡翠』
「またお宝石じゃないの!」
私が思わず叫ぶと、
「セレスティアナ、水晶や翡翠が欲しいなら俺に言ってくれたら」
「ギル! お宝は自分で見つけるのが楽しいのよ!」
「そ、そうか」
ストーンアート用の石を探すはずが一部脱線してお宝探しになったりした。
「っくしゅん!」
「あら、クシャミしたわね、小麦ちゃん、やっぱり寒いでしょ?」
「さむくないもん! コショウだもん!」
ここに胡椒はないのだけど。
「温かいホットチョコでも用意しましょう」
「チョコ!!」
「ぼくも飲む!」
こんなこともあろうかと、私はインベントリにいろんな飲み物を用意しているのだ。
テーブルセットをインベントリから取り出し、私は皆に温かいホットチョコを振る舞った。
「温かいな」
「おいしい!」
「甘くておいしい!」
などと言って喜ぶ姿を眺めつつ、ちょっと物欲が刺激されたりはしたけど、平和でいいなぁ、などと思った。
当然お絵描き用の石も十個くらいは見つけた。
さらに翡翠と水晶の石は私は二個ずつも発見できたし、子供達もいくつかお宝石を発見してた。
ほぼリナルドのここほれワンワン的なアドバイスのおかげではあったけど。
楽しい石拾いピクニックだった。
城に戻ってから、石に絵を描く前に子どもたちがおねむになった。
「ふたりとも、絵を描くのは明日にしましょうね」
「はぁい」
「わかりました、お母様」
子供達を暖かい部屋で寝かしつけ、子守唄を歌っていたら、私もいつしか眠くなって側で寝ることにした。
ふかふかの御布団の中で、スヤァ……である。
ーーーーーー
あとがき
書籍の方はWEB版と一部仕様が異なっており、とあるシーンが他の巻の方の他者視点で出る事になってたりします。
三巻もいずれ出るのでよろしくお願いします。
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