第309話 クリスマス書き下ろしSS 「殿下のプレゼント」

 それはまだ私が学生時代を過ごしていた、ある冬の始まりの日のこと。

 用事があってたまたま殿下がライリーを訪問していた時に、


「ギルバート殿下がライリーの裏庭の様子を宝珠で撮影していた?」

「はい」


 メイドからそんな報告を聞いた。


「表の庭園の方が見栄えはいいでしょうに。もう冬だから春のようにはいかないとはいえ」

「変わった方ですね」

「そうねぇ」


 後でなんで冬の裏庭なんか撮影していたのか聞いてみようかな。

 お茶の時間になったので、気になって殿下に聞いてみた。



 お茶受けはドライフルーツ盛りだくさんのフルーツケーキだ。

 中にはいっているドライフルーツは、レーズン、オレンジ、りんご、チェリー、アーモンド、胡桃。


 紅茶と一緒に美味しくいただいている。



「あれか? 聖者の星祭りもあるし、プレゼント用だ」

「プレゼント? 私にですか?」

「いや、これは自分にだ。俺用」


 あら、先走ったわ、恥ずかしい。

 あつかましい女だと思われたかしら。

 でもわざわざライリーの裏庭の映像を撮っていたらしいから、私宛か家族宛だと思うわよね。


「其方には別の物を考えている」

「……失礼しました。ありがとうございます。自分へのプレゼントもいいですよね」


 この世界でも自分へのご褒美やプレゼントを贈る人がいたとは、流石である。

 時代を先取りかな。



「冬の寂しげな裏庭の様子が役に立つのです?」

「ああ、そのうち其方にも見せるゆえ、楽しみにしているといい」


 そう言って、殿下は王城に帰って行った。



 星祭りの日の数日後、私は宝珠のデータと手紙を受け取った。

 データを再生して見て見たら、王城の背景と殿下が出て来た。

 この背景は王城のサロンだろうか? 豪華だ。


 殿下が紫色の布の包みを開けたら、額縁入りの絵が出てきた。



『題名は鶏を引き連れて歩く少女だ』


 宝珠の中の殿下がそう説明してくれた。


 それはエプロンドレスの愛らしい少女が鶏を引き連れて裏庭歩くほのぼのとした春の絵だった。

 てかこれは10歳くらいの時の私じゃないの。


 なんでか冬庭を撮影してたけど、画家に見せる為の庭の参考資料だったのね。

 春の風景に描き換えられていたけれど。



「わざわざこんな物を……」


 我ながらかわいいけども。


 映像データは3分くらいの短さで終わった。

 まるでビデオレターのようであり、タイトルと絵の紹介だけだったけど。

 宝珠と共に添えられていた手紙には、


『かつて見た其方の姿が、童話の挿絵のように綺麗で可愛いかったから、絵に残しておかねばと思ったのだ』


 と、手紙には書かれていた。


「あらあら、殿下は私の事が好きすぎるわね」


『これで城でも辛い冬も乗り越えられる』


 とも、書いてあり、照れるわ。


「平民の家と違って、暖炉の薪やエアリアルステッキもあるし、特別寒い訳でもないでしょうに」


 最後には、


『春までなかなか会えないから』



 と、手紙の終わりに書いてあった。

 本当に私の事が好き過ぎるな、あの人。


 ……可愛いすぎるな。

 ほとんどラブレターみたいになってるじゃないの!!



 と、いうような懐かしい夢を見ていた。

 目が覚めたら暖炉の前にいた私。


 どうも編み物をしながらうたた寝をしていたようだ。

 編みかけのスヌードや毛糸や編み棒は机の上に移動していた。

 暖炉の前だから、毛糸玉をポロリして蹴飛ばしたりしないようにという気遣いだろう。


 私は寝起きの目覚ましに、テーブルの上にあった冷めた紅茶を飲んだ。

 冷えてても美味しい。


「……」


 今もあの春の陽だまりのような絵は、王城の殿下の部屋にずっとあるらしい。

 今はライリー内に専用の部屋を貰っているギルバートではあるけれど、たまには王城に帰る理由ともなるかのように。


 ちなみに私の編みかけのスヌードの糸は、夏空の青と銀色混じりの白を使った物だ。


 これが誰の色を表しているかは、見る人が見れば分かるだろう。

 新年のお祝いとか、冬が終わる前には、彼の人に贈りましょう。

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