第305話 私の帰りたい場所

 チュンチュン。

 朝……朝チュン状態じゃないの……。


 昨夜はギルバートと新婚初夜だったから、今も隣で寝てる。

 私も最後は気絶のように寝た。


 だって出会ってから、ずいぶん時が経って、いくらかなりの時間待たされたって、昨夜は情熱的過ぎたんじゃない?


 新婚初夜とはそういうものかな?


 とりあえず下半身に違和感が有るけど、お風呂に入りたい。

 ヨロヨロと寝室の奥にある、やや小さめの浴槽に移動する。

 気を効かせた誰かがお湯をはってくれているし、魔石が保温してくれていつでも入れる。


 体を洗って、湯船に浸かってホッと息をつく。

 お風呂から上がると、脱衣所にはちゃんと新しいバスローブも用意されてある。


 私はバスローブを着て、エアリアルステッキで髪を乾かし、夫婦の寝室へ一旦戻ると、ギルバートはまだ寝ていたので、起こさないように、夫婦の寝室から私の為に用意された自室への扉を開いた。


 部屋に入って、私はドレスに着替えた。


 バタン!! ガタン!! バタン!! ガチャ。


 隣の寝室から派手な音が聞こえた。

 どうやらギルバートが起きたらしい。


 彼もお風呂場に行ったのかも。

 これから新婚旅行の為に島に行くから、麦わら帽子を被って夏用のリゾート風ワンピースにしよう。

 朝食は島で食べようって話をしていたし。


 しばらくして、入浴後に慌てて着替えて来たらしきギルバートが部屋をノックしてきた。


「すまない、今さっき起きた」


 ギルバートの顔が赤い。


「おはようございます。ギルバート。私の入浴が先に済んだのでちょうど良かったですよ」

「こ、ここじゃなくて島で食事をしたいのだったな?」

「そうです!

すぐに移動出来るように準備をしていました!」


「わ、分かった。その……体は大丈夫なのか?」

「な、なんとか大丈夫です」


 *


 転移陣を使って南国リゾートのような島に来た。

 エメラルドグリーンの海がとても綺麗な所だ。


「川の方、船に乗って水上マーケットですって! ワクワクしますね!」

「はしゃいで船から落ちないようにな」


 はーい!!


 *


 ここの水上マーケットは朝の8時から10時くらいが一番活気があるらしい。

 南国フルーツの香りがすると思ったら、船で近寄る果物売りのおばさんが声をかけてきた。


 彼等は押し売りみたいにアピールしてくる。

 いらない物は断る勇気が必要らしいけど、この小ぶりのオレンジ色の果物はとりあえず買おう。


「三個いただくわ」


 南国フルーツを三個買って、一つを半分こにして、ギルバートと分けて食べた。

 甘くて美味しい。

 残り二つは後方の船にいる護衛騎士に投げた。


「投げるわよ! 受け取って!」

「はい!!」


 ナイスキャッチ。


 そう、後方からはちゃんと護衛騎士達が船でついて来ているし、竜騎士は空中から我々を見守っている。

 船頭の案内でカヌーのような船でマーケットの川を行く、両サイドに色々お土産屋や食べ物屋も並んでいる。


 船頭はオールを操り、器用に私の指示したお店の前へ向かう。

 店の人はせっかくの客は逃さぬと、傘の持ち手のような先の曲がった杖で船のヘリを引っかけ、引き寄せ、店の前に止めおく。


 串焼きのお店だったので、私は串焼きを買う。


「やっぱり其方はここでも串焼きか」


 ギルバートに笑われた。


「良いでしょう、私らしくて。朝食ですから、ギルバートもしっかり食べて下さい」

「ああ、食べるよ」


 南国の日差しが降り注ぎ、船頭がオールを漕ぐ度、パチャパチャと水音が響く。

 私とギルバートは船の上でゆったり景色を眺める。

 とても気持ちがいい。


 カゴバッグの中には小さくなってるアスランと、ぬいぐるみのリナルドがこっそりと入ってる。


「あ、あの青いティーカップと香水瓶可愛い」

「カワイイよー ヤスイよー」


 店のおばちゃんも可愛いさと安さをアピール。


「その青いカップと紫色の香水瓶からピンクの香水瓶まで全部を包んでくれ」

「アリガトー、オニーサン、スッゴイオトコマエ〜」


 ギルバートが雑貨を買って、また船は進む。


「カワイイヨー、ハナガラキレイヨー、キレイナアナタニ、トテモニアウヨー」

「花柄のキレイな布ね、そっちのカゴバッグと一緒にお土産に買って行こうかな」


 私は可愛いカゴバッグが並んでいたので、いくつか指を差して買っていく。

 財布は凄い速さでギルバートが出して、支払いをしてくれた。


「アリガトネー」



 その後は南国フルーツを爆買いして、インベントリに突っ込んだ。

 マンゴーそっくりのマンゴール、メロン、ココナッツ、ドラゴンフルーツに似た物など。


 買い物と買い食いとクリスタルで撮影もして、私達は水上マーケットを楽しんだ。



「見て下さい。旅の記念に変なお面を買いました」


 私はギルバートに、シャーマンを表現したらしい変なお面を被って見せた。


「世界一、可愛い顔が隠れてしまったな」

「あはは」


 またそんな事言ってー!

 でも私、本当に見た目だけは可愛いからお世辞でもないかも。


 しばらく変なお面のまま島の街中を歩こうかと思ったけど、ギルバートが止めてくれと言うので外してインベントリに入れた。


 レストランへの道の途中、ハイビスカスのような花が咲いている場所で、一つ手折ってギルバートは私の麦わら帽子に飾った。


 その後はお昼に海が見えるレストランに行って、蒸し鶏の胡麻ドレッシングがけみたいな料理やメロンなどをいただいたりした。


 夕陽の時間に砂浜を歩いた。


「オレンジ色の夕陽っていつ見ても綺麗ですね」


 クリスタルでしっかりと撮影して、旅行から戻ったら両親や弟に見せよう。

 私は板状のクリスタルを構えた。


「こっちも綺麗に撮れたぞ」


 いつの間にかギルバートもペンダント形のクリスタルを握って、夕陽と海と私を撮影していたらしい。


「男前の王子様、こっちも目線下さい〜」

「何言ってるんだ、ずっと見てるだろう」

「そうだけど、そうじゃない〜」


 私も夕陽と海とイケメンの王子様で旦那様を撮影した。


 嘘みたいだね、日本じゃ普通のオタクの社会人だった私が、異世界で王子様と結婚するなんて。


 この夢みたいな現実と美しい時間と場所をしっかりと記録しておこう。

 夕陽の見える海辺でも、ロケーションが良すぎるせいか、急にギルバートがキスをして来て、それから、私をぎゅっと抱きしめてきた。


「やっと、俺のものになったって気がする」


 本当に嬉しそうに笑ってそう言った。

 し、新婚旅行だからね、これくらいは普通だよね。


 照れながらも、さっと周囲を見たら、紳士的な護衛騎士達は「いやー、綺麗な景色だなー」とか言って、違う方向を向いていた。

 わ、わざとらしいけど、優しい。


 しばらくして、太陽が水平線の向こうに沈んだ。



「夜市を見た後はライリーの別荘に帰りましょうね」

「島に泊まらなくて良いのか?」

「ライリーが一番落ち着くので、寝る時は帰りましょう」

「やれやれ、慌ただしい新婚旅行だ」


『温泉地には神様とボクからの結婚祝いの贈り物の温室が待ってるよー』


「え!? 温室!? 実現したの!?」

『外装とかガラス張りでほぼ完成してる、後は温泉をひいて内部を暖かく保つ工事だけすれば完成〜』

「あ、ありがとう!!」


 神様、ありがとうございます!


「後は海辺の白い別荘だが、シエンナ姉上のいるエーヴァ領に用意してあるぞ」

「今度行きます!」



 よく考えたら、こっちでも一泊くらいしても良かったけど、やっぱり私はライリーが、地元が大好きだから、いつだって、あそこに帰りたいのだ……。


 言った通りに、私達は夜市を回った後にはライリーの温泉地に戻った。



 私が寝床に入ると、二匹のふわふわも潜り込んで来た。

 リナルドとアスランだ。リナルドは私のお腹の上で寝るつもりのようだ。

 アスランは私とギルバートの間に挟まるようにして丸まった。

 両手でもふもふをそれぞれ触れるとなんとも心地良い。至福の時。

 


「おい、リナルド、俺とセレスティアナは一応新婚なんだって事は分かってるよな?」

『もちろん、謹んでお祝い申し上げる。明日は二人に妖精の森の蜂蜜酒をあげるよ』

「ミード! 嬉しいわ」

「やれやれ、仕方ないな」



 ギルバートはやや不満げではあったが、アスランを撫で、私の頬におやすみのキスをしてから寝た。

 ごめんね、朝、目が覚めたら、明るい時間に一緒に温室を見に行こうね。


 ──明日からもまた、お楽しみはまだまだ、沢山ありそう。



 眠りに落ちる前にふと、前世での家族を思う。


 異世界の、前世の家族や友人達も、もうそちらには、手は届かないけれど、出来るだけ多くの幸せを感じていてくれますように。


 私はこれからもここで、この愛おしいライリーの地と人々を守って行こうと思う。


 ──少しでも多くの癒しと、幸せを、愛する者達と、分け合っていけますように。


 私の愛する者たちに、幸いあれ。



 〜 完 〜



 ご愛読ありがとうございました。



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