第304話 私の結婚式
「わあ、このドレス用のレース飾りは着脱可能なのですね」
「そうよ、リナ。お洗濯もしやすいし、万が一ほつれでもしたら修復しやすいの」
前世、ネットで着脱式のレース飾りのドレスを見て、これだ! と思った。
透け感のある白いチュールレースに沢山の白い花とレースとダイヤを飾りたてる。
このチュールレースは着脱式で、背中側、後ろで留められる。
下に無地の真っ白いドレスを着て、この上にレースの外装を付けるデザイン。
この繊細なレースを着脱式にすれば、洗濯も可能だし、万が一レースに不具合が出たら修復もしやすい。
花嫁衣装なので、何度も着る訳じゃないけど、私は貧乏性なので、豪華な生地を使うと、飾りや刺繍などを足せば違うドレスに生まれ変われるし! と考えてしまった。
「三国一、いえ、世界一美しい花嫁さんになりますね」
「リナ、言い過ぎよって言いたい所だけど、私、両親が素晴らしいせいで、容姿だけは本当に綺麗だと思うわ」
あはは!!
今私がしているのは、真っ白な花嫁衣装の着付けである。
時は流れ、冬は過ぎ、春が来て、自分の誕生日を迎えて、翌日が結婚式というスケジュールだった。
「お嬢様、こちらへ移動して下さい。お化粧をいたします」
お化粧をしてくれる美容要員に呼ばれ、鏡台の側に移動。
「はい」
「本当に綺麗です、マスカラ使わずとも睫毛はバサバサで長くて、お目目は大きく、愛らしく、瞳の色は新緑の宝石のような輝き……」
近くで見学しているリナがうっとりと私に見惚れているようだ。
本人も可憐なリリアーナ姫の中に入っているから相当の美少女なんだけど。
「結婚祝いの品も凄かったですね」
「ええ、ギルバート様がリナルドとコソコソしていた理由が分かったわ」
結婚祝いの目録を見ながらリナはまだ興奮している。
「ミキサーとフードプロセッサーがあるの凄く助かります!」
「私ねえ、それでかまぼことか作って欲しいの」
「このリナにお任せ下さい! お魚のエソとかで作った事があります!」
「揚げたてのさつま揚げみたいなのも食べたいので」
「はい!」
ここに薩摩はないけれど……。
前世日本人だったリナには通じるから超助かるわ。
「お嬢様、動かないで下さい」
「あ、ごめんなさい」
必死でメイクしている人の前でベラベラ喋り過ぎたわ。
ごめんね、メイクさん。
「モントバ伯爵様が到着されました。鳩の準備も万端らしいです」
「ありがとう」
「鳩! 結婚式っぽいですね!」
リナが大神殿の窓から外を見た。
本日は快晴!
うららかな春の日だ。
「メイク仕上がりました。本当にお綺麗ですわ。お嬢様」
「ありがとう」
さて、今から両親のいる控え室に行って、例のアレ。
今まで育ててくれてありがとう的な事を言うシーンがついに来てしまう。
控え室の扉がノックされ、リナの声で伝えられる。
「お嬢様の御支度が整いました」
「入れ」
「失礼いたします」
かくして扉が開かれて、麗しい両親が花嫁の両親として着飾って、椅子に座っていた。
お父様が、椅子からガタンと立ち上がった。
「いつも綺麗だが、本当にいつにも増して綺麗だな、我が娘は」
「ありがとうございます、お父様」
お母様の方を見ると、言葉も告げずに、瞳が潤んでいる。
あ、ハンカチで目元を拭いた。
私まで釣られて泣きそうになる。
でもさっき綺麗にメイクしたばかりだから、耐えないと。
「お父様、お母様、今まで大事に育てて下さってありがとうございました。
今までも幸せでしたが、これからも幸せに生きていきますね」
「……うっ、私の可愛いティア、ギルバート様と幸せにね」
お母様は立ち上がって私を優しく抱きしめてくれた。
「シルヴィア、泣くと化粧が……」
「う、分かっていますが、仕方がないのです……」
いつもほぼクールなお母様が泣いているので、よっぽどである。
「姉様とはボクがケッコンしようと思ってたのにな」
じっとお母様のそばでいい子にしてた弟のウィルが突如ポツリと愚痴をこぼした。
お母様は私から腕を離して、私達は弟を見た。
拗ねたような表情をしている。
「あら、ウィル、結婚が何なのか知っているの?」
私はくすりと微笑んで、問うてみた。
「ずっと仲良しで一緒にいるって約束するんでしょ?」
「だいたい合っているわね。
でも私は結婚しても、旅行の後はほとんどライリーのお城にいるから、ウィル達と一緒よ」
「ほんと? 遠くに行かない?」
「ええ、大丈夫よ」
気がつくとリナまでもらい泣きしていた。
ラナンはクリスタルで撮影係をしていて、リナルドは泣いてるリーゼが持っているんだけど、涙をぬいぐるみのリナルドで隠してる?
『ちょ、ボクで涙を拭うのをやめよう、リーゼ』
「うう、つい、うっかり、すみません」
未だぬいぐるみの中にいるリナルドが面白い事になってる。
ラナンの撮影してるクリスタルの映像は後でギルバートに見せてあげるのかも。
──お母様の次に、お父様が抱きしめてくれた。
「幸せに……ティア」
私の大好きなお父様のとても優しい、いい声が耳に響く。
「でも結婚しても私はライリーの城に居座るので大丈夫ですよ。
新婚旅行の後、新婚時はギルバートの温泉地の別荘でしばらく過ごしますけど」
「そうだな、砂糖とチョコの畑もライリーにあるからな。
あれはティアが住んでいる土地でしか実らない神様のくださった魔法植物だから」
お父様が優しく弟の頭を撫でた。
「そろそろお時間です。新郎がお待ちかねですよ」
「はい、ただ今、参ります」
私は返事をして、控え室を出て、お父様のエスコートで……バージンロードを歩く。
結婚式に来てくれた参列者の間を、敷かれた絨毯の上を、ゆっくりと歩く。
大神殿の誓いの間で、聖下が祝福と見届け人の神父として立っていた。
その近くには新郎のギルバートが白い燕尾服で立っている。
黒い燕尾服とどちらにするか悩んだけど、褐色肌には白いの似合うから白にしてくれと頼んだ。
最初にあった時は7歳の可愛い少年だったのに、ずいぶん背が伸びて逞しい身体付きのかっこいい男の人になった。
蒼く美しい瞳が少し眩しげにして、私を見つめていた。
大神殿には厳かな音楽と巫女達の美しいゴスペルが流れていた。
壇上まで歩いて行くと、歌と音楽がピタリと止んだ。
これより、エスコートが花嫁の父から花婿に交代となる。
手にしていたブーケを一旦、巫女に手渡す。
私はギルバートの隣に立ち、聖下の祝福の言葉を聴いた。
聖なる蝋燭に一緒に火の魔石で火を灯し、その後に、二人で誓いのキスをした。
歓声と拍手が聞こえた。
巫女が再びブーケを手渡して来たので、受け取り、純白のドレスで歩き出す。
ギルバートのエスコートで大神殿の出口付近に設置された花のアーチの所に立つと、近くにいたモントバの伯爵とアシェルさんがいた。
アシェルさんも忙しい中、駆けつけてくれたのね。
昔からいつも私達を助けてくれていた。
いつも宝石のように美しいグリーンの瞳が優しく見つめてくれていた。
伯爵が何か小さく言葉を発して、アシェルさんが伯爵と同時に片手を挙げた。
その瞬間、沢山の白い鳩が一斉に飛び立った。
わあ──っ!!
蒼穹の中を飛ぶ、美しい白い鳥の演出に盛り上がるギャラリーがまた歓声をあげた。
「え、あの鳩の演出私の娘の結婚式でもやっていただきたいですわ」
「その際はお任せ下さい。うちの鳩です」
「まあ! ありがとうございます! よろしくお願い致しますわ」
どこぞの夫人の言葉に得意げに応えるモントバ伯爵。
「ギルバート様! おめでとうございます! お幸せに!」
「やっと念願叶いましたね! こっちも感無量です!」
「「末長くお幸せに!!」」
ギルバートの側近のエイデン卿や護衛騎士達が祝福の言葉を贈ってきた。
「皆、ありがとう!!」
ギルバートも最高の笑顔で応えた。
花吹雪が舞っている。
道に立ち、祝福に駆けつけた人達が花弁を撒いてくれてるのか。
皆様、ありがとうございます。
さあ! ブーケトス!!
私は参列者のまだ未婚っぽいレディ達のいる方向にブーケを投げた。
「あら!?」
投げたブーケを受け取って自分で驚いてるのは、最初に学院で友達になってくれたオリビア嬢だった。
私に鯉をくれた家門の令嬢だ。
きゃあきゃあと盛り上がる、ギャラリーのレディ達。
この後はまた花車というか、目いっぱいの花で飾られた馬車に乗って結婚パレードだ。
なんてったってシーサペントを倒した勇者で第三王子の結婚だものね。
華やかです。
馬車を先導しているのはギルバートの竜騎士達。
横と後ろで護衛しているのが私の護衛騎士達。
街道を賑わす市民の皆様。
「お幸せに! 使徒様! 勇者様!」
「セレスティアナ様! 世界一お美しいです!!」
「グラジェルドの新しい夫婦に祝福と栄光あれ!」
祝福の言葉がかけられる。
皆、ありがとう。
私達がパレードに出てる間に参列者には裏方が引き出物とかを配ったりしている。
火の魔石と光の魔石も冬越しが厳しいあまり裕福ではない家庭に優先的に配られる。
パレードの後に、グランジェルド城内の式場でご馳走とケーキが待っている。
シエンナ様や王太子妃も子供が産まれたばかりなのに、祝福しに出て来て下さった。
元気なお子様、出産おめでとうございます!
馴染みのライリーの騎士達も交代で来てくれていた。
沢山の祝福に囲まれた、素敵な結婚式だった。
結婚式が終わり、転移陣で温泉地の別荘にて入浴。
「お疲れ様でした」
「ええ、皆、今日はありがとう」
ラナン、リナ、メイドがお風呂について来てくれてる。
リーゼはお風呂の扉前で警備。
さて、この後、夜です。
新婚初夜です。
キャ────ッ!!
可愛くてセクシーなベビードールを着て、寝室で待つイベントがある。
緊張するし、ドキドキするし、恥ずかしいしで、脳内はプチパニックだけど、表面上は冷静を装う。
一応貴族なので!
だ、大丈夫、問題無い。
結婚したレディは皆、これを乗り越えてきてる。
ドキドキしながら体を拭かれ、髪をエアリアルステッキで乾かし、ガウンを羽織って、いざ、寝室へ……である。
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