第294話 庶民、国王に謁見する

「とにかく国規模の事だ、王に謁見許可を求め、要望を直接話して貰うしかない」


 ギルバートの言葉にびびりまくるリリアーナの中の人……。

 震えてる……可哀想、守ってあげたくなるわ。

 ロルフ殿下の気持ちが分かる気がして来たわ。


「は、はい……。我がままで申し訳ないのですが、怖いので、一緒に行って下さいませんか?」


 リリアーナ姫の中の人は私を見てお願いしている。


「ええ、でもとりあえず、貴方の本来のお名前をうかがってもいいかしら?」


「あ、すみません、美園ユリナです。」


「なるほど、中の人の実名はユリナさんなのね。

確かに知らない所に来て不安でしょうから、王城まで私も同行致しましょう」


 ユリナとリリアーナか。

 どっちも百合系の名前で不思議な縁なのね。


「はい! ありがとうございます!」


 ユリナは嬉しそうに笑った。



「ところでセレスティアナ、話は変わるのだが、エテルニテの方は次に何をするか決めているか?」


「エテルニテの方は今度宿根野菜を植えてみたいと思っています。

根っこが生きていればまた勝手に毎年生えるみたいなのだと、あまり手がかからずいいかと」


「例えば?」


「ワイルドストロベリーですね。他はニラ、バジル、トマトなど」


「ほう、苺は良いな」


「ええ、ニラが恐らくは抗生物質の、お薬のような役割を果たしてくれます。

やや生命力が強すぎる所もありますが」


「ティア様は色々ご存知で賢いのですね」


「い、いきなり愛称で……」


 ユリナの言葉にギルバートが唖然とした顔をした。

 俺ですらまだ愛称で呼んだ事ないのに的なショックなのかな?


「あう、すみません、お名前を全部呼ぶと噛みそうだったので」

「私は愛称でもかまいませんよ。ギルバートも、リリアーナ殿下も」


「ありがとうございます! 私の事はリリとでもユリナとでも呼んで下さい」

「べ、別に、私は」


 ギルバートは謎の意地をはっていた。



 * *


 王城にて国王夫妻とサロンにて謁見。

 内密の話をするので騎士の立ち並ぶ謁見の間ではない。


 リリアーナは私が転生者だと言う情報だけ伏せ、自分がリリアーナとは中身が別人だと言う、私達にした説明とほぼ同じ話を国王夫妻にした。


「我が国の庇護下に入りたいからヴィジナードの支配権を渡すとな、しかし、そちらの貴族達の反発は強いだろうな」


「王都の戦える有力貴族男性のほとんどは、有事ですから前線に出て、魔族や魔物との戦闘で亡くなったようです……戦争にはお金もかかりますよね? 戦力も復興の為の資金も今、ヴィジナードには不足しています」


「ぬ……」


 王は立派なヒゲを撫で、眉間に皺を刻んだ。


「正直、既にろくに機能しないだろう王室は解体、王政を廃止して、身分差の無い共和国でも作って欲しい所ですが、攻めて来る計画を立てているゲースリ国の脅威と魔族襲撃後で混乱してる時は強力な指導者などがいた方が心強いだろうし、大国に縋る以外、私には思いつきません。

地方の貴族や戦場に出る年齢ではない、お子や女性などは残っているでしょうが、その者達に戦う体力の無い今、ゲースリと戦って国を守れと私が言っても無駄死にが増える気がします」


「ゲースリに今、戦う余力があるのは何故か」

「風の精霊によれば、魔王信者が生贄を多く捧げているせいで魔族、魔物の被害が比較的少なかったのだろうと」


 ゲースリがそこまで危険な国だとは……。


「そうか、王都の有力貴族の成人男がほぼ逝ったか……。

しかし、我が国に支配権を渡すという事、王都以外の貴族を宥めるのは大変そうだ」


 重い現実……。


「リリアーナ王女、いえ、中身はユリナでしたか、一つ、どうしても気になる事があります。

私のロルフに酷いことをした貴族の子息とやらはどうなったか知っていますか?」


 王妃が厳しい顔つきでユリナに問うた。


 愛する息子が毒と呪いの二重攻撃を受けたので、未だ怒りが込み上げるのも仕方ないとも言える。


「あの男は、魔族襲撃の際、姑息にもどさくさに紛れてリリアーナ姫を手に入れようとしたようですが、乳母の手により、こ……その、処されました。

騎士ではなく、乳母は女性だったから、油断したんでしょう」


「死んだと?」

「はい」


 王妃はふう──っと、深く息を吐いた。


「この手で例の男を処せなかったのは残念ですが、そうですか、死にましたか……嘘では無いでしょうね?」

「は、はい」


「王妃様、口を挟んで申し訳ありません。占い師の方にその例の男が存命か調べていただく事は出来ませんか?」


 地味に疑われているユリナが可哀想なので私も援護する。


「ああ、なるほど、すぐに占い師のラーラを呼んでちょうだい!」

「はい」


 返事をした執事がすぐにサロンから出た。


 しばらくして占い師が登場した。


 水晶を使って占いの結果、「確かに乳母の手で刺殺されております」

 刺殺だった! 死因まで判明した! 

 この人が殺人事件の起こる推理漫画にいたら謎が全て解けちゃう!


「そうですか……確かに死んでいるようですね」


 王妃はパチンと手に持っていた扇子を広げて口元を隠し、目を伏せた。


「して、その乳母は?」


 今度は国王が乳母のその後を気にしてユリナに問うた。


「この身に残る記憶によれば……とても忠誠心の高い乳母だったようで、緊急事態用の抜け道に姫と王子と騎士数人とメイドを逃し、乳母が自分で抜け道を塞いだので、恐らくは魔物襲撃の際の囮になって亡くなっています」


「確かにその通りのようです」


 占い師も肯定した。


「そうか、立派な乳母だったようだな」

「そうですわね」

「それと、一つだけ、国を併合される件で隣国の貴族を宥めるのでしたら、聖女並みのカリスマを利用するのが無難です」

「カリスマ……やはりそれしかないか」


 占い師はそう進言してサロンより退出した。


 あれ? 隣国併合の事、あの人には話して無かったと思うけど、見抜かれてる。

 やはり有能な占い師だわ。



「さて、隣国まで行って政治を行う者が必要だな。

……息子にやらせるか。

ロルフはあの国で魔物退治などして尽くしていたのだし、ちょうど良かろう」


「陛下、ロルフ兄上が隣国の支配者になるのなら、ルーエ侯爵領の方はどうなりますか?」


 ギルバートが口を挟んだ。


「そもそも最初はギルバート、其方に渡した土地だ。

其方とセレスティアナ嬢との間に子が産まれたら譲るなりして、しばらくは代理領主を立てるといいだろう」


「は、はい……」


 急に子供とか言われてギルバートもドキッとしたみたい。


 まだ子とか産まれてもいないのに……。

 プレッシャーである。


「して、リリアーナ王女は今後どうしたいのだ、身の振り方は」


 国王の問いは再び彼女に戻った。

 王なのに勝手に処遇を決めずに、まず聞いてくれるあたり、この国王様は優しいと思った。


「私は、中身が政治など無理なただの庶民ですから、セレスティアナ様のメイドになりたいです!

もしくはライリーの厨房で料理人など。

とにかくセレスティアナ様のお側にいたいのです!」


 あら……。

 でも急に訳の分からない世界に来て、同郷の人がいたら側にいたい気持ちは分かる。


「………ぬう、まさかのメイド希望とな? セレスティアナ嬢はどうなのだ?」


「私は……かまいませんが、それ、通るのですか?」


「力ずくでも通すしかあるまいな。

その為にもロルフがあちらの民に受け入れてもらいやすくするのに、セレスティアナ嬢には助力を頼みたい」


「私に……助力……でございますか?」


「リリアーナ王女は貴重な浄化能力者のいる我が国に、保護と大地の浄化を求める為に、自ら女神の使徒の従者になると嘆願したと言う事にすれば、生き残りの貴族や夫人達からの風当たりも弱まるかもしれん」


 私の従者! そ、そういうことにするのか。


「私は隣国で浄化を行えばいいのですね。承知致しました」


「女神の使徒のセレスティアナの従者と言う事なら、神職に近い気もするから、そう悪くもないのかもしれないな」


 ギルバートは天井を見ながらそう言った。


「もちろんゲースリの動きには最大限警戒しつつ、ギルバート、ガーディアンとしての責務、分かっておるな?」

「はい。お任せください」

「ありがとうございます、皆様」


 ユリナは幾分ほっとしたようだ。


 私は中身ただのオタクなんだけど、でも非業の死を遂げたリリアーナ王女があまり人から責められないように、盾になる為にも、隣国の人の前では多少は演じるしかないか、高貴な存在を。


「リリアーナ姫には巫女服を着て私に付き添っていただきましょう。

歌を拡散する為に必要な風スキルもあるようですし」


「かしこまりました。ティア様の側にいられるなら何でもいいです」


 ユリナもそれで合意した。

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