第293話 リリアーナ姫の秘密
「え、ロルフ殿下が結婚ですか? それも冬の聖者の星祭りの日に?」
「そうだ。国民も明るい祝い事があれば嬉しいだろうと。
春には私もセレスティアナと結婚式があるし、兄が先にした方が良かろうという事情も有る」
「まあ、おめでとうございます」
国民に明るいニュースを届ける為、我々より先にロルフと伯爵令嬢が結婚式を挙げる事に。
「それと様子がおかしいが、生死不明だった隣国ヴィジナード国のリリアーナ王女殿下も見つかったらしい」
「様子がおかしい?」
「人が変わったようだと……」
「よほど怖い思いをされたんでしょうね」
「カイン殿下の方は?」
「カイン王子殿下はリリアーナ王女殿下を魔物から守って亡くなったらしい」
「それは……さぞかしお辛かったでしょう」
「様子がおかしく無ければ女王として立つ事も出来たかもしれないが、あの国はこれからどうなるのか」
「今はまだ様子がおかしくても、しばらくしたら落ち着くかもしれませんよね」
「それはそうだな」
コンコンとサロンの扉を叩く音がした。
「どうぞ」
「お嬢様! 大変です!」
「どうしたの?」
メイドが血相を変えてサロンに飛び込んで来た。
「隣国ヴィジナード国のリリアーナ王女から緊急でお嬢様に面会申請が来ました! 至急お会いしたいと」
噂をすれば影どころか本人から!
しかも……
「何故お父様でもなく、ギルバート様でもなく、私に?」
ギルバートも首を傾げている。
「それは存じませんが、いかがいたしましょう?」
「とりあえず、転移陣が使えるなら私は構わないわ。
うちに対して悪意が有るなら結界の力で転移陣から弾かれるはずだし。
とりあえずライリーの城に招いても良いのかお父様にお伺いを」
「ゆゆしき事態だ、何か困っているのだろう、うちなら構わないぞ。
転移陣の使用許可とメッセージを送る」
お父様がナイスタイミングでサロンに来た。
転移陣には短文なら送れる魔法の石板のような物がある。
(◯◯領より、領主様に至急面会と転移陣使用許可求む)って感じに。
「お父様、では、よろしくお願いいたします」
「ああ」
*
突然リリアーナ姫と面会する事になった。
姫は銀髪に青い瞳の白百合のように綺麗な人だった。
姫のお供はメイド一人、護衛騎士一人のみだった。
「貴方達は、部屋の外で待っていて下さい。
できればセレスティアナ様とごく僅かな護衛騎士のみにしていただきたいのです」
数少ないたった二人のお付きさえを外に出すとは、秘密のお話がしたいのね。
「人払いですね、分かりました。ガーディアンのギルバート様のみ残して、他者は扉の外へ」
「はい。ギルバート様、お嬢様をよろしくお願いいたします」
「もちろんだ、任せるがいい」
私とギルバートの護衛騎士達はギルバートに護衛任務を託して扉の外へ出た。
リリアーナはどう見ても、華奢でか弱い深層の令嬢だ。
全く強そうには見えない。
仮に暴れてもギルバート一人で制圧出来る。
そもそもこの城に入れた時点で悪意は無いはずなので。
「実は、グランジェルドとは反対側の隣国が、我が国に侵略準備をしているようなのです」
「えっ!?」
「どうやってそれを知ったのだ?」
「この身に宿る加護が風の精霊で、危機を知らせてくれたのです。どうも精霊との親和性が高いらしく」
「む。風の精霊が……」
ギルバートにも同じ精霊が見えるのか、目を凝らして空中を見てる。
「我が国は既に魔族の侵攻でぼろぼろです。グランジェルドに保護をお願い致したく」
「見返りは?」
「我が国の支配権を」
!!
リリアーナ姫の爆弾発言に思わずゴクリ、と生唾飲んじゃった。
「隣国ゲースリの支配を嫌がるのに、我がグランジェルド国に従属するのは構わないと?
更に、それでは其方が売国奴と言われると思うが」
「ゲースリなどに滅ぼされては、国民が皆、奴隷扱いをされて、酷い目にあわされてしまうと思うのです!
あそこは攫った人や孤児などを魔王信者が生贄に捧げるとも精霊に聞きました!!
どうせ国が吸収合併されるなら、もっと真っ当な治世を行ってくれる所の方が」
「なるほど、しかし、解せないのはそんな話をグランジェルド王でなく、何故、セレスティアナに? こんな時まで男性恐怖症か?」
ギルバートのその疑問はごもっともだわ。
「ポンプやハンドミキサー、精米機、挽き肉製造機、ミシン、馬車の座面のスプリング。
比較的最近出て来たこれらの便利な発明品は、このライリー産だと聞いております。
当国にも、商人からそれらを入手しております」
何故、今、その話が!?
何故かザワリと鳥肌がたった。
「ええ、まあ、それが何か?」
私は務めて冷静を装って言った。
「このライリーのどこかに、私と同じ、同郷の方がおられるかと」
な!!
「同郷だと……」
ギルバートが鋭い目でリリアーナ姫を見た。
「地球、この言葉の意味をご存知の方がここにおられるのでは?」
「まさか、あなたは……」
「この体の本来の持ち主、リリアーナ姫の魂は実は死んでいます」
「え!?」
「何だと!?」
「目の前でリリアーナの弟が魔物との戦いで死んだ時に、ショックであの世に飛び去ってしまったのか、何故か地球の日本人の私の魂が入り込んでしまいました!
私がわざと乗っ取った訳じゃありません!
何故かそうなったとしか言いようがないのです!
前世の私は通り魔に刺されて死にました!」
えええっ!?
とんでも展開過ぎる!
『どうも、その話は本当らしいね』
「「リナルド!」」
サロンのカゴの中で普通のぬいぐるみのフリをしていたリナルドが急に喋った。
「え!? エゾモモンガのぬいぐるみが喋った!?」
リリアーナ姫の中の人はリナルドを見て驚いてる。
「エゾモモンガを知っているなんて、確かに、この方は……」
「同郷の方ですよね!? お助け下さい!
この体に残る記憶を見れば、リリアーナ姫の国を思う気持ちも分からないでもないのですが、この身が唯一の王家の生き残りでも、私に女王として立つのは無理です!
私は日本で家族とカフェを営んでいた、ただの一庶民です! 重いです!」
リリアーナ姫のガワを被った日本人は私に向かってガバッと土下座した。
ジャパニーズ土下座!!
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