第292話 エテルニテと海鳥の祝福

 またも私は歌の仕事に行く。


 今度は慰霊と浄化の歌を歌う為だ。


 騎士達が先にダートレーンの海岸に降り立った。

 私も翼猫の背から降りて、海岸を少し歩いた。


 魔族の襲撃を受けた場所だけあって、瘴気が濃かった。

 護衛騎士達、同行者全員に御守りを持たせていて良かった。


「魔物の遺体は掃討戦後に焼いてはいる」


 ギルバートが黒い灰を見ながら説明した。


「……ひ、人の遺体は?」

「腐れたか、腐肉を食う魔物の腹の中に入ったかと思われる。骨ならあちこちに有る」


「滅亡のきっかけ、最初は日照りの飢饉という話でしたが、お魚とかは食べられなかったのでしょうか?」


 今、海の側にいるので、そんな事を思った。


「シーサーペントなどが漁場をうろついて普通の魚が逃げてしまい、魔魚に襲われる事も有る状態では難しかったんだろう」


「冒険者にシーサーペントの討伐を依頼出来なかったのでしょうか?」


「シーサーペントは私が兄上と一緒に倒したが、実は強敵なんだ。

海上で戦うのは竜騎士のような存在がいればマシだが、小国だったし、初動の対策が遅れたのも致命的だったんだろう」


 そうなんだ……。


 何しろ瘴気が濃い所に島丸ごとだ、広い!

 衣装にも気を使った方が効果が高いかもしれない。



 ライリーの浄化の際、瘴気は時間経過でだいぶん薄まっては来ていたけど、ここはまだ濃いから。


 そんな訳で、テントをはって、私は騎乗用のパンツルックから、白い儀礼用のヒラヒラした衣装に着替えた。


 *


「奥に行くよりこの辺から浄化をした方が良さそうですね。

海の側で海神様の加護も借りて、浄化を行います。

風の魔法、スキル持ちはなるべく遠くまで歌が届くよう、助力を願います」


「ああ、よろしく頼む」

「はい! お任せください」


 風のスキル持ちも請け負ってくれた。


 歌の前に祈りの言葉。


「偉大なる光の神よ、大いなる海の神よ、清涼なる風の神よ、慈悲深き大地の神よ、禍と悲劇に見舞われし、この地の浄化にお力をお貸し下さい」


 次に歌。


 曲の伴奏はお母様のハープ演奏を板状クリスタルに録音して来たので、それに合わせて歌う。


 私が歌い始めた。

 しばらくしたら、周囲の空気が光り輝き始めた。


 浄化の輝きは風の魔法で運ばれる。


 ──遠くへ……もっと遠くへ!! 島中を駆け巡れ!!


 歌を歌っていると、海の方から海鳥の群が現れて、私達の上空を旋回していた。

 海神か風の神の使者のようで、美しい白い鳥達だった。


 モモンガのぬいぐるみの中にいるリナルドも、ラナンに抱っこされて儀式を見守っている。


 歌が終わった。



 3日、4日くらいかけて、泊まりがけで、浄化が島中に行き届くように頑張らないと。

 


「セレスティアナ、お疲れ様」

「お嬢様、ギルバート様がお飲み物を用意して下さいました」


 あら、魔法の収納布から出してくれたのね。

 リーゼがグラスに注いだ飲み物をくれた。


「ありがとう」


 爽やかなレモン水を飲んで、喉を潤した。



「さて、我々の分のテントも用意するか」

「はい!!」


「元々ここの住人だった難民はここへ帰りたいでしょうか?」


「それは本人達に聞いてみないと分からないが、隣国からグランジェルドへ来たがってる難民はこちらに誘導して呼んでも良いと思っている。

一部だけでも建物などの再建に人手は必要だし、復興作業という仕事が有るからそれで多少は賃金も払える」


「なるほど、多くの難民を誘致するなら、まずはここの転移陣をグランジェルドと通じるように魔法陣をいじる必要が有りますね」


「そうなる。転移陣の為に、神殿や王城の様子も見ないとな」

「はい」


 * * 


 その後、数日かけて浄化を行い、転移陣を使えるようにする為の魔法師を呼んで、作業をして貰ったりした。

 

 

 海辺のキャンプ、最終日。


 潮風を感じながら、焚き火の炎を囲みながら、皆と食事をしつつ、雑談。


 さて、私の野望としては、あのレジンのように使っている樹液の……夜に光る木をこの地に移植して増やしたい。


「リナルド、あの固めて使う樹液の木をここへ移植して増やしたいのだけど、可能だと思う?」


『植物の魔法スキル持ちのティアがやるなら大丈夫だよ、挿木で』

「良かった!」


 *


 翌朝の浜辺にて、私達は新しい朝の陽を浴びた。


 「これより、この地の名はダートレーンからエテルニテに改める!」


 ──今はまだ、民はいない。

 この場には私達しかいないけど、ギルバートの宣誓にて、この地の名前はエテルニテとなった。


 私達は拍手した。


 すると、帰る前に、また海鳥達の群が来ていた。


「海鳥達はお見送りに来てくれたのかしら? リナルド、せっかく来てくれたあの鳥達にパンくずとかをあげても大丈夫かしら?」

『この世界の鳥はパンを消化できるから大丈夫だよ』

「ありがとう!」


 私はインベントリからパンを取り出し、騎士達にもそれを渡した。


 私はパンを千切っては空中に放り投げた。

 海鳥達は上手に嘴でキャッチして食べている。

 ちょっと楽しい。


 ギルバートは私のそんな様子をクリスタルで撮影している。


 分かる!


 白い海鳥と戯れる美少女がいたら撮りたいよね!

 私だって撮りたい。

 そんな訳でラナンやリーゼ、イケメンの騎士達の様子を自分でも撮影した。



「あはは! 上手いもんだな!」


 騎士達は上手にエサをキャッチする海鳥を褒めつつ、楽しそうだ。


「セス! お前はなんで自分でパンを食ってるんだよ!」

「あ……味見」

「ったく、しょうがない食いしん坊だなぁ」

「美味しいから……」

「あははは!!」


 綺麗な朝焼けの空の下で、騎士達の朗らかな笑い声が、この地の悲劇を打ち消してくれると良いなと思った。

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