第290話 マタニティ・コンサート

 合計8日の日程で癒しの歌を歌いに公爵領へ向かった。

 歌の仕事は五日間で残り三日は自分達の自由時間で旅行を満喫する。


 一日、決まった時間に10分ずつ歌う。

 コンサートの時間は一日で合計一時間。


 残り時間はクリスタルに録音したイケボの騎士の本の朗読をして貰った録音を流す。

 イケボのジークお父様の朗読も有る。

 ご婦人に大人気。


 私が歌う場所は大きいサロン。

 至る所に美しい花が飾られ、いくつもの丸いベッドが置いてある。

 それは豪華な刺繍の布を使われた華やかなベッドだった。


 そのベッドの上には貴族の妊婦さんが複数いて、横になって寛げる仕様になっていた。

 寝転がってもエレガント。


 さっぱり系のオレンジ、レモン、ベルガモット、柑橘系のアロマも日替わりで香っていた。

 窓は開放されていて、香りがこもり過ぎる事は無い。


 サイドテーブルにはグレープフルーツのような果物や、爽やかなドリンクも置かれている。


 伴奏用の楽師も揃っている。


 強張った身体が解されていくような優雅で優しい旋律に乗せて、母が子に聞かせる優しい子守唄のように、優しい歌を歌った。



 それから公爵邸の料理人に妊婦さんの体に良い食べ物の情報メモを渡した。


 妊娠中は通常の三倍は必要と言われる鉄分摂取のために牛肉やアサリ、小松菜、ナッツ類、海藻類。

 ビタミン摂取に野菜、鮭、鳥胸肉、カラフルなピクルスを添えて見た目も美しく。

 ビタミンは鉄分と一緒に取れば効果アップ。


 赤ちゃんに必要なタンパク質は肉、魚、卵、大豆、乳製品。


 大事な骨の為にカルシウム摂取。

 乳製品や小魚類、大豆製品、緑黄色野菜、海藻類。

 デザートに牛乳ゼリー。


 細胞分裂に必要で成人女性に不足しがちな亜鉛は赤身の肉、鶏肉、カニ、豆類、ナッツ類でとれる。


 便秘予防の食物繊維には海藻類やイモ類、豆類、野菜類など。


 それと、何故か前世でつわり中にもネットでファーストフードのフライドポテトだけは食べられたとの証言に基づき、おまけにフライドポテトも。


 複数の妊婦さんが集まっている場であるからして、アレルギーにも配慮。

 原材料のメモ付きで食事を並べて貰った。


 配慮と心尽くしの癒しの歌の会は好評だった。


 *


 公爵領の川に、美しい紅葉を見に行ったついでに網を仕掛けて、魚取りをした。

 結構お魚も網に入っていた。


 楽しい。


 かかったお魚は地元の平民にあげたら喜ばれた。

 珍しく自分で食べなかったのは、夕方は市場に行く予定もあるからだ。


 お昼は紅葉を見ながらのピクニック。

 おやつはふわふわのパンケーキ。

 メープルシロップをかけて食べた。

 美味しい。


 夕方になって、大好きな市場では、ギルバートと目利き勝負を持ちかけ、価値ある掘り出し物を見つけて、鑑定士に値段を見て貰うという遊びをした。


 負けた方が勝った方にキスをすると言うルール。

 恥ずかしい以外のデメリットは特に無い。


 価値あるアンティークを見るのはとても楽しかった。


 私は自分の好みでこれは技巧の凝らされたレースでは?

 立体技法も使われてるし! みたいな感じで選んだ。


 繊細な細い糸で編まれた美しい年代物のレースは、壁に飾っても十分鑑賞品になるレベルの物だった。


 選んだレースの価値はとても高い物だったが、アンティークは複数買って、総合点で置き物や食器などの価値で負けた。


 私はこの世界の古い物は、実はよく分からないので、普通に負けた。

「流石王子殿下、目利きでありますな!」

 鑑定士はギルバートを褒め称えた。


 私は目利き勝負を仕掛けておいて負けた。ウケる。

 負けたので、寝る前にでもキスしてあげようとおもう。


 市場では美味しい果物もゲット。

 シエンナ様にもお土産として買って帰った。

 力持ちで、更にグッドルッキングガイである、自分の騎士に頼んで手ずから搾って貰った、オレンジジュースに氷を入れてふるまった。


 わざわざイケメン騎士に腕捲りをさせ、オレンジを目の前で搾らせるパフォーマンスを見て、シエンナ様と王太子妃も笑いが抑えられず、肩を震わせ、笑っていた。


 謎のセレブごっこである。

 美味い! もう一杯!



 寝る前にはギルバートに軽いおやすみのチューをしてあげるつもりだったのに、軽く唇が触れるだけのキスをした後に、ガシッと腰を掴まれ……ちょっと激しいキスをされた!


 びっくりした!!


 キスの後で私が照れてあわあわしてたら、頬を染めたギルバートが言った。


「先日は先に死なれて俺も大変びっくりしたので、違う方法でびっくりさせてやった」


 え!? 今頃恨み言と報復を!?


「だ、だからこんな女で本当にいいのかって、時間は多めにあげてましたよね!?」

「其方は……本当に酷い……っ!」


 ──あれ? なんだか目がうるうるしてるし、顔も赤いし、ギルバートからお酒の匂いがする。

 これは……お酒を飲んで愚痴っぽくなっているのか!


 ギルバートは成人してるから飲んでも問題は無いのだし、心配をかけた私が悪かったから、仕方ないな。



「全く、痴話喧嘩ですか? 夜ですよ、近所迷惑なので止めてください」


 廊下でちょい騒いでいたらエイデンさんがガチャリと扉を開けて出て来た。


「はーい! ごめんなさい! お二人とも、おやすみなさい」

「はい、おやすみなさいませ」


「エイデン〜〜、飲みなおすぞ〜〜」

「やれやれ、まだ飲み足り無いのですか?」


 あら、寝る前に一緒に飲んでいたのかしら?

 酔ってる上司の愚痴聞きながら付き合っていたのかな?

 お疲れ様です〜〜。


 翌朝、ギルバートは昨夜の出来事を忘れていたようだ。 

 むしろ良かった。


 残りの日程でラピスラズリの鉱山見学や街では買い物もした。


 ちょっと驚く事もあったけど、基本的に楽しい卒業旅行を終えて、我々はライリーへ戻った。

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