第289話 エテルニテ

 ライリーの城内のサロンでお茶を飲みつつ、ギルバートと雑談中。


「セレスティアナは島に行きたいって言っていたな」

「ええ」

「国王が私に島国のダートレーンをくれるそうだが、夫婦になるし、其方にあげよう」


「何言ってるんですか、ギルバート。遊びに行きたいというのと、欲しいは違いますよ!」

「別に良いじゃないか、島だし」


 ええ〜〜〜〜!! 


「私は基本的にはライリーにいたいのですよ」

「転移陣を設置していつでもライリーと行き来出来るようにして貰う」


「魔法の瓢箪のチョコと砂糖の畑はどうすれば……あれは私が住んでいる所じゃ無いとダメなんです。

特殊な贈り物で」

「あ、それは忘れてたな」


 基本的にはライリーに住んで、たまにダートレーンに行けば良いのかな?

 でも領主のギルバートはメイン拠点がダートレーンになるよね。


「普段は領主代行を置くか……な」

「そ、それで許されるなら、良いですけど……。

ところでギルバートはダートレーンで何かやりたい事とかあるんですか?」

「特に無いな」


 無いんかい!


「巨大なワイバーン牧場を作るとかないのです? 訓練場を作るとか」

「ワイバーンの訓練場? 

そう言えば広さもあるだろうし、あそこならのびのび生活させる事はできそうだな」


「じゃあ、ダートレーンの復興事業もありますし、とりあえず春を待たずに王立学院の卒業をしようと思います」


「え? もう学生生活に未練は無いのか?」


「もう大丈夫です。

そこそこ人脈も作りましたし、放課後に河川敷も行きましたし」

「河川敷……そんな事で……あそこではいちごミルクを飲んだだけなのに」


「良いんですよ。

そもそも最初はお父様と一緒にいられる時間が減るので学院へ行きたくないって思っていたくらいですし」


「そこまで……そう言えば父君の辺境伯だが、先の功績もあるし、王が公爵の位を授けたいと言っておられたが、辺境伯は辞退されたとか」


「お父様は元が平民の冒険者だから、今以上の爵位はいらないって思われているのでしょうね」


 重い! 的な。

 気持ちは分からないでも無い。


「私の方は父王が侯爵の爵位を私に渡し、ダートレーンは侯爵領ということになるらしい」


「え! じゃあギルバートは侯爵様に!?」

「ガーディアンがそもそも侯爵相当の地位だから、たいして変わらないが」

「じゃあ私、結婚したら侯爵夫人になるんですね」

「ああ、ところで、ダートレーンの名を改める事にしたのだが、何が良いと思う?」


 待って! 次々に新情報が出て来る!


「え……っ、急ですね、パッと思いつくのが……エテルニテとかしか」

「どういう意味なんだ?」

「永遠……です。今度はあんな滅び方しないように」


「そうか……エテルニテか。王に名はそれで決めたと言っておく」

「そんなにあっさり決めて良いのですか?」

「俺はネーミングセンスなど無いから」

「私にも別にそんなものは無いのですよ」


 でも他にパッと良いのが思いつかないから仕方ない。


「まあ、それは別に良い」


 良いのかよ! 自分の領地の名前ですよ!

 別荘地貰ったくらいの感覚なの?


「ところでまた話は変わるのだが、姉上が今度其方の歌を聞きたいらしい。

先だっての魔族襲来で気丈な姉上も不安を感じて、癒しを求めているようだ。

今の所クリスタルの複製の映像で凌いでいるようだが、やはり生歌がいいらしい」


「分かりました。他ならぬシエンナ様のためですもの。お子の為にも、私の歌が癒しになるのなら」


「すまないな、仕事を増やして。

あ、もしかしたら便乗で王太子妃も歌を聞きに来るかもしれない、姉上と仲が良いので」


「わ、分かりました。サクッと卒業試験を受けて卒業したら、公爵領へ伺います」


 うーん、やる事が多い……。


 *


 後日、ギルバートと二人で卒業試験を無事クリアして、ライリーに戻ると王都から使者が来ていた。


「隣国ヴィジナードから難民が来ようとしている?」

「はい」

「まあ、王都が陥落したあと、未だ新政府も立ってないともなれば不安になって安定してそうな所に移動したくなる者もいるだろうな。

それで、王族に生き残りは?」


「ヴィジナード王と王妃は亡くなり、王子と姫は生死不明の行方不明との事です」


「我がグランジェルドの国王陛下のご意向は?」


「ヴィジナード国ではロルフ兄上が散々な目にあったせいか、王妃の方が腹を立てて国交を断絶したいと言っていて、王は頭を抱えておられた」


さっきまで静かに聞いていたギルバートが急に口を挟んだ。


「王子も姫も行方不明ならあちらの王弟が新しい王になるのでは?」

お父様が使者に問うた。


「ヴィジナード国では各領地が未だ混乱中でして、王弟が無事なのかも不明であります。

ヴィジナードの周辺国がここぞとばかりに侵略戦争を仕掛けないとも限りません」


「周辺国も魔族や魔物の襲来で混乱し、疲弊しているのではないか?」

「確かにグランジェルドほどの規模の結界をはれた国は無いでしょうが、生きていれば火事場泥棒のような事を考える者はいます」


「すると、ひとまず難民も受け入れずに様子見か?」

「おそらくは……国内の治安維持も考えますと、そうなります」


 世知辛い……。

 

「……ひとまず、二人の卒業祝いをするか」


「お父様、こんな状況ですし、私は別に」

「確かに、隣国や周辺諸国の有り様を聞くと華やかに卒業記念パーティーと言う気分では無いな」


 ギルバートもテンションが上がらないようだ。


「私、パーティーはいらないのですけど、卒業旅行にシエンナ様の公爵領に行くという事で良いのでは?」

「卒業旅行……? ああ、ティアが歌を頼まれているんだったか」

「ええ、そうなんです、お父様。どうせ歌いに行くとあちらで歓待されますし」

「わざわざ招待されて行くのだから……そうなるか」


 お父様もギルバートも納得してくれたようだ。


 ひとまず半分仕事だけど、卒業旅行は決定した。

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