第288話 出征と凱旋式

 夏の最中、ダートレーンの魔族の残敵を掃討する為、ギルバートの出征が決まった。


 どうやら先の活躍で、勇者相当の実力が有るとバレたらしい。

 大神殿での海上シーサーペント戦などの実戦中継は別に私のリクエストでは無い。


 王も大神殿で指示出しをしていたから、王の指示で息子の様子を見ていたのだ。


 側にいた私も結界を維持しつつ、最初の方はたまたま見れたけれど、そのうち術によって目が霞んで来て、見えなくなった。


 なお、王妃と王太子は城を守っていたので外には出ていない。

 流石に城をガラ空きには出来ませんから少しは残りますよね。

 王太子はグランジェルドの未来を背負って立つ人ですし。


 いえ、ギルバートばかり過酷な戦場にやられてる気がしてちょっとなんだかなと、いう気持ちもしますけれど!

 今回は第二王子も一緒ですよと言われたら黙るしかない。


 私も同行したかったけど、許されなかった。

 ギルバートも結婚式前の大事な体であるのは同じなのに、解せぬのである。


 出征前にギルバートは私にキスをして言った。


「必ず無事に戻るから、待っていてくれ」

「ギルバートが戻らなかったら、今度は私が迎えに行きますよ、たとえ黄泉の世界でも。

そちらでは、何も食べたり飲んだりしないで下さいね」


「俺は、死なない」

「ええ、ご武運を」


 ギルバートはワイバーンに乗って部下達と青空の中を旅立った。

 蒼穹と入道雲が美しかった。



 そんなわけで、夏の間中、ギルバートは部下達と一緒に獅子奮迅の活躍でダートレーンの残っていた魔物を狩っていった。


 仕方ないので、私は新たに白いモモンガのぬいぐるみを作って、頭部とお腹の中に私の魔力入りの小さな魔石を入れて、リナルドの新しい器にした。


 これはこれで多少ホラーっぽいけど、メイドが喋って動くリアル寄りに関節も曲がる人形を怖がるから仕方ない。

 愛らしいぬいぐるみの方が恐怖が無いらしい。


 他はギルバート用のマントの刺繍などもしているし、乙女ゲームカフェの準備も進めている。


 魔族の襲撃で皆、怖い思いをしたばかりなので、チケットの払い戻しでカフェイベントの中止も考えたけど、お客様達にこんな時こそ、元気になれるイベントが欲しいと言われたので、やはり開催する事になった。


 萌えで恐怖を払拭するという試みかな。

 気持ちは分かる気がする。


 * *


 夏の終わりにギルバートがダートレーンの魔族の掃討を終えて帰って来る事になった。

 あの地はグランジェルドの物になった。


 一番活躍した勇者ギルバートにあの一度滅びた島国を下賜するとの事。

 そのうち復興作業が必要になってしまうが、ゆっくりでいいらしい。


 そう、ついにギルバートは勇者認定されたのだ。


 勇者は本来予言されて誕生すると言われていたが、女神の権能を持つ私と縁を結んだ王子が勇者相当の力を持ったせいだと、神殿の見解である。


 私のせいですか……。


 民衆が勇者爆誕したってニュースで心強いと、元気なるなら仕方ないのか。


 秋の初め、今日は凱旋式となる。

 私にはその凱旋式でギルバートに立派なマントを渡すという役割がある。


 私は聖女では無い、聖女を超える力を持つと言われたけれど、女神そのものでも無い。

 権能の一部がそこそこ使えるみたいな存在だ。


 国も神殿も私の呼び名に苦しんだらしい、女神の使徒と言われる事になった。

 何それ? 天使?

 しかし、位として女神の使徒であるなら、その存在は国で一番上の女性になってしまった。


 王妃様より上って……。


「セレスティアナ様、そろそろ凱旋式のギルバート様が大神殿前へ到着されます」

「分かったわ」


 *


 凱旋式のパレードには花吹雪が舞っている。


 私は国と神殿が用意した白いドレスに黄金のアクセサリーで飾られて、さながら女神のごとくである。


 着替えを手伝ってくれた巫女さんがそう褒めてくれたのだけど……。

 そんな事を言って良いの? 中身ただのオタクなんだぞ。

 


 ──まあ、今はそこを気にするより、大事な役目がある。



「勇者ギルバート。大儀でありました」

「ただいま戻りました」


 私は神殿前に到着したギルバートに刺繍したマントを渡した。

 そして私の前で頭を下げたギルバートの額に祝福のキスをする。


 人々の熱狂的な歓声が響く。


 ギルバートは勇者らしくかっこよくマントを羽織って、私と一緒の馬車に乗り、王城へ向かう。


 凱旋式がこんなに街道埋めつくす勢いで民衆が集って派手なのだし、反動で結婚式は森の中の小さな教会とかで地味にひっそりとしたくなって来た。


 でも、やっぱり王都の大神殿でやる事になりそうね。

 招待客の事を考えるとね。


 かっこいいけど、二人して無駄に地位が上がって気疲れする凱旋式が終わった。

 いずれ私はダートレーンへ鎮魂歌を歌う為に、浄化の為に、彼の地へ行く。

 少しでも、亡くなった人達の魂が、救われるように。



 私はパーティーの後にライリーに戻り、お風呂に入って、自室のベッドに倒れ込んだ。


『ティア、お疲れ様〜〜。ゆっくり休むといいよ』


 リナルドは新しいぬいぐるみの器に入って、以前と同じように私の枕元にいるし、その側にはアスランもいる。


「うん、おやすみ〜〜」



 * *


 秋の半ば頃に乙女ゲームコラボカフェを開催した。

 イケメンの騎士達にコスプレして貰って大人気だった。

 料理も美味しく、イケメンは花も贈ってくれるから。


 画家の描いたゲームと関連した風景の絵画も売ってある。

 お客様が例のクリスタルを買えるレベルのお金持ちの令嬢だから、いいお値段の絵画でも普通に売れる。

 キャラクターのイメージカラーの概念アクセサリーも売れた。

 このアクセサリーはギルバートの育てている職人が作ってくれた。


 コラボカフェは大盛況の内に幕を閉じた。

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