第281話 秘密のお使いと相談

 〜(ギルバート視点)〜


「ギルバート様、辺境伯が来られました」

「ああ」

 

 空は青く、風が吹いていて気持ちが良い。

 俺達はセレスティアナには秘密で屋上に集まった。

 神様からの秘密のお使いの件で、俺は辺境伯や騎士達と屋上で密談を交わす為にだ。


 偶然彼女が屋上に来る可能性も考えて、一応剣も持って訓練のふりもする。

 

 俺は神様の望まれるリストを改めて辺境伯に見せた。


「高山の花か、これは娘も現地で見たいだろうし、きっと一緒に行きたいだろう。

ダンジョン行きだけは同行させるのは無理だから、こちらは可能なら連れてってあげて欲しい」


「やはり、依頼者を伏せてでも、これくらいは一緒に連れて行ってやらないと、セレスティアナが可哀想だな。我々がしっかり護衛し、連れて行こう」


 こっそり行って置いて行ったと、バレた時にはきっと拗ねるだろうし。


「いつもの竜騎士の出張の一部だと思わせておけば。

依頼された方が特殊なだけで、やってる事はほぼ似たような物ですし」


 俺の部下もそう言っている。


「ティアをよろしくお願いします」

「ああ、もちろん」


 皆の意見が揃った。



 * *


 そんな訳で、皆に相談した結果、今度はセレスティアナ本人に同行を希望するか聞いてみることにした。


「え? 高山に咲く花を採りに行くのに連れてって下さるの? 行きます!

それにしても、社交も有るこの時期に良いのですか?」


 案の定、セレスティアナは高山行きに食いついた。

 喜びを全く隠さず、花のような笑顔になって……可愛い。


 思わず抱きしめたくなる可愛らしさだが、周囲にはセレスティアナの護衛騎士が壁際と窓際に立っている。


 俺は頷き、それらしい理由を述べる。


「社交も大事だが、他にも大事な事はある。

俺は貴重な竜騎士を部下に持っているので、特に危険のありそうな所へ出かける用事がない時は、せっかく飛べるし、辺鄙な所に住んでいる住人に貴重な物資を運ぶ仕事を、少しばかりして貰っている」


「ギルバート様がやってるお仕事って荷運びだったとは!

買い物が困難な所にお住まいの方に親切で素敵ですね。

でも、辺鄙な所に住んでる人ってお金持ちとは違いませんか?」


「平民はそうだな、金は持ってない。

でも塩や布など欲しい物は有るらしい。

だから、金の代わりに山にある貴重な薬草や獣肉などを受け取るのだ。

他は変わり者の貴族や魔法師がいて、こちらからは普通に金が貰える」


「なるほど……その山の住人などから物々交換した獣肉や薬草などはどこに使っているのですか?」


「壊血病の時に作った治療院などに卸している。患者にも滋養や薬が必要だから」

「ああ〜、なるほど」


 セレスティアナは腑に落ちた! という顔をしている。


 サロンの窓辺にいたリナルドはセレスティアナの肩に飛び移った。

 そしていそいそと山行きの準備をしてくると言って、彼女はリナルドを肩に乗せたままサロンから出て行った。


 やはり幸せそうに笑って貰えなければ、必死で品だけ集めてもな。


 ちなみに俺の仕事は荷運び以外にもエメラルド鉱山を持っているので、宝石加工の職人を育てたり、装飾品の販売店の運営なども始めている。



 *


 情報収集の為に留守にしていた俺の騎士達がサロンに報告に来た。


「ギルバート様、海の側の白い別荘の件はシエンナ様からエーヴァ公爵領で用意出来ると伝令が届きました。

王と王妃様も新しい魔道具作りの資金援助も惜しまないと」


「おお、そうか」

「ダンジョン産のオーブの方はロルフ様が任せろとおっしゃいました」

「まさか、兄上自ら行くつもりか? まあ、強いから大丈夫だろうが」


「辺境伯夫人の出身地の伯爵領からは子供が文字を覚えやすいようにするカルタなるものは地元工房にて作らせて贈ると申し出がありました」


「美しいレースとリボンと海産物とフルーツはワミード侯爵領から、絹はアーバイン王太子殿下がご用意下さるそうです。他にもリーバイ子爵領等、多数の貴族からも申し入れが有りました」



「うむ。報告ご苦労」


 俺は神様の欲しい物リストを改めて見た。


 ダンジョン産のミノタウルスからドロップするオーブを7個。


 鉱山では虫取り網のような物でタンポポに似たフワールの綿毛を集める。

 網がいるなら綿毛は既に飛んでいるのか。

 それと……真珠の輝きの花弁を持つパールリリー。


 賢者の森に住む 青と黄色の美しい鳥二種。


 そして可能で有れば白フクロウも。と、あるな。

 白フクロウは入手難易度が高いのだろうか?


 ふいにサロンの窓からリナルドが飛び込んで来た。


『指定の美しい鳥探しはそのうち、僕と一緒に探しに行こう!

その方がきっとすぐに見つかって効率が良い。

それと高山の花を取りに行く時は、僕が魔法陣付きマントを着て行くから、ティアの目を盗んで、お花をスッとそこに入れてね。特別な収納を借りたから、生き物も入れられるし、そのまま神様に送れる』



 セレスティアナの肩に乗ったまま、サロンを出て行ったはずのリナルドが急に窓から戻って来た。


「そ、そうか、リナルド急に戻って来てびっくりしたぞ」

『僕は身軽なんだよ〜〜』


 ともかく、色々揃いそうで良かった。

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