第280話 図書館の妖精と恋文
私の住むライリーのお城にも一応図書室はある。
だけど本は高価な物ゆえ貧乏時代にだいぶん売ってしまって棚はスカスカ状態であった。
少しは子供の教育の為にも残してはあったのだけど、その冊数は少なかった。
でもいつの間にか、ちょうどギルバート殿下達がこの城に部屋を貰ってからは、棚に少しずつ本が増えていった。
最初は騎士達が私物を持って来て、皆が読めるようにしてくれているのだろうか?
そう思っていた。
ライリーから乙女ゲームを販売してからは、恋愛小説が増えた。
まるで私の好みを反映しましたとでも言うかのように。
本日、偶然にもセスさんが本を三冊程持って図書室へ持って行くのが見えたので、私は後を追った。
「見ぃつけた……」
棚に持って来たばかりの本を入れているセスさんを見つけて、私は呟いた。
「うわ、セレスティアナ様、何ですか、本棚の裏から顔を半分だけお出しになって」
「いつの間にか徐々に本を増やしてくれている、妖精さんはセス卿だったんですね」
「違いますよ、これは私からではなく」
「セスさんの私物ではなく?」
「もちろん我々ギルバート様の護衛騎士の私物ではなく、王都で買って来た物です」
「やはり、ギルバート様に頼まれて?」
「そ、そうです。
何ですか、やはり最初から分かっていらしたんじゃないですか」
「ギルバート様は何の為にここに本を増やして下さっているんです?」
「もちろん、それは想い人がお喜びになると嬉しいかと思われたのでしょう」
私の為に……。
「ふふ……」
「何かおかしいですか?」
セスさんが不思議そうに軽く首をかしげた。
「いいえ、嬉しくて、ハッピーエンドの恋物語が多いし、恋文の代わりだと思って大事に読んでおりますよ」
私は満面の笑みで、新入荷されたばかりの本を一冊、本棚から抜いて胸に抱いた。
大切な宝物のように。
「恋文の代わり……」
セスさんのボソリとした呟きが聞こえたけど、私は本を抱えたまま、図書室を出た。
早速サロンに行って新入荷の本を読むとしよう。
ギルバートの指示で買われた本は、全てハッピーエンドだ。
あの人は優しい人だから、不幸な結末は望まない。
あの図書室にも悲恋の恋物語が本棚にあるのは、私が稼げるようになって、徐々に買い足した分だ。
なので恋物語に限っては、買う本はほぼ被らないだろう。
私も別に悲恋ばかり好む訳じゃないけど、幸せな結末の本は誰かさんが増やしてくれるから。
「コホン」
わざとらしい咳払いに反応して顔を上げるとギルバートが立っていた。
「こ、恋文のつもりなどでは無かったので、ハッピーエンドの指定しかしていないというか、俺は中身を調べてないというか、全部読んだ訳じゃないぞ」
なるほど、きっとセスさんから報告を受けて来たのだろう。
「気持ちが嬉しかっただけなので、お話の展開や内容がどうあれ気にしませんよ」
「そ、そうか」
それだけ言って、照れた様子のギルバートはサロンを出て行った。
ふふふ。本当に可愛い人。
* * * (以下、ギルバート視点) * * *
俺は空気の入れ替えにライリー城内にある、自室の窓を開けた。
うわっ!!
その時、急に妖精のリナルドがマントを着けて飛びこんで来た!
『ごきげんよう! ギルバート!』
「な、何故窓から、びっくりするだろう」
『僕がこの体でノックして扉から入って来ると思う?』
「そうか、体が小さいから、確かにノックは厳しそうだな。
ところで何故モモンガの妖精がわざわざマントを着けているんだ?
いつも無くても飛んでいるじゃないか」
『よく見て、これ魔法陣付き』
リナルドはそう言って背中を向けて布にある柄を見せて来た。
「うん? 確かに魔法陣が描いてあるな」
『この布をそこのテーブルに広げて』
俺は言われるままリナルドの首の結び目を解いて、テーブルで布を伸ばした。
俺が持っている亜空間収納と繋がる魔法陣の布に似てる。
『リスト取り出し』
魔法陣が光り、中から紙の束を取り出した。
やはりこれは収納アイテムだったのか。
『こっちが、ティアの希望する結婚祝い品リスト』
「海の見える場所に白い別荘……そんなのもっと早くから言うべきだろう」
『よく見て、土地さえ有れば建物なら自分で土魔法を使って箱のような単純構造の物なら作れると思うって書いてあるし、完成予想図のイメージ画像もついてるだろう』
「なるほど、こちらは土地だけ押さえればいいのか」
『そうそう』
「ミキサーもしくはフードプロセッサー。食材を細かく切り刻める……。
これも多分こんな感じという完成図とパーツのイラスト付きだな。
ヒントはあるが、実際に錬金術師や魔道具師に依頼しても完成させるのに時間がかかりそうな物だな」
『麺作りの製麺機もだね。そこでこの神様からの助け船! 出でよ! お使いリスト!』
「こ、これは……!?」
『お使いクエストを受けて、神様に望みの物を納品出来たら依頼達成で、このティアの望む道具が交換で手に入るんだ!』
な、なんだって!?
「なんと親切な!」
『ただ、リストに有るダンジョンにいる魔物が落とすオーブとかは、ティアに気づかれないように行かないと、きっと自分も行きたがるから……でも映像だけは確保しておくといい、きっと置いて行かれたって悔しがるから』
「結婚前にダンジョンは無理だ。危険だ」
『あ、でもダンジョンオーブは冒険者に依頼すれば手に入る事もあるだろう。
その場合は動画もいらないと思う。
他にもリストに有る高山に咲く花を根っこごと、とかいう依頼なんかは空を飛べる竜騎士が行けば、そう難しくない。
咲いてる場所は僕がナビ出来る』
「おお……。ん? オーブとかは誰がおつかいしてもいいのか?」
『最終的に神様にお渡しできればいいから下請けがいても良いんだよ。
森に住む綺麗な鳥は、希望が生け捕り限定なので、依頼するより自分で行った方が良いかもね』
リストを見ると確かに青や黄色の羽根の美しい鳥の生け捕りという依頼が有る。
「神様は鳥とか高山の花とかは何故希望されているんだ?」
『綺麗で可愛いから側で愛でたいんじゃないかな』
そうか……。神様のお住まいの所にない花や、いない鳥なのか。
「たいして難しくなさそうなのが混じってるのは優しさだろうか」
『半分くらいはそうだろうね。でも天使とかにわざわざ地上に行って花取って来いとか綺麗で可愛い鳥を捕まえて来てとか何気に頼みにくいっていうのも有ると思うよ』
「な、なるほど」
『なお、道具の類は設計図と説明書付きで完成品が5個。
パーツがバラバラの組み立て前の物が2個分ずつ貰えるから、同じパーツを再現して作れば商品として売れる。
ミシンもそんな感じで完成品とパーツと設計図とかくれてたからね。
その道具の量産の時に、誰かに資金を出して貰えば、その人からのプレゼントでもあるって言い張れるんじゃないかな?』
「確かに本来は貰う側の物を全て俺から贈ってもな。
姉上も何か喜んでくれる物を贈りたいと言っていたし、良い道具などを作るなら資金援助するとも言っていたし、ちょうど良いかもしれん」
『別荘の土地代を出して貰うとかも贈り物になるんじゃない?』
「ふむ。しかし、他領で有れば土地も建物も一緒に売りに出てる別荘もある気もするな」
『それは、そうだね。
海の見える別荘は新しくないといけないとか、ライリーでないといけないとも書いてないから』
ともかくお使いクエストとやらのおかげで高品質の魔道具開発が楽に出来そうだ。
他にもセレスティアナの希望するリストに目を通すと、美しいレースとかシルクの布とか、あまり難易度の高くなさそうな物もある。
ひとまず部下や辺境伯と一緒に相談して、えーと、お使い中はしばらく俺は王都で仕事してるフリでもするか。
でないとセレスティアナはついて来ようとするからな。
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