第277話

 火山島からお父様達が帰って来た。


「ティア。良い子で待っていたか?」

「良い子で待っている必要は無い気がして、好きに過ごしていました」

「え!? 一体何をしていたんだ……?」


 お父様は驚いた顔をして、周囲を見渡した。

 私の騎士達は微妙な顔をして首を傾げている。

 お父様は次に私の部屋付きのメイドを見た。

 流石にメイドは領主が聞いているので答えねばならないと思ったようだ。


「お嬢様は紙に何かを書いた後は、板に彫刻刀を使い、何やら彫り物をされていたようです。

特に悪い事はされていないと思います」


「なんだ、そんな事か。とりあえず彫刻刀で怪我などはしていないんだな?」

「していません」


「溶岩プレート用の溶岩の塊と火の魔石が沢山取れたぞ」


 ギルバートが戦果を報告してくれた。 


「火の魔石まで?」

「ああ、穴場だったらしい」


「まあ。ありがとうございます。皆様お疲れ様でした。

湯殿の用意は出来ておりますので、ごゆっくり休まれて下さい」


 私は極めて優雅に見えるようにそう言った。


 実の所私が彫刻刀で掘っていたのは、温泉街のとある店のみで使えるようにしたいと目論んでいる通貨、紙幣用の図柄だ。


 ライリーにも歓楽街というか、花街は存在する。

 冒険者の多い領地ゆえ、戦闘後の荒ぶる気を鎮める為にも、犯罪率を下げる為にもガス抜きのような店は必要なのである。


 温泉地はまだ全体までは完全に復活はしていない。

 復興中だけど復活した所で部分営業をしている。


 その手の本番をするような店までは出来ていないけれど、街の端っこの方にセクシー衣装で踊るお姉さんを眺める店くらいあってもいいと思った。


 踊り子さんにはお触り禁止だけど、セクシー衣装の胸の谷間などにお札を挟む事は可能みたいな。

 このくらいの交流ならいいのではと思う。

 踊り子さんもチップを貰えたら生活が助かるだろうし。


 極端なまでにそういう性的な物を排除された街は健全ではない。

 抑圧されると歪む人間はいる物だ。

 何なら殺人事件まで起きる。


 かく言う私もお姉さんの谷間にお札をねじ込んでみたいという願望もある。

 むしゃくしゃした時にストレスを発散したい。

 男装……姿変えの魔道具も使って変装すればワンチャンいけるのでは?

 などと考えている。


 そんな事を考えているなどまるで気がついてない様子のお父様達。

 メイドも昼間の私はただ数字と花と蝶の絵柄を彫ってるんだなくらいしか思ってないだろう。


「セレスティアナ様がお喜びになると思い、クリスタルで記録もして来ましたよ」


 !!


「で……っ、いえ、よく出来ましたね! 

後でチャールズ卿にはご褒美をあげましょう」


 ヤバ!

 でかした!! とか言いかけた! 


 思わず握りこぶしで。

 お上品にしなければ。


「ほら、やはりお喜びになりましたでしょう?」

「そうだな。 とりあえずご褒美とはなんだ?」

「まだ考えてません」


 ずっと立ち話もなんなので、我々は城の廊下を歩きながらギルバート達とお話する事にした。


「ご褒美は例の食券とかじゃないのか?」

「さあ? ひとまず皆さんがお風呂に行っている際に、私はクリスタルを眺めたいのでコピー、いえ、複製をしてもいいですか?」


 私は歩きながらもチャールズ卿を振り返って問うた。


「はい、私の記録のクリスタルはこの首飾り型で、容量はたいした事無いのですが、今日の分くらいは入っています。複製を許可する呪文はこのメモに有ります」


 騎士のチャールズさんはポケットからメモ紙を出した。


 複製許可呪文はコピーするのに必要なパスワードのような物だ。

 魔法陣の中に元データのあるクリスタルとコピーを移したいクリスタルの二つ置いて使う。


 しかし、渡されたこの紙、何故か少し湿っている。


「あ、今日は沢山汗をかいてしまい、紙が湿っていて、申し訳ありません」


 チャールズさんは少し照れながらそう言った。


「そんなに汗だくになるほど頑張ってくれたのですか。皆様、ありがとうございます」


「ああ。汗を流す為に作業後に皆で海に入ったくらいだ」


 お父様の言葉にハッとなる私。


「まあ、海に……。水着で?」


「亜空間収納に水着は予備も含めて入れて置いたから、もちろん水着は着たぞ。

男しかいないとはいえ、全裸はな」


 あはは! と、お父様やギルバートや男性騎士の皆は笑っている。


 全裸だったらそれはそれで面白い絵面になっただろうけど、流石にそれは撮影が出来ないよね。


 水着で海に入った画像もちゃんと入っているだろうか?

 空気を読んで入れてくれているだろうか?


「海に入ったのは何時頃でしたか?」

「夕刻だ。夕陽が綺麗だったぞ」


 今度はギルバートが答えてくれた。


「輝く夕陽……それは最高のロケーションですね」


 *


 そういう訳で、彼等が入浴中にサロンで動画鑑賞をする。


 お供は私の護衛騎士のリーゼ。

 他にお茶を用意してくれるメイドも同じ部屋にいる。


 私達はメイドの淹れてくれたお茶を飲みつつ、大きなスクリーンに映された映像を見ている。


「わあ! 空撮も入ってる!! 初夏の青空を飛んで行く姿は爽やかで綺麗ね」

「ええ、本当に」


 リーゼも目をキラキラさせつつ、感心している。


 グリフォンに乗って空飛ぶお父様の後ろ姿や白いワイバーンと共に飛ぶギルバートの後ろ姿をメインに撮ってある。



 火山島に着くと面白い冒険者達と遭遇していた。

 火の魔石の事を勝手に洗いざらい吐いてる、親切で面白い人達だった。

 ウケる。


 急に溶岩を吐くゴーレムなどが出て来たけど、お父様がかっこよく粉砕していた。

 戦闘中の活躍までしっかりと写っているのはお父様一人で敵を倒してしまったせいね。


 その後、騎士達が汗を流しつつ、必死でツルハシを振るう姿がちらほら入っていた。


 あんなに頑張ってくれていたのね。

 騎士なのに鉱夫みたいに……。

 火の魔石まで入手可能なら私も同じようにしたとは思うけど。


 その後、彼等は汗を流す為に、夕陽輝く海に入っていたのだけど。


「わあ……」

「凄い……ですね」

「筋肉美……」

「ま、眩しい、美しい……です」

「あ、夕陽の中で逆光……やば……神々しさ半端ないわね」


 やばい。語彙力が死ぬ神々しさ。


 顔が良すぎる人達が惜しげも無く上半身裸の水着姿で、筋肉も見惚れる程に素晴らしいし、神々や勇士の住まう楽園の海の光景のようであった。


「……ふう。満足した。今日は安らかな気分で眠れそう。

私何度も島に行きたいって言っていたのに、置いてかれて悔しくてカッとなって、綺麗なお姉さんの踊りを見に行ける、ちょっとピンクなお店を作ろうとしていたのだけれど」


「え!? お嬢様、なんておっしゃいました!?」


「癒しを求めに行ける店を作ろうとしているの。

なお、基本的にお触りは禁止の店なので男性だけじゃなく女性も入れる」


 普通は女性がストレス解消に行くならホストクラブとかかもしれないけど、普段からイケメンに囲まれているので、そっちはいいかなと思ってしまう。


「待って下さい。そんなお店を作りたいと言ったら辺境伯に怒られませんか?」

「観光地には皆、娯楽を求めて行くんだから、綺麗なお姉さん達のダンスくらい見れて良いでしょ」

「そ、それだけで、お客は入るんですか?」

「ノリノリの音楽で、女性達がセクシーな衣装で踊るだけで入ると思うわ」


 東京にもそんなお店があったし。

 変な事をしたら黒服の怖い人につまみ出されてお店は出禁になると思う。


 それと経営元が上位貴族なら滅多な事は出来ない気がするし。


 でも、この動画で溜飲が下がったから、しばらくこの企画は寝かせておきましょう。

 微妙な顔をされるとは思うので。


「お嬢様、け、結婚前にはそのような店の話はやめた方がいいと思います」

「分かったわ」


「そう言えば、結婚祝いの希望リストは完成したのですか?」

「一応書いてはいるけど、作るのに研究開発時間が必要な物ばかりで、来年の結婚まで入手不可能な気がするから、完成したらくれる券でもいただけるかしら……」


「そ、そんなに難しい物ですか」

「宝石や美しい布とか家具等でも良いのでは」


「そうね。

少しはそういう入手難易度はあまり高くないけど、それなりに価値のある物を混ぜないと贈れる物が無いわね」


 書き足しておこう。

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