第276話

 〜(ギルバート視点)〜


『ギルバート、火山島に行くんだね。僕が案内について行くよ』

「そうか、助かる」


 妖精のリナルドの導きがあれば場所を間違う事は無いだろう。

 俺は安堵した。


「自分の騎士を全員連れて行くから、すまないがアスランを借りてもいいか?」

「……良いですよ」

「セレスティアナ。まだ、連れて行かない事を拗ねているのか?」


「そんな事ありませんよ〜。私の欲しい物をわざわざ取りに行って下さるのですから」


 セレスティアナは口ではそう言ってはいるが、やはり拗ねてる気配を感じる。

 大好きな辺境伯も俺の方に同行してくれるからなあ。

 仕方ないとも言える。


 セレスティアナはサロンの長椅子にコロンと横になってクッションを抱き締めた。

 何やら寂しげな気配を感じる。

 俺はセレスティアナの前に来て、体をかがめて頬にキスをしてみた。


 セレスティアナは一瞬目を見開いて、俺を一瞬見た後、抱きしめていたクッションに顔を埋めて麗しい顔を隠してしまった。


「こんな事でごまかされない〜〜……」

クッション越しにくぐもった声でそんな事を言っている。


「では、準備して行って来る」

「ご無事のお戻りを……万が一、変なガスとか出たら絶対に嗅がずに逃げて、すぐに帰って下さい。

別に溶岩プレートが無くても岩塩プレートでも良いですし」


「え? 岩塩プレート?」


「何でもありません。行ってらっしゃいませ」


 *


 しばらくして準備を完了した俺達は、火山島へ旅立つ。

 火山島最寄りの神殿までは転移陣を使用して時間短縮だ。


 ワイバーンで初夏の青い空の中を、海風を感じながら飛ぶのは爽快な気分だ。


 もっとも辺境伯はグリフォンに乗っているし、俺の護衛騎士の二人は翼猫を借りて飛んでいるが。



『見えた! あの島だよ! 

黒い岩の塊が溶岩だからインベントリ内に預けたツルハシで掘削すれば良いよ〜〜』


 なるほど! あの島か。

 確かに一際大きい山があって、あれが昔噴火したから溶岩で出来た黒い岩が沢山有るんだな。


「よし! ん!? 無人島のはずが船着場も有るし、人の姿もちらほら有るな」


 辺境伯が眼下の黒っぽい岩だらけの島を見下ろして言った。


「閣下! 近隣の島に住む地元住人と言うより、服装からして冒険者のようです」


 竜騎士のラインハートがそう報告した。


「よし! 皆とりあえず島へ降下! 上陸するぞ!」

「はっ!!」


 我々騎士達は辺境伯の指示通りに火山島に舞い降りた。


「え!? 竜騎士!? 何でこんな所に!?」


「ここが火の魔石の穴場だってバレたんじゃないか?」

「うわ、このバカ、何で言うんだよ」


 あまり頭の良く無さそうな冒険者達が8人ほどいた。

 ツルハシを担いでいる。

 どうやら船着場の船で来たのはこの冒険者達のようだ。


「火の魔石の穴場……」


 俺はボソリと呟いた。

 セレスティアナが冬越しの苦しい平民に配る為に集めている物だ。

 結婚式の記念品としても。


「あーもう、バレたからには仕方ない。

この火山島にはたまに溶岩石の塊みたいなゴーレムの魔物が出るらしくって、そのせいで周辺の島人は近寄らないが、その魔物の核に火の魔石が有るからか、ここは知る人ぞ知る、火の魔石の穴場スポットだ。

たまに黒い岩の中にも魔石が混ざってる」


「俺達は冒険者なので、万が一そんな魔物に会っても、戦えるし、何かお偉いさんが火の魔石を集めているらしいから、今需要が高いんだ」


 冒険者二人が勝手に洗いざらい喋ってくれた。


「あんた等も火の魔石狙いなんだろ?」

「おい、竜騎士様相手に、言葉に気をつけろよ! どう見ても只者じゃないだろ!」


 魔法使いらしきローブの男が仲間の口の悪さを心配している。


「騎士と言うより皆役者みたいに顔が良すぎるが!? 役者じゃねえの?」


 ……確かに顔が良い者ばかりではある。


「役者がワイバーンとか空飛ぶ猫でこんな所に来て、一体何の用があるんだよ! 

あと、顔以外もよく見ろ。ガタイが良い! いえ、およろしくていらっしゃる!」


 頑張って言葉使いを矯正しようとしている。

 漫才みたいな冒険者の話を聞いていると、その時、ミスリルソードが青く輝いた。


 俺は魔物の気配を察知した。


「警戒体制! 魔物の気配だ!」

「え!?」


 冒険者達が動揺している。 

 覚悟して来ているんじゃなかったのか?


 黒いゴーレムは口から赤いドロドロした溶岩を垂れ流しつつ、歩みは遅いがこちらに向かって来る。

 あの溶岩に触れれば火傷をするだろう。


「マグマゴーレム! 数は10です!」


「溶岩の魔物って、こいつ等か! 口から溶岩吐いてる!

こんなの聞いてない! 

まともに相手にしたら俺の武器がぼろぼろになっちまう! 魔法使い! あれを凍らせろ!」


「俺はコールドの魔法は持って無い!」

「ああ!?」

「氷属性持ちはレアだっての! そんな事も知らないのか! 俺の属性は火だ!」

「んな事言っても火属性に火をぶつけてどうすんだよ!」


 冒険者達が何やらぎゃあぎゃあと揉めている間にも、辺境伯と俺は魔法の収納布や亜空間収納から盾を出し、騎士達に装備させた。


「お前達! 戦えないなら下がっていろ! 風魔法使い! 魔法の盾も念の為張ってくれ! 

溶岩と破片が多分飛び散る!」


「「了解!」」


 辺境伯の言葉に弾かれたように冒険者達は俺達の後方に逃げて来た。

 辺境伯は魔力を纏った魔槍を敵集団に向けて投げつけた!


 槍を一本投げただけなのに広範囲攻撃になる恐るべき魔槍の攻撃力!

 一網打尽!


 大地と共に魔物の体は砕け、溶岩が飛び散った。

 だが、風の盾で石礫のような破片の威力は軽減され、物理的な盾も有るから、事なきを得た。


「お前達、手持ちに既に火の魔石があるなら俺が買い取るぞ」

「え、いいの? ギルドまで行かないといけないと思ってたから、ラッキー」

「まあ、数日かけて12個見つけた」

「全部買う」


 俺は金で火の魔石を買い取って、冒険者達に水とクロワッサンを渡した。


「また魔物が出ないとも限らない、お前達は危険だからそれを食べたらさっさと帰れ」

「はーい」


 流石に素直に返事をしたな。


「うわ、このパン! めちゃくちゃ美味え!」

「柔らかいし、こんな美味いパン初めて食う」


「それは良かったな」


 ガツガツとシナモン香るクロワッサンを食って、水も飲み、冒険者達はそそくさと船で帰って行った。


『さて、黒い岩を魔法のツルハシで触れて、ツルハシが赤く光ったら、火の魔石があるよ。通常のツルハシは溶岩プレート用を掘削してインベントリに放り込んで』


「魔法のツルハシは出発前に預かった……この2本だな」


 辺境伯がインベントリから数本出したツルハシから2本のツルハシを選んで言った。

 装飾がやや豪華だ。


『この岩にツルハシの先を触れさせて』


 リナルドはそう言って指定した岩から飛んで離れた。


「こうか……」


 俺は魔法のツルハシを一本借りて岩に触れてみた。すると、なるほど赤く光る。


『そしてツルハシを振りかぶって岩にガン! ってぶつけてみて』


 ガン!!

 言われた通りにしたら何故か岩が粉々になって、赤い魔石の塊が3つほど出て来た。


「え!? こんなに!?」


 簡単に魔石が岩から分離して出て来た。


『その魔石を砕いて小さくして配ればいいよ。

その魔法のツルハシはたいして力入れなくても魔石があればそうやって簡単に取り出せる仕様なんだ』


「本当に魔法だな」


 凄い便利アイテムだ。お宝探しが捗りそうな。


「ギルバート様、力のいりそうな溶岩プレート用の岩はこちらの通常ツルハシで我々が砕いていきますので」


 部下達がそんな提案をしてくれるが、それではダメだ。


「そっちもセレスティアナが望んだ物だ。ちゃんと数個分は俺も掘削するぞ!」


「そ、そうですか。分かりました」


 そんな訳で何故か溶岩プレート用の岩だけで無く、火の魔石も大量にゲット出来る事になった。


 ────ハア、ハア、ハァ……。


 流石にひたすらの掘削作業は疲れた。

 鉱山の鉱夫の気分を味わえた。


 俺は額から流れ出る汗を袖で拭った。

 ハンカチを使って下さいとエイデンに注意された。

 う、めざとい男だ。


「何とか、火の魔石も掘削作業で250個は確保出来たな」

「だいぶん……頑張りましたね」


 掘削した黒い岩が山となっている。

 全部亜空間に収納していく。


「溶岩プレート用もだいぶん集まったのでそろそろ帰還しましょう」


「そうだな、ティアも待ってるだろうし」

「セレスティアナ様の機嫌取り用にクリスタル撮影もしています」


 流石だな、我が騎士。

 ちゃっかり撮影までしていた。


「あの、皆様申し訳ありません、帰るまでに少し海で汗を流しても良いですか?」


 リアンは汗まみれ状態が耐えられないらしい。


「そうだな、亜空間収納に水着も体を拭く布も有るから、汗を流していくか」


 俺達は水着に着替えて海に入った。

 周囲には俺達しかいないとはいえ、全裸はちょっとな。


 汗を海水で流せても海水に入ったから、後で水を出して体を清めないとな。

 肌に塩が残ってしまう。


 そんな事を考えつつ海に浸かってぼーっとしていたら、騎士達の肉体美が夕陽の中に浮かび上がる。


 夕陽と騎士達がすごく……幻想的に見える。

 昔、物語で読んだ勇士だけが招かれると言う、天上の楽園のようだ。


 夕陽に輝く海で、俺達はしばしの休息を楽しんだ。

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