第273話

「ティア、あなた本気で騎士達にカフェで給仕の真似事をさせる気なの?」


 お母様にも期間限定乙女ゲームカフェのお話が耳に入ったようだ。


「お母様……その、期間限定サービスなのですが、だ、ダメでしょうか? 

それならごく自然にお客様のレディのいるテーブルに行けるのですが」


「それなら、お客様に挨拶をして声をかけ、お花を渡すとか、記念品を渡すとかの方が、お茶やケーキを運ばせるよりもずっと良いのではないの?」


「お花を……渡す」


 イケメンに一輪のお花を貰う……。

 それは素敵なサービスかも。

 更にキャラのイメージカラーのリボンなどをつけたら一輪でも映えるのでは?


「来てくれたレディのお話相手になるなら、お茶会に招待した時とあまり変わらないから、騎士にさせても良いと思うけど、給仕は別に雇った方がいいわ」


「なるほど、花を贈るのは良いかもしれませんね。

きっとお客様も喜ぶでしょうし。

でもお一人ずつお話相手をしてると時間が足りませんね。

でもお客様にお好きなキャラのテーブルについていただき、決まったテーブルのみの軽い挨拶くらいならば……」


「そんな訳でティア、給仕は別に雇いなさいね?」

「わかりました、お母様」


 コンコンと、ノックの音がした。


「どうぞ」

「私だ、エイデンがさっき戻ったのだが、鰻がかかっていたようだぞ」

「今行きます!! お母様、失礼いたします!」


 私はすっくと立ち上がり、エイデンさんの元へ向かった。

 とりあえず、泥抜き用の生簀を土魔法で作ってあげよう。


「捕れましたよ──っ!!」

「おめでとう!! 見せて!」

「はい、樽の中に」

「樽!」


「ワイバーンで運ぶので安全を考えて」


 樽の中に鰻がいた! 凄い、鰻、パッと見、10匹くらいはいそう!


「凄い! 沢山捕れたのね」

「鰻は15、ナマズ4、手長エビ8に、槍で獲った大き目の魚5です」


 槍!? 銛の代わりに!?


「なるほど、生簀を用意してあげる、泥抜きしてから食べた方がいいでしょ?」


「ありがとうございます」


 ひとまず泥抜きもあるから生簀に入れた後、クリスタルの記録を見せてもらおう。


 生簀を3つに分けて土魔法で作って、水を入れて鰻などを入れた。

 しばらく泥抜きをする。


 *


 サロンでクリスタル鑑賞会。

 大きな白いスクリーンが壁に用意されて、そこに映像記録が映し出される。


「はい、今から仕掛けに鰻が入っているか、確認をします。

あ!エビです! 手の長いエビが入っています!」


 お願いしたとおりにエイデンさんが実況しながら仕掛けの確認をしてくれてた!

 ありがとう!


「この川、海水が混じる所なのね」

「はい」


 仕掛けに手長エビまで入ってる。

 数は少ないけど、かき揚げかエビチリっぽいものでも作ってあげようかな。


「えー、次にこちらの仕掛けには、あ! 鰻です! 入っていました!」

「おめでとう!」

「ありがとう!」


 画面の中でワイバーンに乗せてくれる気の良い竜騎士さんのラインハート卿がエイデンさんにおめでとうを言っている。

 微笑ましい。

 

 竜騎士さんはクロダイっぽい魚も銛、いや、槍で獲ってる。

 竜騎士凄い。


 竜騎士さんが活躍してる時はカメラマンはエイデンさんに交代している。

 ちゃんといい場面撮ってくれててありがたい。


 帰りもワイバーンに乗っているから上空からの撮影があった。

 ドローンの空撮みたいに雄大ないい風景が撮れている。


「おお……」

「まあ……」


 同じスクリーンを見てるお父様や騎士達に執事達、私とお母様とメイド達も思わず感心している。


「素敵だったわ、ありがとう、エイデン卿とラインハート卿」


 ご満足いただけて良かったです、と、二人は微笑んでくれた。



 *


 次の日。


 大人サイズで作り直したエプロンドレスというか、ワンピースを着て、比較的近くの野山へ。


 とはいえ、翼猫に乗るので下は短パンを穿いている。

 ただ、本日は馬で護衛騎士が追えるようにわりと低空飛行をしている。


 ワイバーン組は上空から警戒しつつ、下を見渡しながら飛んでいる。

 ラナンはカヌーのような細身の空飛ぶ船で着いて来ている。



 野山に着いて、リナルドのナビですぐに木苺を見つけた。

 早速オレンジ色のつぶつぶ系の木苺を摘む。


「トゲに気をつけて。あ、ほら、あそこ、枝葉の裏側にいっぱい付いてる」


 ギルバートが高い位置の枝を引っ張ってくれた。


「本当だ、美味しそうだな」


「コップを出して水に入れてみて、虫がいないなら食べてみましょう」

「ああ」


 私はインベントリからコップと水を出し、木苺をいくつか入れ、じっと観察する。


「…………虫はいないみたい」

「虫は出て来ないようだな」

「はい、虫はいないみたいですから、食べてみます」


「セレスティアナ様、ギルバート様、私が毒見を」


「エイデン卿、これはただの木苺よ。……でも、まあ、いいわ。

じゃあ食べてみて」


 エイデンさんは、もはや毒見が一番乗りの味見の趣味に見えるので、譲ってあげた。


「はい! ……美味しいです!」

「じゃあ私達も食べてみるわ。……うん、美味しい」

「甘いな」


 自然の恵みに感謝しながら野苺を味わっていると、その時上空から獣の鳴き声がした。


「キュイイ──ッ!」


 上空からマントをはためかせ、威風堂々と降下して来たのは、最上のイケメンだった。


「あ! お父様とグリフォン!」

「視察の帰りに寄ってみた。どうだ、木苺だか野苺は沢山見つかったか?」

「はい、ここら辺にいっぱいあります!」


 思いがけず、出先でお父様に会えた喜びで思わず、キャッキャとはしゃぐ私。


 若干引き攣った笑顔になりつつも、ため息を一つついた後に、しょうがないなと、いった風情でクリスタルを構え、お父様と一緒に野苺狩りをする姿を記録してくれるギルバート。


 優しい! 理解のある婚約者で良かった。


 * *


 ライリーの城に戻って、庭園のオルタンシア……紫陽花の様子を確認する。


 株分けして貰った紫陽花もうちの庭園でちゃんと元気に育っている。

 明け方の雨を受けて、キラキラと輝いていた。


「皆、お帰りなさい。プラムシロップが出来ているから、プラムソーダを一緒に飲みましょう」

「お母様!」


 紫陽花によく似た青いドレスを着た美しいお母様が城から庭園に出て来て我々を迎えてくれた。


 私達はサロンにて氷いっぱいの朱色の綺麗なプラムソーダを受け取って飲んだ。

 炭酸がパチパチと弾けていて、爽やか。


 美味し──っ!

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