第271話

 〜(ギルバート視点)〜


「リナルド、ちょっといいか?」

『なんだい、ギルバート殿下』

「女神様の体型ってシルヴィア夫人と似てるって本当か? 

正確な寸法は分かるだろうか?」


『……女神様ドレスでも贈りたいのかい?』

「まあ、簡単に言うとそうだ」


『基本的にシルヴィア夫人に似てる細身のグラマー、余計な所は太く無いのに、でるとこは出てる系だけど、贈ったドレスに体型の方を合わせる事も可能だから気にしなくてもいいよ、胸が大きすぎない方が似合うデザインの服なら普通サイズに作れば良いし』


「本来豊かな胸のサイズを小さく見積もって服を作っても、不敬には当たらないか?」


『その辺あまり気にしてないと思うよ、普通の人は神様に会った事も無いはずから姿絵だって想像で描くんだし』


「そ、そうか、不敬にならないならいいんだ。とても良い物を見せていただいたし、お礼をしたいと思ってな」


セレスティアナの幼い時代の物まで見せてもらったし、クリスタルに保存出来たしな! 

ありがたい話だ。


『お礼なら戦闘事に加護をくれてる戦神や吸血鬼戦で命を救ってくれた太陽神の加護とダム建設でもお世話になってる水神様にも配慮して、何か贈ると良いんじゃ無い?

ティアも基本的には五柱を祀ってお花をお供えしてるし』


「はっ!! それもそうだな!! 

男神には何を贈れば喜んでいただけるだろうか?」


『お酒と食べ物でいいと思うよ。神様は食べなくても死なないけど、嗜好品として飲食をする事はあるから』


「分かった。ライリーの者にはちょっと王都に行って来ると伝えておいてくれ」

『いいよ〜。行ってらっしゃい』


 さて、食材と美味い酒の確保と、服の仕立て屋の所と画家の手配だ。


「画家を二人呼んで同時に幼少期の4、5歳くらいのお顔と10歳くらいの時のお顔を描かせるのですね」


 ひとまず持ってない年代のセレスティアナの肖像画を描いて貰って飾ろうと思う。


「そうだ、頼んだぞ、エイデン。 

画家に映像の出所に関する秘密は伏せ、描かせた対象がセレスティアナという事は人に話してもいいが、見本にして描く映像の事は秘密でと伝えろ。人に絵を見られたら想像で描かせたという体で話す」


 何しろ神に直接贈り物できるとか、何かを実際に貰ったとかいう話が、悪い権力者の耳に入ると、どのような事になるか分からない。


「はい」

「リアンは私とドレスショップへ行き、セスとチャールズとブライアンは美味い酒と食材を確保してくれ」


「承知いたしました」

「かしこまりました」


 *  


 王都のドレスショップに来た。最上級品を扱ってる高級店だ。


「いらっしゃいませ、ギルバート殿下。

本日は、婚約者様への贈り物をお探しですか?」


「いや、そうではないが、寸法は気にせずに最高級の素材の美しいドレスを」

「……そうでございますか、かしこまりました」


 店員の女は一礼してドレスを見繕いに行った。


「あら、ついに辺境伯令嬢は愛想を尽かされたのかしら?」

「まあ、大変……」


 ドレスショップには他にも客がいたので、小声でそんな事を言う女がいるようだ。

 俺は風の精霊の加護持ちのせいか無駄に耳が良い。

 どこかの令嬢が変な勘違いをしているな……。


「殿下、いらぬ誤解が……」


 リアンにも聞こえたようだ。


「分かっている」

「ギルバート殿下、こちら、最高級の素材で作られております」


 俺は鷹揚に頷き、やや声を張る。


「リアン、月の女神と大地の女神の2柱に似合いそうなのはあるか?」


「こちらのグリーンの肩出しドレスは大地の緑を彷彿させます。

蔦模様も有りますし。大地の女神様に。

そしてこちらの乳白色のシルクのドレスに金糸の刺繍が美しいものは月の女神様にどうでしょうか」


「ふむ、人ではない、女神様に捧げ物など初めてだから、よく分からないが、これにエメラルドや金のアクセサリーなどをつければ良いだろうか」


「そうですね。こういう物は気持ちでございましょう。

セレスティアナ様も毎日お祈りとお花をお供えして浄化を成す奇跡を賜ったのですから、特に間違いというものはないかと」


「そうだな、男神への供え物の確認も必要だし、とりあえずこの二着に決めた」

「まあ、ギルバート様は女神様に贈り物をされるのですか?」


 女店員があからさまに驚いている。


「そうだ。麗しき我が婚約者と出会わせて下さった神々への感謝も忘れてはいけないからな」


「まあ、婚約者様を心から愛されておられるのですねえ」

「当然だ」



「なんだ。そういう……」


 またさっきの誤解女の声が聞こえてきた。

 誤解は解けたようだ。


 *


 側近達が贈り物を集めて来てくれた。


「こちら最高級ワインです」

「ワミード産のドラージルとロズスターとマンゴールです」

「エーリレフの羊肉です」

「そうか、後は、牛肉を」


「牛肉なら良い物を頂いたのがインベントリにまだありますよ、ギルバート様」

 セレスティアナがサロンにひょっこりかおを出した。


「あ、セレスティアナ」

「神様への贈り物を探して下さってるとか?」


「そうだ。女神様用にドレスも買って来た。後で直しが必要か見てくれるか?」

「はい、良いですよ」

「ありがとう」

「牛肉はどのような料理にするのですか?」


 ぶっちゃけ分からない!


「ス、ステーキとかかな?」

「分かりました。私の好みで牛串もつけましょう。お酒のつまみになるかもしれません」



 * *


 祭壇の間に側近達とセレスティアナと妖精が集まった。


 セレスティアナにドレスの点検もして貰い、問題無かったようなのでそのまま贈る事にした。

 エメラルドの首飾りや金細工の装飾品も追加して、ドレスと装飾品は箱に入れた。


 祭壇に祈りを捧げ、贈り物を魔法陣に入れて置いた。

 魔法陣は大きな板に描かれている物だ。


『じゃあ僕が送るよ!』

「ああ、リナルド、よろしく頼む」

「よろしくね、リナルド」


 パアっと魔法陣が光った後に、贈り物は魔法陣から消えた。


「おお……」


 側近達が感嘆の声を上げた。

 本当に神様に届くのだから、それは驚くよな。



 数日後。


 朝からライリーの庭園で鍛錬をしていた俺の元に、リナルドが飛んで来た。


『ギルバートへ神様から、お返しが来たよ』

「え? 俺、個人宛てか?」

『そうだよ』


 サロンに届けられているようだから、風呂に入って汗を流してから、移動する事にした。

 

 

 風呂に入って、さっぱりしてから俺はサロンに到着した。


 テーブルの上には紫色の艶やかなシルクの布の上に、青い表紙の本が一冊置いてあった。

 いや、セレスティアナが先日見せてくれたアルバムという物の形状と同じ物だ!


「これが俺用の!」

「自分用アルバムいいですね、ギルバート様! 私も一緒に見てもいいですか?」


 セレスティアナも興味津々だ。


「ああ、構わない」

「あ! アリアの時の私と……ガイ君のもある! 昔の私達、可愛いですね〜」

「ああ、其方はいつも可愛い」


 なんと、俺の欲しい物が詰まっていた!

 前回のアルバムとは違う物だ。凝っている!

 何という心遣いだ。ありがとうございます!


「グランジェルド王や王妃、ご兄弟、シエンナ様達の写真もありますね。

ライリーのアルバムの方にはありませんでしたが」

「そうだな」


 アルバムの後半ページにさしかかって、俺は驚きで思わず、目を見開いた。

 懐かしい、この姿は……。


「あ、最後の方にある、この小麦色の肌の美しい踊り子さんは、もしや」

「母だ……」

「小さいギルバート様を抱っこしてる写真もありますね……。

あ、こちら、ギルバート様のお母様の16歳くらいの時でしょうか。輝くような美しさですね。」


「そうだな……」


 まずい、目頭が熱くなって来た。


「……さて、私はこれで、まだ仕事があるので」

 セレスティアナが何かを察して、ソファから立ち上がった。


「私はワイバーンの様子を見てきます」

「わ、私も剣の手入れがあるので」

「右に同じく」


 セレスティアナや側近達が気を利かせてサロンから出て行った。

 部屋で1人になった俺は、懐かしさで、少し……泣いた。

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