第268話

 本日私はアトリエにこもって作業をする。


 樹液でドールも作るけど、ふわふわの角兎の毛皮をよそから貰ったので、それを使った猫のぬいぐるみも二つくらい作る事にした。


 ヘッドやボディーに樹液を使うドールは固める時間もあるので、その間にぬいぐるみ制作の方を進める。


 ぬいぐるみの瞳には川人魚の鱗を使った。

 樹液の中に入れて固めたのだ。

 キラキラな宝石みたいな瞳の出来上がり!


 ドールやぬいぐるみを作る時は一応手順や作り方を覚えて貰う為に、手先の器用な針子さん達に見て貰った。

 絵描きの二人もドール作りには興味があるのか、見学しに来た。


 ドールも瞳は砕いたグリーンとブルーのクズ魔石をグリッターのようにして、これも樹液で固めて作った。


「ふう、ドールもぬいぐるみもひと段落ついたから、ちょっと休憩」

「お嬢様、本日のおやつはプリンです」


 メイドがお茶とおやつを持って来てくれた。


 やった──! プリンだ!


「ありがとう」


 私は作業スペースから休憩スペースのテーブルセットに移動して、おやつをいただく事にした。


 画家の二人も違うテーブルではあるけど、同時にプリンを食べるように言った。


 メイドがポットからカップにお茶を注ぎながら話かけて来た。


「お嬢様、今回のドールのウイッグは何色ですか?」


「シルバーウルフの毛があるからそれを使うんだけど、片方はうっすら金髪に染めて、片方は白銀のまま使う予定よ。

あ、でも自分用なら自分の髪を切ったやつでもいいかな。他人の人毛だとちょっと怖いけど」


 あ、プリン美味しい! 


「え? お嬢様、そのお綺麗なプラチナブロンドを切るんですか?」


「私、髪かなり長いし、お人形用なのでそんなに長さはいらない気がするの。

腰から下くらいなら別に切っても良いし」


 私の髪は今、膝近くまである。

 魔力は髪にも宿るって言うから、かなり頑張って伸ばしていたんだけど、椅子に座る時とか、ちょっと邪魔。


「髪を切っても腰までは残るのですね、あんまりばっさり切ると皆様、びっくりされてしまいますよ」


「そうね、私も自分が男性だったとして、好きな女の子が髪がすごく短くなってたらショックを受けるから腰の長さまでは残すわ」


 基本的には私もロングが好きだしね。

 自分が男性だったとしてと何故仮定するのかと、メイドは首を傾げたが、まあ、ただの好みの問題だし、気にしないで欲しい。


「お嬢様の美しい髪を使われるのでしたら、高貴な雰囲気の綺麗なドールになりそうですね」


「まだ本当に自分の髪を使うか使わないか、分からないけど、ドールの完成は楽しみだわ。

そうだ、画家のお二人、立体の物だけど、まつ毛やアイラインを描いたり、唇を塗ったり、メイク……お顔を描いてみる?」


「良いのですか?」

「ええ、美人さんにしてあげて」

「が、頑張ります」

「私も頑張ります」


 作業を任せられる人は多い方が良いし、経験して貰おう。

 絵の仕事が無い時はドールのお顔を描いて貰うのも悪くはないと思う。

 何より、本人達がドールに興味を示している訳だし。


「失敗したら消せる液で消してから描き直せばいいから、心配しないで」

「はい、それを聞いて安心しました」

「良かったです。修正が効くなら」


「ドールのお洋服のデザイン画も描いておかないと。

……以前描いたラフデザインから型紙を作って貰うかなあ」


「お嬢様、次の社交の準備もありますよ。ドレスは決められましたか?」

「ああ、お茶会の……何色のドレスにしようかしら。りんご祭りで赤を着たけれど」

「爽やかで明るい色が良いのでは?」

「そうね……初夏のお茶会だし……」


 私はプリンを見ながら、黄色でいいかな?

 ビタミンカラーだし! などと思った。


 * *


「え、リナルド本当? ラナンは空飛ぶ乗り物を探しに行ったの?」


 護衛騎士のラナンが数日だけ休みを貰いたいって言うから、許可を出したのだけど、そんな理由だったのか。

 私も今は社交用のドレスなどの準備もあるので、手紙や書類などを確認しながら城にて待機中。


『うん、ラナンは今あっちの世界にいる。

こちらでは、よく遠出、外出時は翼猫のブルーを借りてるけど、ウィルが大きくなったら自分で乗るだろうしって』


 もしかして、この間、空飛べる騎獣が少なくてリアンさんが一人温泉で留守番になったのとかを気にしてたり?

 女性に囲まれて、すっごいモテてたけど……。


「確かにもう少し弟も育つと、ブルーに乗ってお出かけするかもしれないけど、ラナンは一人で大丈夫かしら?」

『多分、大丈夫だよ』

「まあ、リナルドがそう言うなら……」



 気がついたら弟もブルーに乗ったり、馬の騎乗訓練をはじめていたらしい。

 食事の時に両親と本人に聞いたのだけど、私が学院に行っている間の事で気が付かなかった。

 貴族の男子はやはり乗馬は必須スキルか。


 ──でも、そうか、それなら確かに借りにくくなるわね。

 でもお母様は滅多に騎乗しないから、遠出の時は兎のクロエを借りれるか聞いてみようかな。


 空飛ぶ兎に乗る、護衛騎士……可愛いな……。

 でも男性騎士は兎に乗れって言ったら可愛いすぎて困った顔をしそうね……。

 リーゼやラナンなら間違いなく似合うけど。


 さて、ラナンはどんな翼有る子を連れてくるのかな?

 ──とか、思っていたけえど、戻ったラナンが見せてくれたのは、生き物や霊獣の類では無かった。


 空飛ぶ小舟?

 それはカヌーのような細身の空飛ぶ船だった。


「この船は空を飛べるように飛行用魔石と魔法が仕込まれています」

「な、なるほど」


 そう来たか──! 生き物ではなく舟か!


「これならお金さえ積めば、いくつか私も買えるのかしら?」


 可能なら、竜騎士のワイバーンや翼猫に同乗させている騎士達に贈りたい。

 ワイバーンや翼猫の負担も減るだろうし。


「売り物ではなく、古代遺跡にあったアーティファクトです。けれど二人くらいは乗れますよ」


 古代遺跡のアーティファクトか──! これはまた貴重品だわ。

 お金で買えない系なのね。


「ラナンは古代遺跡まで一人で取りに行ったの?」

「最初は一人の予定でしたが、勝手について来た人がいました」

「その人も空飛ぶ船を手に入れたの?」


「いいえ、他に探し物があって、護衛が欲しかったらしく……」

「その同行者の探し物は見つかったの?」

「分かりませんが、何かの植物を摘んでいました」


「薬草の類が欲しかったのかしら」

「詳しくは聞いていません。事情を知っても、助けてあげられません。

私は譲れない優先順位がありますから」


 そうか、恐らく私を守るのに必要な物をゲットするのに、余計な情報は遮断したんだ。

 情が移ると手伝いで時間を食ったりしかねないとかいう理由で……。

 最速で私の元に戻る為に頑張ってくれたんだね……。


「多分、私の為よね? ありがとう、ラナン」

「主に尽くすのは当然の事です」


 そう言って私の騎士であるラナンは微笑んだ。

 とても凛として美しい笑顔だった。

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