第267話
寝る前にベッドの上で、いつものように、私は両手を広げて、霊獣翼猫のアスランを呼んだ。
「アスラン! おいで〜〜!!」
ふわふわ猫のアスランは私の元に素直に歩いて来た。
可愛い!
腕の中に抱き寄せた。
「可愛い〜〜!!」
『ボクも可愛いけど!?』
少し怒ったような声でリナルドが私の頭に突撃して来た。
リナルドが猫ちゃんに嫉妬してる!?
「リナルドも、もちろん可愛いわよ! すっごく可愛い!!」
私は慌ててリナルドを頭から下ろして、背中やお腹を撫でてあげる。
『も──、ティアはすぐ猫にばかり夢中になる』
「そ、そんな事は無いわ、他にも可愛いものはあるし、あ、可愛いと言えば!
そうだ、私ドールの素材の為に樹液取りに行くんだわ!」
リナルドはもちろん可愛いのだけど、体が小さいものだから、なでやすいサイズの猫ばかり撫でてしまうのは本当だった。
だけど、なんとか誤魔化そうとした。
妖精のリナルドも焼きもちを焼くのね。
今まで言わなかったから知らなかった。
* *
翌日の朝の食堂にて身内に行動予定をお話しする。
「やはり行くのか? この社交で忙しいシーズンの最中、樹液を摂りに」
「自分のドールもあげてしまいましたし。またお人形欲しいって人も現れるかもしれませんし」
「本当にあのお人形は人気ね。別に注文を受けてもいないのに勝手に何度も注文が来てしまうのよ。
人形を手に入れた令嬢の家のお茶会や誕生会で目にした人からの口コミの威力が凄いのかしら」
「すみません、お母様。お断りの手紙を出すのも心苦しく、しんどいですよね」
「分かった。じゃあ予定通り、樹液の森に行こう。
──ところで、この芋とチーズとベーコンの料理、美味しいな。
外はカリっと、なかはふわふわ、かつ、モチっともしている」
「ジャガイモとチーズとベーコンのガレットですね。
じゃがいもを細く切って多めの油でじっくり焼くと、カリカリで美味しいのです」
「お酒が欲しくなる味だ……エールとか」
「あなた、まだ朝ですよ」
「わ、分かっているさ、シルヴィア」
「お父様、料理長に言えば夜にも出して貰えますよ」
「そうだな、飲む時にでも頼んでみよう」
「ついでにあの森にある滝の裏の妖精の花畑にも行きたいですね」
「そう言えば、あそこの花は飛竜が喜ぶから少し貰って行こうかな」
決定!
* *
15歳以上になってるクラスは王立学院が社交シーズン&夏休みという事で、休みに突入した。
朝食の後に樹液のあるレイゲンの森へ向かった。
森へ向かったのは私とギルバートとそれぞれの護衛騎士。
でも一匹の竜に同乗できるのは二人までなので、ギルバートの部下の一人、リアンさんは温泉街の別荘で待機している。
エイデンさんはギルバートのメイジーに同乗して、リーゼは私とアスランに同乗。
ラナンはブルーを借りて来ている。
リナルドのナビで日中で光ってなくても樹液の木を無事に発見した。
「樹液をじわじわ出してる間に滝の裏の花畑へ行きましょう」
「ああ」
*
「あ! 緑色の苔も瑞々しくてふかふかで綺麗〜〜!!」
「……そうだ、セレスティアナは苔も好きなんだった……」
「初夏の森、最高ですね! 木々の緑も綺麗だし、川もキラキラですよ」
「其方が満足なら良かった……」
「ついでにキュウリとトマトとを川で冷やしておきましょう」
私は籠に入れてキュウリとトマトを冷たい川の水で冷やす事にした。
滝の裏の花畑にも来た。
やっぱりここは幻想的で綺麗ね。ふわふわと光が舞っていて……。
「月と大地の二柱の女神様用に花冠を作って行こうかな」
お世話になっているし。
『良いんじゃない? お喜びになると思うよ』
「俺も後輩の竜騎士の為に少し花を貰って行こう」
「ここの花ならワイバーンに振られる確率が減るんですね」
竜の谷で自分の騎竜になって欲しいと竜にお花を渡す儀式の事ね。
ギルバートの部下の竜騎士三人も興味深いといった顔だ。
「多分な」
しばらく綺麗な花畑を撮影したり、女神様用の花冠を編んでから、滝の裏の秘密の花園から表の川に戻った。
すると、どうでしょう!
川で私の冷やしていたキュウリとトマトに齧りついてる存在がいた!
ヤッバ! 見つかった! と、いった感じでこっちを見て、全長20センチくらいの小さな女の子の人魚が二人、固まっている。
「え!? 小さな人魚!?」
『これは最近じゃ見るのも珍しい、川人魚だねぇ……』
リナルド情報によればレアな川の人魚らしい!
下半身の青と緑色の混ざったような色の鱗がキラキラして綺麗。
「川の……人魚さん……。こんにちは、お野菜美味しいですか?
それ、全部食べてもいいですよ」
『あ!ありがとう! 人間のお嬢さん!』
『お野菜美味しい……。ありがとう』
川人魚、喋れるんだ! そしてお野菜好きなんだ。
「人魚さんは昔からここに住んでいたのですか?」
『そうよ。瘴気で森も川も汚されていた時は、妖精の花園近くの滝の裏で長く仮死状態になって寝ていたのだけど、最近になって妖精にそろそろ起きろって起こされて起きたの』
なるほど、川が綺麗になってから起きたのか……。
「川人魚、初めて見ました……」
「私もだ。小さくて可愛いな」
年上の護衛騎士も初めて見るらしい。
「ああ。悪い人間に見つかったら捕まって売られてしまいそうだ」
『だから川人魚は絶滅危惧種だよ、外敵が多い』
リナルドは私の肩の上でそんな情報もくれた。
「川人魚さん、我々は捕まえないから、安心してね」
リーゼが川人魚に優しく声をかけた。
川人魚はコクリと頷いて、お野菜を美味しそうに食べている。
これは可愛い……。
川人魚の彼女等はしばらくお野菜を食べ、その後で、ちょっと待っててと言って、川に潜って行った。
そして戻って来た二人の川人魚さんが、それぞれキラキラした鱗を小さな手で差し出して来た。
『これ、美味しいお野菜の御礼……』
「え、こんな綺麗な鱗を良いの? 大事な物をわざわざ剥いでくれてしまったの?」
鱗剥いで痛くないの!?
『それ、生え変わりの時のだから、痛くないやつだから』
「生え変わりするんだ。綺麗で貴重な物をありがとう、川人魚さん」
二人の川人魚はニコっと微笑んで、じゃあね! と言ってまた川に潜って、それから見えなくなった。
「すっごく綺麗な鱗貰っちゃった……アクセサリーにしようかな。
人に何の鱗ですかって聞かれたら、海で見た謎の魚っていうしか無いけど……。
人間に川を捜索されるといけないから、広大な海の魚って事にしておこう……」
「なるほど、海には似た色の鱗を持つ魚もいるだろうしな」
「はい、我々も口裏を合わせます」
騎士達は皆、その意見に同意してくれた。
その後、樹液の様子を見て、やはりまだ量が十分では無かったので、一旦温泉で一泊してから、また朝に見に来る事にした。
* *
翼猫やワイバーンで温泉に到着した。
先にギルバートの別荘へ転移陣で来ていた騎士のリアンさんは、温泉でまた女性にモテていた。
ギルバートの部下の中でも一番華やかな美形なんだよね……。
囲まれている……。
「結構観光客も来てますね」
「おかげで水着も売れてるようだわ」
女性達の羽織っている上着の下は水着だ。
売店で売ってるし、レンタルもしている。
温泉では私達も水着になって、ウォータースライダーのような滑り台で遊んだりした。
そしてギルバートの別荘で一泊して、また森に戻って樹液を採取してから、温泉地の別荘の転移陣からライリーの城へと帰城した。
帰城して早速花冠を祭壇にお供えしたのだけど、次に祭壇を見た時には消えていた。
きっと女神様達に届いたんだと思う。
次は紅葉の季節あたりにあのレイゲンの森に行って、川人魚さんに差し入れしたいな。
あの美しい水の流れの中に、また美味しいお野菜を置いておけば、きっと気付いてくれるだろう……。
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