第265話

 時はレンドールのモンスターウェーブの最中に遡る。


 ライリーの城の祭壇の間にて私は祈りを捧げていた。

 お父様や皆の無事を祈って。


 支援物資の類いはお母様が手配して下さっている。

 私はしばらく祭壇の間に篭っていたのだけど、急な知らせが入った。


「魔の森浅層からドラゴンゾンビが現れたとの事です! 

通常最奥にしか出ない魔物ですので、通常の冒険者では歯が経ちません!」


 伝令の伝えて来た言葉を聞いて、私はすぐに立つ覚悟をした。


「ゾンビと言うなら戦える光属性持ちが必要ね。

お母様に申し訳無いけれど、留守を任せるとお伝えして。私は出陣の支度をするので、ギルバート様にもそう報告をしてちょうだい」


「え!? お嬢様自ら!? 聖騎士を呼ぶのでは無く!?」

「それでは間に合わないかもしれないでしょう」

「は、はい! 今すぐギルバート様に報告を致します!」


 伝令は二人いたので手分けして伝えに行くようだった。

 お母様とギルバートの二人に。


 私はそう言ってすぐに聖水などの手持ちの確認を行った。

 そうこうしてる間にギルバートとお母様が駆け込んで来た。

 淑女のお母様まで走るのは珍しい。


「セレスティアナ、本気か!?」


「ドラゴンゾンビが浅い場所にまで出ていたのなら、魔の森から出るつもりかもしれません、呪いと瘴気を撒き散らす存在を、この地を守る者として、見逃せません」


「ティア! 貴女まさか本気で……!?」

「戦える光属性持ちが必要です。お母様は私失敗しないように祈っていて下さい」

「──ああ、神様……聞き分けがないこの子をお守り下さい」


「くっ……仕方ないな! 念の為、聖騎士は後からでも来るようにこの書状を」

「はい!」


 伝令はギルバートからの書状を受け取った。


 そんな訳で聞き分けの無い私はドラゴンゾンビを退治に魔の森へ向かう事にした。


「リーゼ、ここでお母様をお願い。

数少ない貴重な女騎士だし、アスランには二人しか乗れないから、今回はラナンを連れて行くわ」


「は、はい。お嬢様」


「ギルバート殿下、今回も私が同行しますからね」

「エイデンか、まあ、いつもの事だな。分かった。私のメイジーに一緒に乗ってついてくるといい」


「「我々は後からでも森まで馬で追いかけます!」」

「我々も!」

「そうか、分かった!」


 ギルバートの側近達と私の護衛騎士は霊獣の速度について来れないけど、馬で追って来るらしい。


 今回はギルバートの竜騎士はお父様が借りて行ったので、馬で行くしかない。

 私は側で大人しくじっと私を見ていたリナルドとアスランに声をかけた。


「行くわよ、リナルド、アスラン」

『うん! 行こう!』

「ニャア!」


「……皆、無事に戻って来て下さい」

「はい、お母様」


 お母様の頬にキスをして、私は祭壇の間を出た。


 * *


 今回の装備は戦闘用で動きやすい用にパンツルックにポニーテールだ。

 急いで準備を終えた我々は魔の森に来た。


 禍々しい気配を感じた。


 森のごく浅い場所でこれほどの気配はする事は無かったので、やはりドラゴンゾンビは出口近くまで来ているのだろう。


 まず私は味方全員に闘神の加護を得る為に祈る。


『勇ましき戦の神よ、汝は偉大なり! 我等の前に立ち塞がりし、全ての敵を討ち倒す力を、加護を与えたまえ!』


 戦力アップの効果がある。

 ギルバートのミスリルの剣が輝きを増した。


「これは……力が溢れて来る……」

「ありがとうございます。力がみなぎって来ました」

「ありがとうございます、我が君」


 ギルバートとエイデンさん、そしてラナンの反応を見るに歌の効果はあった。成功した。


『大丈夫、ティアには月女神の権能の一部を与えられている』


「は!? リナルド、突然何を!?

女神の権能!? 初耳なんだけど!」


『権能の一部だよ、特別な君へのギフトだ。

ただの人にあんな広範囲の大地の浄化なんて出来る訳無いだろう?』


「今までそんな事言わなかったじゃない」

『そろそろ神殿も手を出せないくらい育ったから、良いかなって』

「突然とんでもない事を言い出す妖精だ」


『集中して、来るよ!!』


 森の草木が不吉に揺らいだ!

 そして、黒く禍々しいドラゴンゾンビが上空から舞い降りた! 

 大きい!


 グギャアオオオオオオ!!


「ドラゴンの咆哮!」


 ドラゴンの咆哮には通常、恐れで敵を強張らせ、萎縮させたり恐慌状態にする効果があるけど、今回はさっきの加護が効いている。


 骨に腐った肉がついてるそいつはやはり巨体で凄い禍々しい姿だった。

 悪臭が凄い。瘴気の元だ。

 まるで腐れ神のよう……。


 私は光の神たる太陽神を讃え、援護をする。


『アディスは偉大なり! ありとあらゆる光よ! 我らに加護を与え給え!』


 パアッと清光が我々を包んだ。


「はあっ!!」


 烈息の気合いを吐いてギルバートがドラゴンの黒き炎、ブレスを退ける結界を張った。


 風の結界と魔力を放つ光る刀身は禍々しいブレスから我々を守っている。

 我々を包む風の結界の範囲外の木々や大地は汚染されて腐れていく。


 そして、騎士達が動いた。

 再びブレスを吐かれる前に、剣を低く構えて走った。


 ドラゴンが鋭い爪を振り上げた! 

 騎士達は俊敏に跳び退った。


「たあッ!!」


 ラナンはすぐさま側面に移動して振り上げた腕を攻撃!


 ギルバートはドラゴンの首を狙った!

 エイデンはドラゴンの足を狙った!


 だが、どれも浅い!


 ドラゴンの体は呪わしい魔力でガードされていた。


 ドラゴンは攻撃を加えようとして来る騎士達をがうざいとばかりに、大きな尾で大地を轟然と叩いた。


 衝撃で私は地面から少し浮いてしまった程だ。


 騎士達三人はそれぞれドラゴンの違う箇所を狙って、斬撃を与えていく。


『アディスは偉大なり!!』


 私は再び神を讃える祈りを捧げた。


 ザシュッ!!


「通った!」


 ギルバートの斬撃が今度はドラゴンの魔力結界を裂いて腹部、体に届いた!

 祈りの重ねかけが効いた!


 ドラゴンの腐った肉片が飛び散り、魔の森の大地ですら、ジュワっと酸でもかけられたように腐った。


 しかし、闘神と風と光の加護により、飛び散る呪いが騎士達を侵すことは無かった。


「一旦下がれ!」


 ギルバートがそう叫んで、皆、後方に飛び退った。

 魔力を伴う大技を使う気配を察知。


「砕け散れ! そして今度こそ! 永遠に眠れ!」


 光る風を纏ったギルバートの剣が伝説の聖剣のように強く輝いた。

 そして、鮮やかなスパークを帯びた竜巻のような斬撃が真っ直ぐに走り、ドラゴンに直撃!


「ヴォウオオオオオオ──────ッ!!」


 ドラゴンが咆哮を上げた、否、断末魔の叫びか。


 心臓付近を魔力の竜巻に穿たれ、倒れゆくドラゴンの巨体が大地を一瞬揺らした。


 ギルバートの攻撃は、まるで前世で見たゲームの必殺技のような威力だった。

 半端ない。

 あのミスリルの剣がエクスカリバーに見えたほどだ。


「エイデン、炎で焼却! ドラゴンゾンビの遺体は放置できない!」

「はい!」


 炎スキル持ちのエイデンさんが浄化の為にドラゴンゾンビの巨体を火葬にした。

 骨だけになったそれに、トドメとばかりに聖水をかけた。



 そこで聖騎士3人と我々の護衛騎士達が到着した。


「……あれ? もしかして、もう終わりました?」


 騎士達が驚いた顔のまま、こちらに声をかけて来た。


「ああ、終わった。貴殿等、わざわざ来て貰ったのにすまないな」


「……ここに来るまで違う魔物と遭遇し、それを倒しつつ来たので、全くの無駄足ではありませんから、大丈夫です」


 聖騎士達は骨になったドラゴンの遺体に祈りを捧げてくれた。


「このドラゴンゾンビの骨、こちらで回収してもよろしいですか?」

「一旦ゾンビになったドラゴンの骨だからな。

その辺に埋めるよりも聖騎士達に預けた方が安全だろう。宜しく頼む」


「聖騎士様達、救援に来て下さってありがとうございます。骨はよろしくお願いします」


「いやあ、ドラゴンゾンビと皆様の戦いが見たかったですよ」


 そんな事を言いつつドラゴンゾンビの骨は聖騎士達が回収していった。

 聖騎士達とはここで分かれた。

 彼等はすぐに王都の聖殿にドラゴンゾンビの骨を納めに行くらしい。


 そして、ライリーの城に戻る為に、翼猫とワイバーンは大空に向かって飛んだ。

 他の騎士達はまた馬で追いかけて帰ることになって、申し訳ないけれど。


 既に夕刻になっていて、空はオレンジ色に染まっていた。


 ちょうどライリーの城の屋上には、グリフォンに乗るお父様やギルバートの竜騎士達も戻って来ていて、私達と鉢合わせた。


「何でティアまで出ていたんだ!?」

「魔の森の浅層にドラゴンゾンビが出たので、光属性の加護が必要だったのです!」

「何だって!? ドラゴンゾンビ!?」


 お父様も今戻ったばかりで、その報告は聞いてなかったらしい。


『僕がさっきの戦いは録画してるよ〜』

「リナルド! いつの間に! 丸い宝珠をいつの間にか持っていたの!?」

『うん、ティアの予備を借りて来た』


 色々びっくりしつつも我々はライリーの屋上に降り立った。


「ひとまず皆さん、お疲れ様でした! 

お帰りなさい! ご無事で何よりです!」


「詳しく報告を聞きたい!」


 お父様のイケボがライリーの城の屋上に響いた。

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