第264話

 〜(ライリー辺境伯、ジークムンド視点)〜



 「私はライリーの領主! かつて受けた恩は今こそ返す!」


 そう言って私は自領を飛び出し、霊獣のグリフォンで隣の領地レンドールへと救援に向かった。

 レンドールは瘴気の影響で苦しい時に、ライリーへ食料支援をしてくれた領地だったので、駆けつけずにはいられなかったのだ。


 ギルバート殿下の竜騎士と精鋭も三人、ワイバーンで最速で飛んで来た。


 ライリーは晴れていたのに隣の領地は暗雲が立ち込めていた。

 朝のはずだが、とても暗い。


 敵の数が多く、既に村がいくつか落ちたらしい。

 モンスター発生地点は郊外の村近くの森。

 この街にも既に敵が入り込んでいる。


 ゴブリンとオークのモンスターが多いようだ。

 特にゴブリンは数が多い。


 町民のほとんどは町長が避難指示を出して避難させたようだが、たまに指示を聞かなかったのか、逃げ遅れた者がいる。


 阿鼻叫喚の地獄と化していた。

 なんとか隣の街まで行かないように冒険者や騎士達が奮戦している。


 突然巨大なロックワームが大地を割いて出て来た。

 それは蛇のように大きく鎌首をもたげた。


「ロックワームだ!」

「巨大ミミズ!」

「円形にびっしりの歯がえぐい!」

「接近するな! 下がれ!」


 私は鋭く叫んでから槍を構え、勢いよく投げつけた。


 ドシュ!

 槍は狙い通りにロックワームの太い体に大きな穴を開けた。

 すると二つに千切れ巨体はズシンと地に落ちた。


 魔槍は風のような速さで手元に戻って来た。


 よし!


「お見事です! 辺境伯!」

「油断するな! まだ奥から何か来るぞ!」


 禍々しい気配に悪寒が走る。


「キュイイ──ッ!」


 突如グリフォンが警告のような声を上げた。


「アンデッドの集団だ!」


「くそ! アンデッドが出るとは聞いてなかった!」

「ゴブリンとオークと巨大なサンドワームだけじゃなかったのかよ!」

「俺は狼系って聞いたんだが!」


 私もアンデッドの報告は聞いてなかった。


「今出て来たばかりの敵かもしれない!」


 つまり私の聖水の準備も少ない!

 ポーションの在庫は沢山あるが聖水は10個しかない!


「アンデッドは首を落とせ!」

「はい!」


「なっ!? 首を落としたのに再生した! 

アンデッドのくせに何だこの再生能力は!?」


「ぐわあ! ゾンビに噛まれた!」


 冒険者の戦士が噛まれた! いかん!


「この聖水で傷を清めてからポーションだ!」

「ありがとうございます!」


 私はすぐにインベントリから聖水を出して渡したが、やはり数が少ないから心許ない!


「どこかにネクロマンサーがいないか!? 探して討ち取れ!」


 一応指示を出したが、敵の数が多くて地上からでは簡単には見つからない。


「見つかりません!」

「敵の数が多いです!」


「あの数ばかり多いゴブリンとオークも厄介だ!」

「モンスターを隣の街にはいれるな! ここで抑えないと!」


「ネクロマンサーがもし、隠のスキルかアイテムを使っていたら、アサシン並みに見つかりませんよ!」


「とにかく、私はグリフォンで上空から探す!」


 私はグリフォンで上空から下を見て見たが、やはりネクロマンサーが見つからない!


「うおおおお──っ!!」

「いい加減死ね! もう動くな!!」


 冒険者や騎士達の怒号が飛び交う。


「アンデッド系には光! 光は! 神聖魔法が使える神官は!?」


 私は屋根の上で矢をつがえる弓兵に神官の所在を問うた。


「ずっと後方で負傷者の治療をしていると思います!」

「くそ! 呼びに行く時間がない!」


「日中のはずが、この真っ黒な厚い雲のせいで日光が遮られている!」


 後方、敵が固まって来ているな………。

 あの距離なら味方に被害はいくまい!


「くらえ! 炎槍!!」


 私は炎を纏わせた槍を投げて、敵を纏めて吹き飛ばす。

 アンデッドの肉片が散らばる。

 威力は大地を抉る程だ。


「流石に肉片は再生しないな!?」


 よし!


「ですが通常の剣や槍の攻撃があまり効果が!」


 その時、自分の首元のクラバットの留め具の飾りであるエメラルドが光った。

 これは娘のティアが贈ってくれた物だ。

 今回、御守り代わりに身に着けて来た。


 光……。

 そうだ……! アンデッドには光属性!


「一か八か! 風スキル持ち! 歌を拡散してくれ!」


 私は懐から板状のクリスタルを出した。


「もしや、これにセレスティアナ様の!」


 察しが良いな、流石殿下の選んだ竜騎士!


「そうだ! これで娘の歌を流すから!

 クリスタルの魔力が尽きないように魔力を流し込んで、なおかつ、歌を拡散させてくれ!」


「閣下! 私は風スキル持ちです! 私がそれと風を操作します!」

「任せた!」


 戦場にティアの清らかな歌声が風に乗って流れはじめた。

 空気中に光が舞う。


「くらえ!」

「なんか漲って来た──っ!!」


 確かにこの歌を聴いていると、何故か力が漲って来た。


 城内で平常時に聞いた時は、空気がキラキラと光っては見えたが、戦力向上の効果は無かった歌だった気がするんだが……。


「アンデッドの再生が止まりました!」

「一気にたたみかけろ!」

「うおおおおおおっ!!」


「雲がきれた!? 暗雲が去っていくぞ!」

「空が晴れるぞ──っ!!」

「天の助けだ──っ!!」


 私が到着してからそこまで時間が経った訳でも無いのに、戦場にいる戦士達はまるで長い夜が明けたかのような盛り上がり方だった。


「いた! あそこだ! ネクロマンサー! 何か変な煙が出てる!」


 二階建ての建物の隙間に、怪しいやつがいた。

 あいつがネクロマンサーか!

 髑髏の杖も持っていて、光に焼かれている!


「くらえ! 炎槍!!」


 ドシュ! 槍は黒いローブを纏ったネクロマンサーの体を貫通した。


「ぐああああ!! お、おのれえぇ……っ!!」


 断末魔の叫びの後にネクロマンサーの体は服ごと砂のように崩れた。


「アンデッドに勝った!」

「まだだ! 油断するな! 散らばっているゴブリンとオークの残敵を掃討するぞ!」

「応!」


「ゾンビに噛まれた者は聖水で清めろ! 

聖水が足りなかったらすぐに神官の元へ!」


「はい!」


「冒険者と騎士の増援が来ました!」

「怪我人を集めてください!」

「食料と医療品を持って来ました!」


 続々とレンドールに救援部隊が到着した。


 数時間が経って街は酷い有様だったが、なんとか残敵をほぼ掃討した。

 後は他の者に任せても大丈夫そうなくらいには。


「すまないが、我々は一足先にレンドールの領主の元に報告に行かせていただく」

「はっ!!」

「辺境伯! 救援ありがとうございました!」


 これからここ、レンドールの領主に報告をして、それからライリーに戻る。

 自領の様子も気になるからな。


 俺は竜騎士と共に、レンドールの領主の元へ向かった。

 


 *


 レンドールの領主に報告に行ったら、とても感謝された。


「ライリー辺境伯、救援、誠にありがとうございました!」

「困った時はお互い様だと、先に言って下さったのは貴方だったではないですか」

「ジーク殿……」


 これで、多少の恩は返せたかな。

 私は喉元のエメラルドの飾りをそっと撫でた。

 後は自領と皆が無事でいてくれたらいい。


「では、我々は自領の様子を見なければならないので、今から戻ります」

「はい、お気をつけて」


 私はもう一度グリフォンに跨って、首を撫でて言った。


「今からライリーに戻る! シュバルツ頼んだぞ!」

「キュイイイ!!」


 グリフォンと竜騎士を乗せたワイバーンは空高く夕空に舞い上がった。

 時刻は既に夕方となり、空は赤く染まっていた。

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