第262話

「わあ、並木道にも林檎の木の、淡いピンクがかった白い花が咲いていて綺麗!」

「蕾はピンクなのに花弁はだんだん白くなっていくのが不思議だが、良い景色だな」

「本当に……」


 景色もしっかり記録しておこうと私は記録のクリスタルでちゃっかりと撮影もした。


 景色に感激しつつ、馬車を走らせ、ガーデンパーティーの会場に着いた。

 つまり林檎の果樹園だ。


 白に、ピンクに、赤に、緑のドレスの女性が多いのは、やはり林檎のイメージなのね。


 お花の花弁がピンクから白に変わるからピンクの方もいるという訳ね。


「ようこそ、モントバ領へ」

「モントバ侯爵、お招きありがとうございます」


 初老でお髭の侯爵様と奥方様にカーテシーでご挨拶。


 それと後継の夫妻や他の貴族の客にもエレガントに挨拶をして行く。



「いや、良い天気になってくれて良かった」

「本当に良い花見日和ですこと」

「ごきげんよう」

「お久しぶりです」


 貴族達も挨拶をかわして談笑をしている。


「いや、セレスティアナ嬢、収穫祭で見た時より、ますます美しくなられましたね」


「お上手ですね、褒めても何も出ませんよ」


 私もどこぞの令息に挨拶ついでに賛辞を貰ったりしたけど、このくらいなら社交辞令でも皆言われると思う。

 ギルバートもちらっと視線送って来ただけだったし。

 

 ──ん?

 じっとこちらを見ている可愛いお嬢ちゃんがいる。

 6、7歳くらいかな?


「? ごきげんよう、可愛いらしいお嬢様」


 とりあえず、綺麗なドレスを着てて貴族の令嬢のようだし、挨拶をしておこう。


「わたしは……プリシラです」

「プリシラ嬢とおっしゃるのね。はじめまして……」


 どなたかの娘さんかな?


「おお、ここにいたのかプリシラ! 申し訳ありません、セレスティアナ嬢、私の孫です」

「ああ、モントバ侯爵様のお孫さんですか。可愛いらしいですね」


「お人形さん……」


 プリシラ嬢が私を見ながらポツリと呟く。


 あらあら、お人形のように可愛いでしょうけど私は一応人類ですよ。


「まあ、お人形ですって……」

「其方の店で売っていたお人形が欲しいという意味ではなかろうか?」


 ギルバートの鋭いツッコミ。

 ──あ、そっち!?


「申し訳ありません、プリシラはオースティン伯爵令嬢の持っていた人形に憧れていまして」

「ああ、確かにオースティンは母の実家ですから、親戚のケイティにお人形を贈りました」

「お人形、注文しているのにまだ買えないの」


 うっ! 

 可愛い幼女がしょぼんとしてしまった。

 あれは現品限りで王都のシャッツのお店に数体だけ置いて売ったら即完売していて、注文は受けて無いのに口コミで広がったのか、勝手に欲しいと注文が入ってしまうのだ。


「ごめんなさいね、あのお人形、作るのに手間がかかるもので、今受注していないのですよ」


 原材料が樹液で量産が難しいし、関節も動くし、ウイッグもお洋服もいるから。


「人気があるなら作れる人を増やしたらどうか」


 ギルバートがそう提案をしてくれるけれど、厳しそう。


「それはそうなのですが、まず原材料も量産が難しい物なのです。

でも、そうですね、せっかくだし、今回は私の分を差し上げましょう」


 私は自分用に作っていたお人形をインベントリから出して渡した。


「わあ! きれい! ありがとうございます!!」

「大事に可愛いがってあげて下さいね」

「はい!」


 プリシラ嬢は嬉しそうにお人形を抱きしめた。


「ああ、プリシラがわがままを言って申し訳ありません、セレスティアナ嬢」


 プリシラの両親が慌ててやってきた。


「良いのですよ、うちのお人形を気に入って下さって嬉しいので」


 手放すのは残念だけど、仕方ない。


「お顔は綺麗だし、関節も動くし、着ているドレスも見事で、本当に素晴らしいお人形ですわね。

後でしっかりお礼を致しますので」


「お気になさらず」


 侯爵の後継ぎの奥様も私のドールを褒めてくれる。


「ほら、プリシラ、あちらにケーキがあるよ」

「ケーキ! 食べる!」


 プリシラは両親に誘導され、連れられてケーキのある方へ行った。

 ふと、上空に白い鳩が飛んでいるのが目に入った。

 青空と林檎の白い花と白い鳩。どれも綺麗で引き立てあっている。


「あ、鳩が飛んでいますね」

「本当だ、白いハトがたくさん飛んでいるな」

「当方の伝書鳩です」


 モントバ侯爵の伝書鳩だったのね!

 白いお髭の侯爵に白い鳩か、似合うな。


「伝書鳩があんなに沢山、見事ですね。結婚式みたい……」


 白い鳩が群れをなして飛んでる。


「結婚式? ハトと結婚式に何の関係が」


 ギルバートと侯爵が首を傾げた。

 あ、こちらの結婚式には鳩の放鳥サービスとかしないのか。


「えっと、結婚式に白い鳩を一斉に飛ばすと綺麗で印象的で、一生心に残るかなって」


 私は慌てて誤魔化した。


「ほう、結婚式にハトですか。

うちのはよく訓練されていますから、ご要望でしたらお二人の結婚式には当方のハトを飛ばしましょう」


 突然やる気を出す侯爵様。


「我々の結婚式の場所は王都の神殿なのだが」

「ギルバート様、ご安心を。

鳩は転移陣で箱に入れて移動出来ますので、訓練士と一緒なら王都でも一旦飛び立ってまた神殿に、訓練士の元に戻るでしょう」


「まあ、賢い鳩なのですね」


 私の賛辞にモントバ侯爵は鷹揚に頷いた。


「しかし、結婚式でハトを飛ばしたいとは、辺境伯令嬢は面白い発想をお持ちの方ですね。

今後うちのハトの活躍場所が増えそうです」


「あの子達は大事な伝書の仕事があるのでは?」


「ハトは沢山いますので、大丈夫です。結婚式にも使えると宣伝にもなりますな! ははは!」


 そうなのか、大事な通信業務を担っているのかと思ったけれど、侯爵が大丈夫だと言うなら大丈夫なのでしょう。


「しかしハトと白い林檎の花、どちらも似合いで見応えがあるな」

「ギルバート様、ありがとうございます」


 モントバ侯爵は大変、ご機嫌だった。


 その後はパーティーの美味しい料理と飲みもので私達も満たされて、それなりに他の招待客ともお話して、ライリーに戻った。


 そしてサロンにて、両親に報告。


「ティア。モントバの林檎の花は綺麗だったか?」

「はい! とても綺麗でした! 白い伝書鳩も沢山いて、見応えがありました」


「伝書鳩? ああ、そう言えばモントバ侯爵は鳩がお好きだったな」

「我々の結婚式で鳩を沢山飛ばしてくれるそうだ」


 ギルバートが嬉しそうに報告した。


「え、結婚式に鳩を?」

「それは印象的でしょうね……でもモントバはいつからそんな商売をされていたのかしら」


 両親がギルバートの報告に少し驚いた表情をしている。


「お母様、それは私がパーティーで、ポロっともらした言葉のせいなので、今までは伝書鳩だけやっていたと思います」


「あら、ティアが鳩を結婚式で飛ばして欲しいと言ったの?」

「飛ばして欲しいとは言ってません、あの白い鳩を結婚式で一斉に飛ばすと印象的で綺麗だろうなと、口にしただけで」


「そうなの、でもそれは華やかな結婚式になりそうね」


 そう言ってお母様は柔らかく微笑んだ。

 美しい……。


 別に私の結婚式で飛ばして欲しいと言った訳じゃないけど、人には結婚式に凄い気合い入れてる人に見えたかな?

 ちょっと恥ずかしい……。


「そう言えば、モントバのプリシラ嬢がケイティのお人形を見た事があったようで、欲しがっていたので、自分のお人形をあげてしまいました。

でも夏服に着替えさせていたので、お母様の作ってくれたお人形のお洋服は手元に有ります」


「あら、そうなの。あの人形、驚く程綺麗だし、子供なら尚更、見たら魅了されてしまうわね」


 また新しくお人形を作ろう。

 冒険者ギルドにまた樹液採取依頼を出しておくか、自分で取りに行くか……。


「ギルバート、今度、騎乗部の部活動で樹液採取に行っても良いでしょうか?」


「あの樹液は夜中に光る木から採っていたろう? 夜中の部活っていうのはどうなんだ」


 私はテーブルの上で苺を食べていたリナルドを見つけて聞いてみた。


「場所を覚えていれば夜中でなくても良いのでは?

リナルド、あの樹液、別に夜でなくても採れるわよね?」


『場所は僕が分かっているから、日中でも大丈夫だよ』


 よし!


「だそうです!」

「そうか、日中なら、いいかな。まあ、蛍見物の後にでも行くか」

「はい!」


 * * 


 後日。


「お嬢様、お人形の御礼にとモントバから沢山のシードルと牛肉が届きましたよ」


 執事がそんなお知らせをくれた。


 シードル、つまり、林檎酒と牛肉!

 焼き肉パーティーが出来そうである。

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