第261話

 放課後にギルバートと一緒にドレスショップに寄って、ドレスを買ってから帰宅した。


 これでりんごの花見パーティーに参加が出来る。


「今更ながら、モントバ領のりんごの花見ガーデンパーティーは参加者が皆、赤いドレスで被ったらどうしましょう」


「それはそれで統一感があって良いですねと言っておけば良いだろう」

「それも……そうですね。おそろい感が逆に可愛いかも」


 雑談をしながら教会の転移陣からライリーの庭園内の転移陣に到着したら、弟がリナルドを頭に乗せて出迎えに来てくれた。

 可愛い。


「おかえりなさい! ねーさま!」

「ただいま、ウィル。

今日は少し遅くなったのにわざわざ出迎えてくれるなんて、一体どうしたの?」


「はい! これねえさまに!」

「うん?」


 私はウィルの手にあった籠を受け取った。

 被せてある布を取った中身は……


「あ! 野苺! もう実っていたのね。

まだ少し早い気がしたけど、もうこんなに真っ赤で艶やかに実ってるなんて」


『ティアのいるライリーの城に近い場所だったから、大地の女神の祝福も届いているんだよ』


 リナルドは弟の頭の上に乗ったまま、そう説明してくれた。


「リナルド、そうだったの。

知らなかったわ、私の近くだと早めに野苺が実る事があるなんて」


『密かに実りを待つ人も多かったのでは?

一階の祭壇の間でお祈りしてる使用人達も多いし。

いち早く実りを見つけたのも近隣に住む使用人の子だったらしいし』


「へえ、加護の力が顕著で凄いわ。皆、初夏の実りを楽しみにしていたのね」


 貴重な甘味だものね。


「ねーさま! のいちごはあらってあるから、たべれるよ!」

「ありがとう、いただきます。……うん、甘くて美味しいわ」

「えへへ」


 弟は嬉しそうに笑った。


「ところで、ウィル、お友達と野苺狩りに行ったの?」


 城の使用人の子達とずいぶん仲良くなったのかな? と思って聞いてみた。


「おとーさまとかーさまと行ったよ!」


 き、聞いていない! 

 お父様とお母様まで参加していたそんな美味しいイベントに……参加できて無かったとは!


「そ、そう、誰かその様子をクリスタルで撮影してくれた?」

「なんかきしがクリスタルをもってたとおもう」

「そう、せめて映像だけでも見れそうなら良かった………」


「セレスティアナ、何故涙目なんだ?」

「うう、野苺狩りは私も好きなのに、何故私はハブられたのかしら?」


「我々には学院と社交用のドレスや服を買いに行く用事があったからだろう」

「うう……」

「私も先日はいちご祭りを使者の仕事してたらハブられたからな……。

こういう事も有るだろう」


 う、まだ根に持っていた?

 これが……因果応報か……。


「お嬢様、野苺スポットはまだあるので、りんごの花見物の後にでも行けるのでは?」


 騎士が涙目の私を励ましてくれた。


「問題はお父様とお母様が出かけている時はたいてい誰かが城で留守番をしているので、全員一緒に行動する事が少ないのよ」


「今回は近場でしたし、ご夫妻が一緒にお出かけなさいましたが、そう言えばアシェル殿が留守番を引き受けておられましたね。移動はグリフォンとうさぎと馬で2、3時間くらいの事ですが」


「うーん、やっぱり」


 数時間とはいえ、またアシェルさんにお世話になっていたのね。


「野苺狩りは今度また行けば良いだろう」

「そうですね、でも両親もお仕事や用事があるからあまりわがままも言えません」

「……それなら、私と行けば良いのでは?」


 ギルバートがまた半眼に! やばい! また焼きもちを?

 相手は親ですよ──!

 落ち着いて──!


「そ、そうね! でもギルバートも忙しいと思って!」

「……時間は作る物だろう」

「そうですね! 私の為に、ありがとうございます!」


 まだ若いし、わりとすぐに焼きもち焼いちゃう。

 やはり王様の血を引いてるだけあって、きっと気位が高い。

 気をつけよう。


 さて、休日は他領に行くし、他の続々届く招待状や手紙も全部確認しないと。

 我々は城内へと戻って行った。


 * * 


 モントバ領へ行く日になって、我々はパーティー会場の最寄りの転移陣のある神殿へと移動した。

 神殿の庭園から一般人用の祈りの場付近に差し掛かった所でふと、話声が聞こえて来た。


「奥さん、どうなさいましたか?」


 神殿にある古着の寄付箱を見ていた痩せた平民の女性と、それに話しかける神官がいた。

 女性は身なりからして富裕層では無いようだ。


「ああ、神官様。

病弱で長生き出来なかった娘に、せめてあの世で可愛い服を着せてあげたいと、着替えを探しに、たまにここの寄付箱を見に来るのですが、また無かったようです。

お金を使って亡くなった娘の服を買おうとすると、死んだ人間より生きた家族に使えと、他の家族に怒られてしまうので……」

 

 生活に余裕のない家ならそれは普通の事だ。

 生きた人間のために使えと言う家族も悪くはない。


「神殿の寄付箱の物は大抵富裕層からの物で、古着であっても質が良く、人気があるので、寄付が来てもすぐに無くなってしまうのですよ」

「そうですよね……」


 母親らしき人は悲しげに頷いた。


 通りかかって偶然にも話が聴こえてしまった私は、インベントリから服を二着取り出した。

 そして、私はツカツカと彫刻の彫られた木製の寄付箱の方へ歩いて行き、その寄付箱の上に美しいドレスと普段着に使っていた可愛いワンピースをバサッと投げた。


 どちらもサイズさえ合うなら、まだ十分に着られる服だった。


 目の前で服が飛んで来た母親と神官がびっくりした顔をして、固まった。



「良いのか?」

 

 物持ちの良い私にしてはあっさり手放したのは、誰かからの贈り物では無い、自分で用意したものだからだ。


「あれはもう古いし、小さくて私には入らないので」


 ギルバートの問いに短く答えて、私はすぐに背を向け歩き出す。


「あ! ありがとうございます!」


 背後から声が聞こえた。

 私は背中で母親のお礼を受け取って、背を向けたまま軽く手を振って迎えの馬車のある方向へ向かった。


「お優しい貴女に神の祝福があらん事を!」


 後から神官の声も聞こえた。


「あんな男前な寄付の仕方は初めて見たな」


 私の隣を歩くギルバートはクスリと笑った。


「真似して良いですよ」

「ふ、そうだな。男物の服なら古いのがまだ残っているから今度やってみるか」


 いつに間にかギルバートの機嫌は直ったようだった。

 さっきの神官の祝福パワーかな? 


 良かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る