第260話

「お嬢様、招待状が沢山届いているので、奥様がそろそろ目を通しておくようにとの事です」


 学院から帰って晩餐後、夜の執務室で紙の仕事をしているギルバートの手伝いをしていた私は、執事の持って来た私宛の封筒の多さに、改めてため息をついた。


「うーん、本当に多いわね。

茶会やパーティーのお誘いより、お祭りの誘いは無いかしら」


「パーティーも祭りの一種では。

着飾って踊れるし、美味しい物が飲み食い出来るぞ」


「出店や屋台が並んでる感じの平民がいる気楽な祭りがいいのですが」

「この前のいちご祭りのようなものか」

「そうです、それか好きな物語の話をする会とかなら行きたいかも」


「お嬢様、乙女ゲームファンの方の行かれる茶会に参加されたら良いのではありませんか?」


 執事がそう問いかけて来たけれど、

「それだと、そっちに話を誘導しないといけないけど、皆普段は違う話をしたいかもしれないし……」

「何故そこで遠慮をするのだ」


 ギルバートはふしぎそうな顔をした。


「茶会って他領についての情報収集の場なのでしょう?

噂話を拾って情報を精査して今後のお付き合いをどうするかとか、どこと取引きすると有益でどこと手を組むと不利益だとか」


「ある程度の情報を得たら、好きな話に誘導すれば良いのではないか?」


「それにしても量が多くて選ぶのがまず大変です。

いっそダウジングで……。

誰か手紙をそちらの広いテーブルの上に並べるから手伝って」


 今使っている仕事机ではなく、お茶を飲む休憩スペースのテーブルを私は指差した。


「はい、お嬢様」


 執事が素早く動いた。

 私は胸元のペンダントのペンデュラムを取り出した。


「そんな招待状の選び方をする人間を初めて見たぞ」


 ギルバートが驚いている。


「真似して良いですよ」

「いや、無理だが」


 私は執事や周囲の人に封筒をテーブルの上に並べるのを手伝って貰って準備を完了した。


「私が行くべき所を指し示せ……」


 振り子のようにゆらゆらと揺らしたら、ペンデュラムはある封筒を指している。

 その封筒を手に取って封を開け、中身を確認。


「今、りんごの花が満開でとても美しいから、是非見に来て下さいですって! 

素敵な誘い文句!」


「美しい景色に釣られている……」

「良いじゃないですか、景色に釣られても」


「美しい景色と言えば、今思い出したが其方に暴言を吐いたエイミル男爵令嬢は島流しから本土に戻れるようになったのに島が気に入って島の男と結婚したそうだ」


「なんと! そうですか、良かったですね。よほど綺麗な島なんでしょう。

私も新婚旅行は島に行きたいので、せっかくだから人からおすすめでも聞いておきましょう」


「お茶が入りました。お嬢様のご要望通りの紅茶フロートです」


 メイドが飲み物を持って来てくれたから、今日はお仕事ここまでにしよ!


「美味しそう」

「紅茶……フロート? どこかで聞いたかのような」


 ギルバートが首を傾げた。


「紅茶の上にバニラアイスが乗ってる飲み物です。乙女ゲームにも出ました」

「ああ、ゲーム内で見たのか」


 コーヒーが無いから前世でメジャーだったコーヒーフロートの代わりに、とりあえず紅茶と組み合わせたものだ。


「ほう」

「美味しい。甘さ控えめのアイスティーにバニラアイスの甘味が絶妙だわ」


 私は出来栄えに満足した。


「なるほど……甘すぎず、さっぱりした味で飲みやすい紅茶にアイスの味が高級感を与えているようだ」


「これは今度のコラボカフェにも出しますよ。

そう言えば先行でカフェイベントの予約チケットでも売り出す準備もしなくては」

「先にチケットを売るのか?」


「万が一現場で長蛇の列を作って待ったのに、本日はここまでしか入れませんとか言われたら、無駄足で悲しくなるのでチケットでの入場制にするのですよ」


 目の前でここまでですって言われた人の気まずさと絶望を想像したら、チケット入場制のが良い気がしたのだ。


「そうか、では私からもりんごの花見物に行く時もカフェの宣伝でもしておこう」


 ギルバートはチケットが売れなかった場合の事を心配してくれているようだ。


「ありがとうございます。

白いりんごの花に囲まれて、お花を見ながらのガーデンパーティーですよ。

ドレスはりんごの赤にするかお花と同じ白色にするか、悩みますねえ」


「わりと最近もデビュタントの時に白いドレスで夜会時も赤いドレスだったぞ」


「デザインが違えば良いのでは? 

赤いドレスに白いレースを多めにして、葉の緑を意識してアクセをエメラルドかペリドットなどにして」


「ガーデンパーティーならボンネットかヘッドドレスを足すとかどうですか?」


 壁際に控えていた護衛騎士のリーゼがそんなアドバイスをくれた。


「そうね、お外だし、帽子系は良いかも」

「一応日傘もご用意致しますか」


 メイドも日差しを心配している。


「ええ、ありがとう。日傘は可愛いのを持っているから大丈夫よ」

「そろそろ新しいのを買おう」

「ギルバートにいただいた日傘は普段はインベントリに入れていたから劣化していませんよ」


「贈り物を大事にしてくれるのは嬉しいが、辺境伯令嬢ともあろう者が何年も同じ物を使うのもな。

古いのは下げ渡して良いぞ」

「下げ……渡す……。付喪神が憑いていたら悲しみそう」

「ツクモガミ?」


「古い物を大事にしていたら神のような者が宿るとかいう言い伝えが……あったりしませんか?」

「優れた職人の手による武器には魂が宿る事があるとは聞いた事があるが……」


「あの日傘は普段使いにして、よそ行き用に新しいのを買います」


「それで良いだろう。

新しいドレスを作ってる時間があまり無いから、明日は学校帰りにドレスと日傘を買いに寄ろう」

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