第259話

「何故わざわざ紙でコップなど作ったのだ?」


 河川敷に佇みながら学校帰り制服のまま、紙コップでいちごミルクを飲んで川を眺めている我々。

 草の上に座るのに、ギルバートは紳士なのでハンカチを敷いてくれた。

 紳士!


「持ち運び時に便利で軽いですし、例えばこのような野外で、学院近くの河川敷でいきなりテーブルセット置いてお茶し出したら、あいつら何してんだって見た目で激しく浮くじゃないですか。

これはお外用です。あまりお行儀は良くないのですが。

期間限定イメージコラボカフェ用に使う為に少量作りました」


「いつの間にそんな企画が……。

そう言えば冒険者には持ち運びが楽な軽い器はウケそうだな。

紙なので緊急時に焚き付けにも使えそうな……しかし、カフェにはそもそもテーブルセットがある物では?」


「もちろん、カフェにはテーブルも椅子もあります。

乙女ゲームに出る登場人物と同じ衣装を着た人がカップにメッセージを書いてくれるサービスをする予定で」


「ゲームと同じ衣装? 

でも架空の人物と同じ衣装着ただけで本物ではないのに嬉しいものか?」


「本物でなくても嬉しい人もいると思いますよ。

更にカフェでは作中と同じ食べ物や飲み物も出るので。

同じ作品が好きな人が集って美味しいものを一緒に共有できるのです」


「確かに作中に美味しそうな料理が出ると姉上が……」


「カップに書くメッセージは、ここに来てくれてありがとうございますって書く予定です」


「わざわざ紙のカップに? 捨てる物では?」

「そうなんですけど、キャラの扮装した人に書いて貰えると嬉しい気がして」

「そういうものか? しかしそれだと捨てにくくなるような気がするが」


 この辺どうなんだろう。

 捨てにくいならメッセージは書かない方がいいかな?


「捨てにくい……うーん、じゃあメッセージは書かない方がいいでしょうか」

「紙じゃなければ洗って貰ってから、持って帰るという選択肢もあるが」

「紙じゃないと文字が書けないんですよ」


 こちらの世界のインク的に。

 油性ペンなんてあるんだっけ?

 少なくとも私はまだ見た事無いな。


 文具開発の人、記憶有りでこっちに転生して来たりしないものかしら。

 いや、もちろんトラックに轢かれたりはせずに。


「書いた文字は水滴で滲んだりしないのか?」

「……そう言えば乾くと耐水性になるインクも無いのでした……」


 こっちにそういう乾くと耐水性とかいう便利なペンは無かったんだわ。

 うっかりしてた。


「でも本当にこれ、紙だから軽いな。

逆に紙を贅沢に使っている所が謎に貴族感有る。

──そうだ、冒険者が使い捨てで買うには高級品になってしまうな」


 貴族感有る紙コップとは……。


「最近植物紙の大きな工場が他領に出来たから、多少は紙も安くなっていたんですよ。

紙は色々と役に立つので支援がてら紙コップ用の紙や贈答用の綺麗な紙箱や紙袋も発注したのです」


「そうだったのか。

大きな工場が出来たご祝儀用にお金を使ったようなものか」


 コラボカフェ用に限定数だけ作ったからあまり気にしてなかったけど、金銭感覚が最近バグってきてるかも。


「紙のカップはお外に持ち帰りできるので、最悪カフェ内部に入れない人は飲み物とお菓子だけでもお土産が買っていけます」


「店内に入れないほど……そんなに人が来るのか?」

「万が一お客様があんまり来なくても、紙コップは使えますよ。

お茶会のお土産用に小さなクッキーとかを入れて配る事も出来るので」


「そうか。そう言えば、その特別な衣装を着て給仕する者は誰なんだ?」

「見栄えの良い劇団員とかを期間限定で雇おうかと」

「其方は妙な所に金をかけるな?」


 お前は自分の結婚式には最初、経費削減とか言ってたのに……というオーラを感じる……。

 オタクのお金の使い方はちょっとおかしいかもね。


「個人的にちょっとファン感謝祭みたいな事をしたくて」


 そう言えばせっかく放課後の河川敷なのにさっきから仕事のような話をしている……。

 まあ、いいか。

 

 いつの間にか陽が落ちて来た。

 ──川に夕陽が反射してキラキラしている。

 とても綺麗。


「……まあ、其方が満足なら、それで良い」

「そろそろ帰りましょう。飲み物も飲み終えて、夕陽も見れたので満足です」

「ああ、飲み物も美味しかったし、帰るか」


 カップはひとまずインベントリに入れて持ち帰って後で捨てる。


「ところで、騎士でカフェに出てくれる人っていると思いますか?」

「主人の命令なら出るんじゃないか」


 ギルバートの言葉を聞いて、私はぐるりと周囲を見渡した。

 少し離れた所に護衛騎士が待機している。

 私の護衛騎士は美形だらけなのだけど……。


「め、命令であれば……」


 騎士達がそんな言葉を口にした。押せばいけそう。


「特別ボーナスが出ます!」


 私は力強くそう言った。


「非番の日であれば大丈夫です」


 男性騎士達は苦笑いだ。


「私は護衛任務がありますので」


 仕事熱心なラナンはクールにそう言った。

 ヒロインコスが良く似合いそうなんだけど。

 とりあえず、男性騎士だけでも確保出来ればいいか。


「とにかく、自分の騎士を動員しても良いだろうが、最低限の人数は護衛に残しておくのだぞ」

「はい。女性二人は残しておきます」

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