第257話
王子妃殿下とシエンナ様への懐妊祝いを届ける役目をギルバートに任せて、私とお父様と護衛騎士は招待を受けたストローンと言う苺の産地で有名な他領の苺狩りに来た。
お母様は弟の側にいるのでお留守番。
ただのお茶会のお誘いならそこまで惹かれなかったけど、苺祭りをやってて苺狩りまでが出来るのだ!
収穫の喜びがある!
祭りより先に、我々は苺狩りの為に苺畑に来た。
「真っ赤に色付いていて、美味しそうな苺ですね」
「辺境伯、セレスティアナ嬢、どうぞ好きなだけ摘んで下さい」
「ありがとう」
「ありがとうございます!」
ストローンの領主の勧めでいい感じの色と大きさの苺を摘んでいく。
そのまま食べても良いし、ケーキに使ったり、ジャムにしたり、いちごミルクにして飲むのも良いな。
私はウキウキしながら沢山苺を摘んだ。
その後は姿変えの道具を使ってお忍びで街中に行く。
お祭りに混ざるのだ。
お忍びで行くのにストローン領主の許可は取った。
許可を得てお忍びとは? って感じだけど、平民が気がつかなきゃ、あっちが萎縮する事もないから良いでしょうって事で。
*
私は茶髪に茶色い目のアリアの姿になった。
もはや懐かしい気がする変装時の名前と姿。
大きくなってから初めての平民コーデでお父様とお祭りデートだ!
テンションも上がる!
お忍びなので口調や呼び名も変える。
沢山の屋台が集まっている。
昼からワインを飲んで上機嫌の人たちもいる。
あ、あの屋台から、何とも香ばしい香りがする。
北京ダックみたいな鶏肉料理が有る!
鳥皮が凄く美味しそう。
「アリア。あの丸鶏の料理が気になるのなら、買うか?」
じっと見てたらお父様にそう言って貰ったので、お言葉に甘えよう。
「うん、美味しそうだし、買って食べたい」
「よし」
今は予算の心配がいらないくらい稼げるようになってて良かった。
数々の地球の発明家の偉人とその発明品達、ありがとうございます!
ポンプとスプリングコイルとハンドミキサーと挽き肉製造機とか他色々!
「この薄い皮にきゅうりと鶏皮と肉を包んで一緒に食べるんだよ」
店のおじさんにそんな説明を受けた。
「はい!」
──いざ、実食の時。
「すっごく香ばしい」
「鳥皮がパリっとして美味しい」
「このピリ辛のタレと出てくる油も美味しいな」
お父様と護衛騎士達の分も買って買い食いをした。
お忍び中だからこそ、堂々と買い食いが出来る!
出店の料理も皆、美味しいと高評価!
あ、あそこは何かイベントやってる。
人が沢山集まってて、ワイワイと楽しそう。
何?
看板に書いてあるのは……へえ、腕相撲大会?
次に景品の棚を見て、とても可愛い苺と苺の花のアクセサリーを発見!
カチューシャだ。
「お父さん、あの景品見て! 可愛い!」
「あれが、欲しいのか、ふむ。腕相撲で勝てば良いんだな。
よし、勝って来る」
「わあ! お父さん、頑張って!」
私のためにお父様が腕相撲大会に参加してくれるらしい!
既に何人もの挑戦者を下したらしいマッチョの男性がいる。
「お、旦那も挑戦するのかい?」
「ああ。娘があそこの景品が欲しいみたいだからな」
「なるほど、可愛い娘の前で恥かかなきゃ良いけどな、色男のお父さん!」
ムッキムキの筋肉を誇らしげにする対戦者。
「ああ。頑張るよ」
お父様は涼しげな笑顔でそう言った。
テーブルの上でお互い手をがっちり組んで、「ハイ」の号令の後に力比べだ。
「ハイ!」
ドカッ!!
一瞬の事だった。
お父様よりゴリゴリの筋肉付きまくった男性は一瞬にして倒された。
──え? うっそだろ!? って顔して呆然としてる。
「お次は誰だ?」
それから数人の力自慢の男性達がお父様に挑んだけど、誰も勝てず、お父様が優勝して、欲しかった苺飾りの付いたカチューシャの景品をゲットした。
流石ドラゴンスレイヤー! 強い!
私は早速、戦利品のカチューシャを頭に着けた。
「どう? 似合う?」
「とても可愛いぞ、よく似合ってる」
「苺のアクセサリー、とても似合ってて可愛いわ」
リーゼの言葉の後で、後方にいる冒険者風コーデの護衛騎士達もコクコクと頷いた。
──さて、この可愛いアクセを作った職人に私は興味が有る。
「この彫金技術凄いと思うの。
おじさん、この可愛い苺のアクセを作った職人さんのお名前を知っていたら聞いても良い?」
「あっちの串焼き屋台の向こうにある、どんぐり工房の職人作らしいって事しか分からない。
景品の仕入れ担当のやつはこの祭りのどこにいるか分からない」
この人の多さでその仕入れ担当の人を探すのは難しそうね。
「どんぐり工房? 可愛い工房名ね」
「植物モチーフの細工を好んでいるやつの工房らしいんだが、どんぐりが好きなんじゃねえの?」
気が合いそうだ。
どんぐりって見た目可愛いよね、特に帽子付きのやつ。
「おじさん、ありがとう!」
腕相撲のおじさんに工房の情報のお礼を言って、お父様に工房を覗きたいとお願いして許可が出た。
「せっかくだし、お土産に串焼きを買って行こうかな」
「自分が食べたい訳じゃないのか?」
「もちろん自分の分も買うけど!」
「あ! お嬢……じゃなかった、アリア。
あそこに苺飴がありま……あるよ!」
うっかりお嬢様と言いかけたね。
リーゼはまだお忍び用の私に慣れていない。
「リーゼお姉ちゃんは苺飴が好きなのね。よし、可愛いし、進行方向にあるからついでにあれも買おう」
私の許可がないと勝手に護衛から離脱して買いに行けないので欲しいものが有れば同行するから主張してくれと言ってある。
「これは……ラム肉の串焼きね」
もぐもぐ……美味しい。
「この苺飴も美味しいですよ」
「それは良かった」
私もお土産用の串焼きと苺飴をカバンに偽装したインベントリに突っ込んで持って帰る。
途中の屋台グルメに寄り道しつつも、私達はどんぐり工房に着いた。
「お父さん屋台の串焼き食べたい……」
「お父さん、あたしも屋台の苺飴食べたい」
「祭りの屋台の食べ物は高いからダメだ」
工房に入ると何とも世知辛いセリフが聞こえた。
確かにやや祭り価格だったから、収入が厳しいと躊躇するよね。
「お父さんのこの間のアクセ売れたんじゃなかったの?」
「売れたけど、そんなに沢山は売れてない」
「わざわざどんぐりのアクセなんか作らずに、花とか売れ線だけ作りなよ、お父さんは腕はあるのに」
兄妹らしき子供が職人のお父さん相手にぼやいているようだ。
私は棚に並ぶ商品のアクセを見てみた。
めっちゃ可愛いどんぐりモチーフのペンダントとかが有る。
素敵!
私は思わず声をかけた。
「こんにちは。ここに並んでいるのは貴方の作品ですか?」
「はい。お客さんかな?」
「ええ、とても可愛いわ。特にこのどんぐりや苺のアクセ、とても好み」
「あれ、その髪に有る苺のカチューシャは」
「さっき腕相撲大会でお父さんが勝ち取ってくれたんだけど、気に入ったからどこの職人の手に依るものか聞いてこのどんぐり工房に来たの」
「それはそれは」
工房主が職人本人のようだ、作品を褒められて嬉しそうに笑ってる。
「この棚の、ここから、ここまで、全ていただくわ!」
ここからここまで全部! のセリフが自分で言えるのって気持ちいい!
「え!?」
「今、お嬢ちゃん、全てって言ったかい? 酔っている訳じゃあないよな?」
「酔ってないわ。うちもお店やってて売り上げがあるの」
私は鞄からお財布を出した。
そしてじゃらっと輝く金貨と銀貨を出して見せた。
「ほ、本気だったのか! あ、ありがとうございます!」
「ついでにこれも、子供達にあげましょう」
「わあ! ありがとう! 串焼きだ!」
「苺飴だ! ありがとう可愛いくて親切なお姉ちゃん!」
「さっき買ったお土産のお裾分けよ」
「可愛いくて優しいお嬢ちゃん、うちの子に串焼きや飴までありがとう。
価格はサービスしとくよ」
「全部定価で買うわ! サービスは自分の家族にしてちょうだい」
「何と……」
「うちの娘もそう言っているので、通常価格で」
「ありがとうございます」
職人は頭を下げて礼を言った。
「ついでに、こちらのカードの会社で商品のアクセサリーを作ってくれる職人も探しているので、考えてみてね」
私は鞄から名刺のようなカードを出した。
「シャッツ? ライリー王都支店?」
「まだこの辺までは知られてないようだけど、なかなか売れてる店なのよ」
「ライリーといえば、ドラゴンスレイヤーの領主様と絶世の美女の奥方と、絶世の美少女のお嬢様がいる所だとか……」
「流石にそこは知っているんだ……」
リーゼがぽそりと呟いた。
「いつか行ってみたいですなあ」
「その気が有るならいつでも招待するわ」
「はい!?」
「私、そこの領地には顔が利くから」
私がそう言うと、後方で身内の何人かから、笑いをこらえている気配を察知した。
領主の娘が顔が利くって何だよとツッコミたいのだろう。
「たいしたもんだ。いえ、失礼。さては大きな商会のお嬢様なんですね?」
「まあ、そのようなものね」
この場はひとまず、そう言う事にしておこうと思った。
後日スカウトをこの店に送ってから、本格交渉をして貰おう!
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