第255話
「結婚式に希望はあるか?」
学院内のガゼボにてランチを食べた後の食休み中に、突然そんな事を聞いて来るギルバート様……。
我が婚約者の王子様よ……。
「王都の神殿でやるんですよね。ライリーの城だと身分はあってもこちらに悪意ある人が入ろうとしたら結界の作用で転移陣で弾かれ、入れなくて気まずい思いをするかもしれないから」
前世の両親やお姉ちゃん……家族を呼べる訳でも無いし……。
特にはないかな。
「まあ、そういう事だが」
「特には無いです。
参加者が安全に過ごせて不自由なく移動などもスムーズであれば良いと思います」
「……自分の結婚式でも、特には無いのか」
ギルバートは少し寂しげな様子だ。
わがままでも言って欲しかった?
「あ、有りました。あんまりお金かけなくて良いです」
「貴族の令嬢は一生もの、葬式まで語り継がれる可能性を考えて、侮られないよう、自慢になるよう、ここぞとばかりに結婚式には金をかけると聞いたが」
「私は世界一かっこいいお父様と世界一美しいお母様の子なので、それだけで三国一の花嫁と言われても過言ではない気がするのですけど」
「自信満々だな」
「そうなんですよ。中身はともかく容姿にだけは自信があるので」
「はははっ。其方には敵わないな」
「デビュタントのドレスも結局着る本人が美しいのだから、シンプルでも何でも美しく見えるだろうという結論に達したんですよ」
「そうだな。あの場の誰よりも美しかったとも」
……む。
「……あんまりまっすぐ見つめないで下さい。照れるので」
凛々しくも美しい顔で、そんなに見られるのは照れる。
中身は変な女だから。
「そんなに綺麗なんだから照れなくても良いのでは?」
「それはそれです。間近で見られて照れるのは仕方ないので!
あ! そういえば新婚旅行は島が良いです!」
「島……か」
「ダンジョンとかある島だとなお良いです!」
「待て! なんで新婚旅行でダンジョンに潜ろうとしているんだ!」
「……じゃあとりあえず景色の綺麗な島で良いですぅ〜〜」
「突然不貞腐れるのをやめてくれ。ダンジョンが危険なのは分かるだろう?」
「頑張ればなんとかなる気がして……」
「何が起こるか分からないからな。とにかくダンジョンは新婚旅行で行く所ではない」
「はい……」
私はがっくり来てガゼボのテーブルに突っ伏した。
「そのかわり、成人したし、オークションには連れて行っても良い」
「オークション! 良いですね!」
ガバッとテーブルから体を起こした。
我ながら現金なものである。
かっこいい剣とか無いかな?
──でも、あったとして、お高いんでしょうね。
まあ、見学できるだけでも楽しいかも。
オークションて大人のお金持ちの世界だものね。
前世では取引き相手の顔も見えないアプリ間取引きでしか関わっていない。
そして昼休み時間の終了を告げる鐘の音が聞こえた。
午後からは違う授業だ。
女生徒用の令嬢向け基本授業に刺繍があったので、いっそ今懐妊祝いの刺繍をしてしまおうと思う。
しかし、学院内で布と針を持つと、前世の家庭科の授業を思い出す。
エプロンとか作ったなあ。
「セレスティアナ嬢はギルバート様への贈り物を刺繍されるのですか?」
読書クラブの令嬢にそんな事を訊かれた。
けどここは正直に答える。
「いいえ、懐妊された御婦人のお子への御守り刺繍です」
「あ、もしや、公爵夫人の?」
そう言えば王子妃殿下の懐妊はまだ公式には秘密なんだろうか?
安全面を考えて?
まだ身内情報のみで世間的にはお話は出ていないのかも。
「ええ、そうです」
「婚約者様には何か刺繍した物を贈られた事はございますか?
私、自分の婚約者に何の図柄のハンカチを渡せば良いのか悩んでおりますの」
「私のは参考にならないと思いますが、リスの刺繍などをお渡しした事が有ります」
だいぶ昔にあげた……。
「まあ、可愛いらしい。ギルバート様はリスがお好きなのですか?」
「さあ?
でもリスは蓄える生き物ですから、お金が貯まるようにと、財布にでも使って下さいと言って渡したのですが、壁に飾っていたようです」
「壁に!?」
「はい、額装して壁に」
「まあ、よほど愛らしくて気に入ったのでしょうね」
令嬢はギルバートの行動を微笑ましく思ったようだ。
柔らかく微笑んでいる。
「それはともかく贈り物なら相手の家門のモチーフを入れたり、御守り効果の有る文字を縫うのも良いのではないですか?」
「家門……私の婚約者は百合と剣ですわ」
「まあ、高貴で素敵」
百合と剣はマジでかっこいいのでは? と、私は思う。
「お花の百合ですか、素敵ですわね。
私の婚約者は鷹なので難易度が高いですわ」
他の令嬢まで会話に混ざって来た。
「鷹もかっこいいですね。もしやお相手は武勇で秀でた家門の方かしら?」
「そうですの! 私の婚約者はとても凛々しい騎士で、冬の魔物狩りでも……」
突然自慢が始まった!
でもなんだかんだと皆、楽しそうなのでヨシ!
騎士良いよね。
なんだかんだと楽しげな会話をしながらも、授業は進んだ。
「少し休憩にいたしましょう、お茶の用意が出来ました。
あちらのテーブルに移動して下さい」
「はい」
優雅にお茶など用意してくれるのが前世の学校とは違う、流石お貴族様の通う学院だな。
──などと、芳しい紅茶の香りに包まれながら、私はそんな事を思った。
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