第253話

「王城の薔薇園でのクリスタルの記録映像ですか? 

ええ、ございます。

美しい薔薇を背景にした美しいセレスティアナお嬢様はしっかり記録に残しております。

でもどうして薔薇園でギルバート様はセレスティアナ様とご一緒しなかったのですか?」


「せっかく令嬢達と仲良くやってるとこに私がいたら私ばかりに気を使う事になるかと思ってな。邪魔したくなかった」


「まあ、遠慮されていたんですね」


 ライリーの城の廊下で会ったついでに、セレスティアナに仕える女性の護衛騎士リーゼ卿に頼んでみた。

 彼女が懐のポケットから差し出してくれた板状のクリスタルには、しっかりデビュタントの時の美しいセレスティアナの記録が入っていた。


 あの薔薇園は薔薇の種類が多い。

 色とりどりの薔薇の前で微笑む姿は春の女神のようでもある。


 板状のクリスタルはその場で中身が確認出来るのが長所だ。

 球体の記録のクリスタル宝珠だと投影器に嵌めた後にスクリーンに映す手間がいる。


 うん、いつもながら俺のセレスティアナはとても綺麗で愛らしい……。


 俺はリーゼ卿の持っていた記録のクリスタルから、先日の薔薇園でのセレスティアナの記録を自分のクリスタルに写させて貰った。



「ギルバート様はお嬢様の珍しい、私の知らない記録映像をお持ちでしょうか?」


「ん? 

最近のやつだと、ウィルや子供達が彼女の緩く編んだ三つ編みに花をこれでもかと飾っていたものとか……」

 

 ウィルは領主の子だから最初は乳母の子としか遊ばせてなかったが、いつの間にか他の子とも遊ぶようになってしまった。

 ウィル本人がみんなと遊ぶと駄々をこねるから仕方ないようだ。

 俺は記録を移させて貰った礼にリーゼ卿にも見せてやった。


「わあ! なんて綺麗で可愛いらしい! 髪に花が沢山飾られていて……。

私この時は休みでしたから見逃していました!」


「子供達は妖精のなんたらとか言っていたな。

そんな風に髪に花を飾っている妖精の出る絵本が有るのだ」


 リーゼ卿ははこくりと頷き、ポニーテールを揺らした。


「たまに映像の交換をして下さいませ」

「構わないが、其方も大概自分の主とはいえ、セレスティアナが好きだな」

「お嬢様はあんなに天使や妖精のように綺麗で愛らしいのですよ! 

当然です!」


 そう言ってリーゼ卿は胸を張った。


 セレスティアナは確かに天使のような外見をしている。

 輝くプラチナブロンドに、新緑の瞳は澄んでいて美しい。

 愛らしく魅惑的なさくらんぼのような色の唇。


 美の神の祝福を受けまくったかのようなあの際立った顔、容姿!

 部下まで魅了してしまうのも納得せざるを得ない。


 成人して体つきも女性らしく魅力的なラインを描いているし……。

 流石あの絶世の美女と誉れ高いシルヴィア辺境伯夫人の娘。

 胸元たわわの資質まで受け継いでいる……。


 はっ!!

 いかん、こんな所でそんな事を考えては!!


「さて、そろそろ用事があるので私は行く」


 セレスティアナに渡しに行く物がある。

 おそらくアトリエにいるから行ってみよう。


「はい、ありがとうございました」

「こちらこそ礼を言う」



 * *


「シルクの夜着、ご用意出来ました。

シエンナ様用には色はピンクと淡いパープルの二着。

王子妃殿下には白と淡いブルーで」


「デザインもそれなりに変えてあるし、これで良いでしょう」


 セレスティアナが己のアトリエにてメイドと確認していたのは、懐妊祝いの贈答品の夜着の見本だったようだ。


 トルソーに着せられた夜着が並んでいる。


「す、すまない。もう夜着の見本が届いていたのか」


 俺はアトリエの入り口で慌てて後ろを向いた。


「ギルバート様、ただの服ですから後ろを向かなくても大丈夫ですよ」

「しかし、通常本人と夫と侍女かメイドしか目にしない夜着だろう」


「これは上品なデザインでセクシー系のベビードールなどとは違いますけどね」


 セクシー系!?


「そんなものがあるのか……」

「ふふふ。有るんです。私は下着や夜着には拘りますからね」

「そんな知らぬ所でまで其方は革命を起こしていたのか……」

「夫となる人も得するので良いではないですか」


 俺も早くセレスティアナの夫となりたいのだが!

 と、心の中で叫んでも通じないので、俺は手近にあるテーブルに手にしていた紙を置いた。


「こ、ここに貯水池を作る地域に関するスケジュールのメモを置いて行く」

「はい!」


 そそくさとセレスティアナのアトリエを出た。

 ひとまず俺の騎竜のメイジーの世話をして心を落ち着けよう。


 メイジーに新しい水や餌の植物を与えていたら、側近の一人、チャールズが駆け寄って来た。


「ギルバート様、出店の屋台が城の庭園内で店開きの時間なのですが、今日からアイスが追加されました!」


「昨日まではクレープと串焼きだった気がするが、アイスか、いいな」

「数に限りがあるそうですから、とりあえずギルバート様とセレスティアナ様の分も含めて10個分予約してきました」

「そんなに?」


「ギルバート様の元からの側近である我々が五人で、後から加わった竜騎士が三人いますので」


「ああ、するとセレスティアナの方の護衛騎士の分は」

「リーゼ卿などは自分で買っていたようなので」

「そうか。自分で買うのも楽しいのかもしれないな」


 城の裏手にある厩舎を出ると陽射しの暖かさに、思わずマントと上着を脱いだ。

 布製の亜空間収納魔法陣の中に脱いだ物を放り込む。

 俺は身軽になって石畳の続く道を歩く。


 少し先に行くとシロツメクサやハルジオンのような野花をわざと残してある場所で鶏が草を啄ばんでいた。


 彼等の餌場でもあるし、城で働く親の子供達が四つ葉などを探したり、シロツメクサで花冠などを作っているのどかな一帯だ。


 城裏の池には子供と母親らしき使用人が鯉を眺めつつ美味しそうにアイスを食べていた。


 城の託児所に迎えに行った親と子の休憩時間なのだろう。

 近くのベンチにはホットドッグを食べている使用人もいる。


 主に貴族や騎士のスペースである表の庭園の他にも、裏の平民の従業員用にもそれぞれ屋台が出ているから、彼らもお金さえ出せば美味しい物が食べられる。


 俺の存在に気がついた使用人達が頭を下げた。


 いかん、あまりにのほほんとしたのどかな光景につい見惚れていた。

 さて俺は表の庭園に移動しよう。

 気を使わせてしまうからな。

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