第252話

 本日は王城にお泊まり。


「突撃! 彼氏のお部屋デート企画」は無理だった。


 けれど、王都にタウンハウスを持ってない遠方から来た貴族は王城に泊まる事も出来る。


 なので突発でオリビアと同じ読書クラブの令嬢も加え、パジャマパーティーを企画した。


「この部屋のベッドは大きいので女三人くらい寝れますよ」

「三人で同じベッドで寝るのですか? ワクワクします!」

「私もご一緒出来るなんて嬉しいですわ」

「最近読んだ素敵な物語のお話でも、好きな男性の……婚約者のお話でも、よければ聞かせて下さいませ」


「夜にお友達とパジャマパーティーで恋のお話!

乙女ゲームでそのシーンを見て以来、実は密かに憧れていましたの。

ついに念願叶うとは、思ってもいませんでした!」


 そんなわけで春の宵。

 女の子同士できゃっきゃしながら楽しくパジャマパーティーをする事にした。


 *


 翌日の朝、朝食の後に令嬢達と薔薇庭園を撮影してから、王都の教会の転移陣前でギルバート達と待ち合わせをしていた。


 朝から教会で神職の方達のゴスペルが聴けて清々しい気分になれた。

 お得!


 しばらく清らかな歌声を聴いていたら、ギルバート達が王城からやって来た。

 そして軽く雑談。


「え? セレスティアナはパジャマパーティーをしたのか?

聞いてないんだが」


「ギルバート様。

お話ししても男性は女性達のパジャマパーティーに混ざれませんから」


「それはそうだが……、楽しそうだな」

「ではギルバート様も男性の男友達とも同じ事をやってみては?」


「いや、それはどうかな。微妙に気持ち悪い気がするな。

そしてただの飲み会にしかならない気がする」


「気の置けない男友達との飲み会も楽しそうだなと、私は思いますよ」

「飲むだけならパジャマになる必要は無いな」



 などという会話をしつつも、私達は教会の転移陣からライリーへ戻った。


 * *


 翌日の昼過ぎになって、私は春の庭園を彩る、美しい花々を見ながらゆっくりお散歩。


 風が吹くと花の香りが届く。


「お花いっぱいで良い香り……」


 いつからか、愛らしいハチドリもここの庭園に来るようになっていた。

 釣り鐘状のお花の蜜を吸ってるみたい。


 妖精のリナルドも私の肩の上でご満悦。


 花以外にも私は芝生とかの緑もお気に入り。

 緑色がとても瑞々しく鮮やかで綺麗なので。


 寝転がると気持ち良さそうなんだけど、貴族の令嬢なので、そんな所を見つかったら怒られる。


 その芝生の上に直接座って、地図を広げて何やら思案顔のギルバートを見つけた。

 王族や貴族でも男だと直接芝生の座っても怒られないようだ。

 良いなあ。


「ギルバート様? 

こんな天気の良い日に地図を広げて何をしているんですか?」


「セレスティアナか。

ここらは先だって干魃で酷い目にあった地域だ。

水の精霊の力で地下水がある所を探って汲み上げて貯水池を作ろうと思ってな」


 彼の指先は地図上のある地方を指し示していた。

 グランジェルド王国内ではあるけど、他領の田舎の方だ。


「お外に出てまで仕事をしていたのですか」

「まあな。ついでに大地の下の水脈、水の精霊の気配を探る訓練をしていた」


「なるほど、だからわざわざお外の大地の上で訓練を……。

そうだ、貯水池が必要なら私が土魔法で池用の穴を開けますよ」


「よその領地の事だが、わざわざ協力してくれるのか、ありがとう」


「干魃だと食糧難で苦しんだ人がいるのでしょう。

ライリーの治水作業ではこちらも多くの人の力を借りて、お世話になったので、他所の領地でもこれくらいは」


 その時、早足でこちらに向かってくる足音が聞こえた。


「お話中、失礼します! ギルバート様、速報です」


 ギルバートの側近が慌てた様子で芝生ゾーンに入って来た。


「どうした?」


「グランジェルド第一王子アーバイン殿下、王子妃様、御懐妊の知らせです。さらにエーヴァ公爵夫人、シエンナ様も御懐妊とのこと」


 わあ! おめでた!


「え!? そんな立て続けに!? いや、めでたい事だが、何故そんなに時期が重なったのだろう」


「ご婦人方はお二人で子宝に恵まれるといわれる神の神殿に参拝されていたらしいですよ」

「そうか、仲が良いのだな」


 神の加護が顕著で凄い。


「ともかくおめでたいですね。お祝いを用意しましょう」

「私は子供を産んだ事など無いから、よく分からないが、贈り物は栄養価の高い食べ物や、美しい布、生地とかで良いだろうか」


「布といえばシルク生地もいいですね、シルクの寝巻きを着ると皮膚細胞を健やかにして、体の冷えや毒素を排出するとか聞いた事があります。

他は銀のスプーンなどどうでしょうか」


「銀のスプーン……ああ、毒見用か」


 いえ、銀のスプーンは前世の知識で生涯食いっぱぐれ無いようにって意味と魔除けの意味ですが。

 身分的に没落しなければそんな食べる事の心配は全くいらないだろうけど。

 超富裕層だし。


 でも元はと言えば毒殺を警戒する富裕層で流行っていたからそういう風に言い伝えが残った訳だし、結局同じ事かな。


「他はオムツ、スタイ、お包み、ブランケットくらいなら思いつきますけど。これは平民寄りの贈り物でしょうか?」


「オムツはそうかもしれないが、お包みとブランケットとスタイは良いのでは?」


「では出産祝いの品はすぐに手配しましょう。貯水池の件はまた日程を知らせて下さい。私は両親にも今の話を伝えて来ますので」


「ああ。私は一旦王都へ戻る」

「はい」


 *


「それで、可愛いスタイかお包みをミシンで縫って貰ってそれに刺繍を入れて贈ってみようかなと」


「なるほど、ティアのお守り刺繍入りなら喜んでいただけるだろうな」

「贈り物に使える上質な布地は残っていたかしら?」

「お母様、私のインベントリに入っています」

「なら良いわ」


 春休みも色々とやることが多いのだった。

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