第251話

 本日はライリーのお城の屋上にてサンセットバーベキュー。


 私はジークお父様やシルヴィアお母様にも、先日の海の幸を味わっていただきたく、屋上にバーベキューセットとテーブルセットを用意したのだ。

 

 本日は夕焼け空もとても綺麗で、良いバーベキュー日和。

 海鮮の焼ける香ばしい香りもしている。

 

「ホタテのバター焼きとイカ焼きどうぞ」

「こちら、魚と海老も焼けました」

「アヒージョも完成です! バゲットはこちらに」


 料理人とメイドがタッグを組んで焼き作業と配膳をしてくれる。

 ギルバートも騎士達と仲良く食事をしている。


「このカニミソ、濃厚で美味しいな」

「お父様、こちらの甲羅酒も良ければ試してみて下さい」

「ああ。いただくよ。……うん、美味しい、これはしみじみと美味しいな」


 夕焼け空の下で甲羅酒をいただくイケメン! お父様は今日も最高に絵になる!

 渋い!


「これは、ドワーフのゴドバルさんにもお土産に少しだけ残しているんです」

「酒好きだから、すごく気にいると思うぞ」


「お母様にはトマトソース味のカニのリゾットもどうぞ」

「ありがとう、美味しいわ」


「何となく見た目が渋すぎて、貴族の女性向けではない気がしたので、あえてお父様にだけ用意してしまったのですが、お母様も甲羅酒に興味がありますか?」


「私はリゾットも美味しいし、他にも沢山食べる物も飲み物もあるから大丈夫よ」


 お母様はニッコリ微笑んでそう言った。

 やはり、これで良かったみたい。


 実は和風のカニ雑炊とどっち作ろうか悩んだんだけど。

 たまにはリゾットも良いよね。


「ところでティア、デビュタントの準備は順調なの?」

「ドレスの事でしたら針子がミシンで頑張ってくれています」

「アクセサリーの方は?」


「ギルバート様がアクセと晩餐会の着替え分は手配してくれていて、もう納品されて手元にあります」


「そう、わりとギリギリまでデザインも出来てなかったから少し心配だったのよ。

もうすぐだけれど、間に合うのね?」


「間に合います」


 結局シンプルデザインでも良いかなって……。



 *  *


 

 デビュタント当日の夕方になった。

 よく晴れた春の日の夕暮れ時。

 神棚にお供えをして、デビュタントの成功を祈る。



 私は前日までにしっかりと体の隅々まで磨かれ、念入りにメイクをされ、王城へ来た。


 今日は薔薇の咲き誇る春の王城の舞踏会会場に、白いドレスを着た令嬢達が集う。

 来賓の方も多く来ている。


 私もきらめくダイヤの髪飾りに白いドレスを着て、王城のパーティー会場の階段を登るなんて、まるで御伽噺のヒロインみたいで流石に少し緊張する。


 どこからともなく花びらまで降ってくる。

 風魔法使いの演出だろうか。


 天井には豪華なシャンデリアが輝いている。

 流石に王城は煌びやか。


 我々新成人は壇上におられる国王陛下と王妃陛下に礼を取り、成人のお祝いの祝福の言葉を授かっていく。


「グランジェルド王国の太陽、国王陛下、王国の月、王妃陛下にご挨拶申し上げます」


 畏れ多くも私は国王陛下に、「ようやく会えたなセレスティアナ嬢。嬉しく思うぞ」

 などというお言葉をいただいた。


 私も白いドレスを着て、黒い燕尾服を着たギルバートのエスコートで楽士の奏でる華麗な曲に合わせて優雅にダンスを踊った。


 そして曲の終わりに、来賓の方達からの盛大な拍手が響いた。


 *


 ダンスが終わって晩餐の時間。

 立食パーティーだけど、白いドレスでの食事は怖いので殆どの令嬢が一旦着替える。


 私は赤い薔薇のような色のドレスに着替えた。

 ギルバートが贈ってくれたドレスだ。

 軽く食事をとった。


「──はあ、流石に緊張しました。お肉は美味しいけれど早く帰りたいです」


 私は高級な牛肉の赤ワイン煮込みを食べている。


「せっかく王城に来たのに、明日の明るい時間に薔薇庭園を撮影しなくていいのか?」


「そうでした! 夕方入場で忘れていました、薔薇庭園の撮影!」


「セレスティアナ様! 記念撮影させて下さいませ!」

「学院演劇を見た時からファンです!」


 あらら……クリスタルを手にした令嬢達が集まって来た。


 その後、乙女ゲームの新作はいつ出るのかとか、美容化粧品や日焼け止めの販売量を増やして欲しいなどの質問と要望が次々に出た。


 今の所、日焼け止めについては原材料を量産出来ないと難しいのだ。


 しばらく令嬢達と記念撮影してから、一息ついてバルコニーでジュースを飲み、休憩する事にした。


 既に陽は落ちてすっかり夜。

 美しい月夜だ。



「ギルバート様、お手紙を預かって来ました」


 ギルバートの側近の騎士が手紙を持って来てくれたけど、すぐに気を利かせパーティー会場に戻った。


「……村から?」

「村ってどこの村ですか?」


 差出人の所を見て首を傾げるギルバートに私は興味がそそられて思わず訊いてしまった。

 封筒の雰囲気からして貴族ではない。

 平民が頑張って買いました的な雰囲気。


「ああ、思い出した。ベニ村か。

竜騎士コースの授業で行った村で、縄……古い吊り橋の修復を請け負ったんだ。

何でもいいから遠出して人助けしろって課題があって。

竜に乗ったまま風魔法で滞空を維持してな。

大事な移動手段の吊り橋が万が一でも落ちたら孤立するっていう山に住んでいる村人達が感謝の手紙を」


「わあ! とても良いお話!! 良い事をしましたね」


「出張で魔物退治もあったが」

「そんな興味深い話をなぜ今までしてくれなかったのです?」


「今日はどこそこで人助けして来たって、わざわざ自慢みたいに話すのもどうかと思ってな」


「奥ゆかしい……。

あ、そうだ、吊り橋修理のネタは今度乙女ゲームのシナリオに使っても良いですか?」


「別に構わないが、また新作が出るのか」

「あんな高価なクリスタル実機販売して一作だけで終わらせたりしませんよ」

「記録の道具として皆使っているようだが」


「あの機能は追加の高価な術式を購入した人にだけ付いてる機能ですよ」

「ほぼ皆、購入してるように見える」

「まあ、購入者は貴族の令嬢が殆どですから。親がお金を出してくれる人も多いのでしょう。

ところでまたどこかの吊り橋修理に行く時は誘って下さいよ、アスランで同行します」


「基本ただの田舎の山村だぞ」

「いいじゃないですか、それで。私の植物魔法が唸りますよ。

蔦がビョーンと伸びて古びた縄を補強出来ますし、新しい橋も作れます」


「そ、そうか、なるほど、分かった」

「今夜一晩王城で泊まって、明日の明るい時間に薔薇庭園を撮影する訳ですが……」

「ああ、それで問題ないだろう」


「ところで王城にギルバート殿下のお部屋がありますよね?」

 入れ替わり事件の時に一回行ったけど。


「あるが?」

「お部屋を拝見出来ないでしょうか?」

「え!? き、聞いてないぞ、俺の、いや、私の部屋に来るなんて。

いや、見たことはあるだろう? 妖精の悪戯で中身が入れ替わった時に」


「それはそうなのですが、やはり無理でしょうか?」

「婚約者とはいえ、夜に男の……私の部屋に来るのはまずいだろう」

「やはり難しいですか、せっかく王城に来てるからどさくさに紛れてお部屋に行けるかと思ったのですが」


 彼氏と彼氏の部屋でお部屋デートというものに興味があった……。


「いやいや、そんなのどさくさに紛れるのは無理だろう。絶対に噂になる」

「部屋が見たいだけだと言い張るとか」

「いやいや、厳しいぞ、それは」


 うーん。

 前世の乙女ゲームじゃ彼氏のお部屋でのデートは最高に萌えるとこなんだけど。

 王族貴族はお部屋デートもままならないな。


 先日は冷蔵庫用の魔石交換にかこつけて、ライリーの城内のお部屋潜入なら成功したんだけど。

「こんな綺麗なお部屋で育ったんだ、素敵だね」とかいう会話をしたり、わざわざベッドに座って、何故そこに座った?

 みたいなドキドキ会話イベントが起こせないな。

 残念!

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