第248話
「今は至る所で花盛りだと思うが、誰か希望の花園はあるか?」
ギルバートがそう訊いて来たので、私はかねてからの要望を言ってみた。
「出来れば水場の近くで釣りが出来たら嬉しいです。
道具はインベントリに入っていますので」
「え!? 釣り!?」
「セレスティアナ、連れがいるのにいきなり釣りはどうなのだ?」
「連れがいるから万が一魚が釣れなくても雑談しながら釣り糸を垂らしておけるかと……」
「推し語りなら任せて下さい、セレスティアナ様!」
「では、二人とも、会話がメインで別に魚は釣れなくてもいいのか?」
「私はあわよくば釣りたいくらいの気持ちはあります」
「私はセレスティアナ様の隣で会話ができればそれで良いですわ」
「そ、そうか、レイラ夫人がそう言うのなら……、コナー卿はどうする?」
「後方で自然とレディ達を眺めつつ、見守っていますので大丈夫ですよ」
「ところで釣りの最中に話などしていたら、魚が逃げるのでは?」
ギルバートがまだ心配してくる。
「そんなに大声では話しませんし、遠くに針と餌を飛ばせば良いのでは?
遠くに餌を飛ばすのは風のスキルでギルバート様が援護してくれるって信じています!」
「全く其方は調子がいいな。
スキルで援護するのは構わないが、ドレス姿で釣りをするのはどうかと思うぞ」
「私は花見と食事の後、テントで釣り用に動きやすい服に着替えます」
「ルーエ領に花と湖の両方楽しめる場所がある。
転移陣の設置してある神殿も湖のほとりにあるから、そこが都合が良いだろう。
着替えは神殿内の部屋を借りたら良い」
「あ! お嬢様、私も動きやすい服に着替えます!
それと武器もインベントリから出して下さい」
「分かったわ、リーゼ。とりあえず武器は劇場前から移動してからね」
「はい」
*
王都の神殿からルーエの神殿へ転移陣で移動したら、目の前に大きな湖が見えた。
私はすぐにインベントリから護衛騎士のリーゼと男性陣の武器も出して渡した。
リーゼはいち早く神殿で着替えをして武器も装備した。
さあ──っと時おり爽やかな風も吹いていて、湖の辺りは気持ちが良い。
「わあ──、新緑が綺麗ですね。湖も陽光を受けて輝いています。
あ、あそこに綺麗な花が沢山……」
可憐な鈴蘭、鮮やかなチューリップ。
他にも神殿の人がお世話しているのか、花壇には美しい花が沢山植えてあった。
しかし、花壇の他にも花は咲いている。
「あちらの方には背の低い木達に綺麗な白い花が咲いていますね」
「景色の良い所ですね。こんな所でピクニックが出来るなんて嬉しいですわ」
私達はいい感じの場所にピクニックシートの代わりの敷き布を敷いた。
籠の上にはおしぼりも用意して、皆、行儀良く手を拭いた。
野外なので虫除けの香も炊く。
「お弁当のメインはチーズ入りハンバーグとクロワッサン。
他にはハム、キッシュ、サラダに、おやつはオランジェットです」
「オランジェット、これはオレンジを輪切りにしてチョコレートがかかっているんですね。とても可愛いです」
「オランジェットは、おっしゃる通り、オレンジ、柑橘の皮をお酒や砂糖漬けのピールにし、チョコレートでコーティングしたものです」
「チョコレートの甘味と柑橘の酸味、そして皮にあるほのかな苦みが甘すぎず、いいバランスですね」
「あら、レイラ夫人はいきなりおやつのオランジェットから食べちゃったんですか」
「セレスティアナ様、申し訳ありません、可愛いかったので、つい」
「ふふ、良いですよ。気になったんですね」
「焼き立ての香りのクロワッサンも最高ですね」
エイデンさんはクロワッサンを手にしている。
「バターの香りが……香ばしくて、美味しいです。
シナモンも効いていますね」
リーゼもエイデンさんに釣られたのかクロワッサンを美味しそうに食べている。
「キャンプセットとスープも出せます。スープ用に焚火台も出して……」
私はインベントリから焚火台や網と器なども出した。
焚き火台の収納ケースはA4くらいのコンパクトサイズだ。
「実はスープやシチューは温め直さずとも飲めるのもありますけど、ここは雰囲気を重視して」
「セレスティアナがこのお気に入りの焚火台を使いたいのは理解した」
あはは。
私、お気にのキャンプギアを見せたい人みたいになってる。
「この焚火台、良いですね。足までついてて」
「そうでしょう、流石コナー卿、お目が高い。
石を組んでカマドを作るのも風情があって良いのですが、これはお世話になっているドワーフに頼んで作って貰った物です。
この焚き火台は折り畳み式で、比較的軽量で女性でも運べます。
使い勝手もいいのです。
この台にはわりと大きめの薪も置けます。
火床には空気を取り込む穴が開いているため、しっかりと燃焼させることが出来、下には火の粉の受け皿の耐火プレートもついています。
更にパーツを全てバラして洗えるので後片付けも簡単です」
「セレスティアナ、すごく早口だな」
ギルバートに突っ込まれた。つい、熱が入って……。
前世で見た焚火台を再現して作って貰ったの……。
「軍が欲しがりそうな感じですね」
「コナー卿、その通りで、よく遠出する竜騎士からも遠征用に注文は来ています」
「ところでセレスティアナ様、釣り竿は何本お持ちなんですか?」
「インベントリに五本あります。エイデンさんも釣るなら出しますよ」
「ええ、出来ればお借りしたいです。ところで、この湖には鰻はいるでしょうか?」
『鰻いるよ』
「わあ、リナルド! 今まで寝てたの?」
妖精のリナルドと小さくなってた霊獣アスランが鞄から急に出て来た。
『うん、何か良い香りがして来て』
「ぶどうと苺を出してあげる」
インベントリからリナルド用にフルーツを出してあげた。
ちなみに霊獣のアスランは食事をしない。
撫でてあげれば満足する。
『ティア、ありがとう』
リナルドはそう言って苺から食べはじめた。
「エイデン卿は鰻がお好きなのですか?」
「ええ、コナー卿は甘辛いタレで鰻を食べた事はありますか?」
「いいえ」
「もしかしたらほぼタレの力かもしれませんが、ライリーで夏に鰻を食べさせていただいているのですが、とても美味しいのですよ」
前世の世界では古代ローマ人も鰻を好んでいて、炭火で焼いて魚醤に蜂蜜酒とナツメを加えて食べていたらしい。
だからこっちの人も鰻を気に入ってもおかしくはないな。
美味しい食事の後はお花や湖の前で記録のクリスタルで記念撮影して、釣りの準備。
「神殿まで戻るのが面倒なので、私はテントを出してその中で着替えます」
「また堂々と面倒だと言ってしまったな……」
「良いじゃないですか、テントは日除けにもなりますし、荷物置きにもなります」
ギルバートに苦笑されるも私は気楽にテントで着替えをした。
シンプルなシャツとベストとパンツルック。
エイデンさんと私用に釣り竿、バケツ、ルアー、網などを用意した。
他はサポートと見学で良いらしい。
ギルバートのサポートで私の腕力でもルアーを遠くに飛ばす事が出来た。
釣り竿とリールもドワーフの特注品だ。
糸はアラクネーの糸を使用している。
良く伸びるけど強靭。元々の性質もあるけど、更にそういう加工が魔法でされてある。
「私はちょっとミミズを探して来ます」
私はそう言うエイデンさんにバケツとスコップを貸してあげた。
鰻を釣りたいエイデンさんはミミズを探しに木陰に行った。
しばらくしてミミズをゲットしたエイデンさんは、少し離れた場所で釣りをしていたのだけど、見事、なかなか大きな鰻を釣り上げていた。
何アレ? ビギナーズラック?
先を越された。
私は隣りに座っているレイラが乙女ゲームの大好きなノクターンの話をしてるのを楽しく聞きつつ、相槌をうったりしていた。
すると、突然私の竿がしなった。
糸がどんどん出ていく。
「なっ、何かかかりました! 糸を巻いて……重い!」
「このしなり方は、大物か!? セレスティアナ、代わろうか!?」
「し、身体強化! こ、これで大丈夫かと」
私は腕に土魔法系統の身体強化魔法をかけた。
だけど、私を心配したギルバートは私の腰を掴んで湖に引っ張り込まれないように支えてくれている。
レイラは後方に下がって「頑張ってくださいませ!」と、応援してくれている。
「えいっ!!」
しばらく引きの強い魚と格闘をして、何とか引き上げた!
ザッパーン!
水飛沫を上げて水面から踊り出た魚は90センチくらいあった。
「大きいですね!」
「本当に」
レイラもリーゼもびっくりしてる。
何かマスに似た大きな魚が釣れた!
『ウトーマって魚で食べられるよ』
「そうなのね! でも持って帰ってお父様に見せたいわ」
「ではとりあえず、新鮮なうちにしめておこう。ほら、セレスティアナ」
私はギルバートの言葉に甘えて後はよろしくしてもらった。
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