第247話

 私はつい最近15歳になって、この世界における成人年齢になったばかりだ。


 今は婚約者のギルバートと自領で春休みを満喫中。

 うららかな春の日に、彼からデートに誘われた。


「歌劇ですか? 

建物や衣装も綺麗だと聞きましたし、社交界での話のネタにもなりそうですし、行っても良いですよ」


 話を振られた時に、「知らない、行った事無い」では、そこで気不味くなりかねない。


「良かった。では一緒に行こう」


「どんなドレスで行きましょうか。暗闇に紛れた方が良いでしょうか?」

「な、何故闇に紛れる必要が有るのだ?」

「観客席で周囲の邪魔にならないように」


「いや、清潔で綺麗な服ならそれで良いと思うぞ」

「大きな帽子はもとより、後方の人が見えにくい髪型は避けた方が良いでしょうね」

「帽子は席に着いた時点で外せば良いのでは? まあ好きにするといい」


 * *


 観劇当日になった。

 今日は婚約者と歌劇を見に行くなんて、かなり貴族っぽい。

 貴族だけど。



「お嬢様、私まで良いのでしょうか?」

「ええ、大丈夫よ」



 護衛騎士のリーゼが遠慮がちに声をかけて来た。


 ラナンは歌劇に興味が無いみたいだし、チケットは護衛騎士の分も含めて四枚くれていたので良いのよ。


「護衛騎士の分も含めてチケットは合計四枚入っていたから大丈夫だぞ」


 ギルバートもそう言ってくれている。

 彼もいつも通りに最側近のエイデンさんを連れて行くみたいだから、私はリーゼを連れて行く事にしたのだ。



「ありがとうございます。歌劇観賞など優雅な事は初めてです」



「今日のセレスティアナのドレスは藤色か。綺麗だな」


「とりあえず派手過ぎないキレイ目のドレスにしてみました。

ギルバートは濃紺の衣装で体が引き締まって見えて、カッコいいですね」


 銀糸の刺繍も入っていて、高貴かつ、上品だ。


「あ、ありがとう」


 ストレートに褒めたら照れている。


 護衛のエイデンさんは黒系の衣装だ。闇に溶け込みそう……。

 女性騎士のリーゼも今日は観劇なので、通年で着回し可能っぽい上品な濃いグリーンのドレス姿だ。

 堅実だ。


 太腿のガーターベルトに暗器を仕込んでるらしい。

 劇場内持ち込み禁止の長剣は私のインベントリに一旦保管している。

 ギルバートとエイデンさんの分も私がインベントリに預かっている。


 男性二人は上着の内側と袖の下に小型ナイフを隠しているらしい。

 もちろん護身用だ。


 *


 転移陣と馬車も使って、我々は優雅に劇場に到着した。

 妖精のリナルドはバッグの中で大人しくしている。


「わあ、綺麗な建物ですね」


 観劇が初めてなリーゼが初々しい反応だけど、私も初めてだ。


「壁面の彫刻が見事ね」


 私も神話っぽいモチーフの彫刻が華麗で立派な劇場に素直に感心した。

 この彫刻をコツコツ彫るのはさぞ大変だったろう……。

 流石グランジェルドは大国だ。


 我々は館内に入り、ギルバートが同行者全員分のチケットを出して、私は通路を見た。


 建物の中も綺麗だ。

 壁には歌劇の演目に関連する絵も飾られているそうだ。


 劇場には他にも着飾った貴族達が大勢来ていて見栄えがする。

 春らしく、明るい色のドレスも人も多い。


 私がキョロキョロと通路にいる貴族達の衣装の観察をしていたら、案内人が早歩きでやって来た。


「特別席にご案内致します」


 VIP席だ!


 案内人に特別席に誘導されると見知った顔が二人並んでいた。


「コナー卿、レイラ夫人、チケットと招待をありがとう」


 チケットを貰ったギルバートが先にお礼を言った。


「ギルバート様、セレスティアナ様、来て下さってありがとうございます。

妻が……レイラが喜びます」


 コナー卿はレイラを妻と言う度、少しはにかんでいる。

 レイラはその度に嬉しそうに微笑む。幸せそうで何より。


「セレスティアナ様! 成人式以来ですわね」

「つい最近会ったばかりですけど、お二人共、元気そうで良かったわ」


 ややして観客席は暗くなった。

 それからまもなく開演だと言うお知らせが流れた。


 幕が上がった。


 流石、プロ。

 手の動きによる視線誘導で顔に注目するよう演出されたりしてる。

 そしてヒロインの歌姫が良い声で歌う。


 感動系のシナリオだ。


「なかなかいい話で良かった」


 ギルバートも満足したようだ。


「歌姫の声が綺麗でしたね」


 声フェチなので私はやはり声に反応した。


「感動して泣いているご婦人も多いですね」


 レイラもハンカチを握りしめつつ周囲を伺っている。


「歌劇は初めてなのですが、感動しました」


 リーゼも満足そうで良かった。


「さて、お茶か食事に行こうか」


 ギルバートの提案にレイラがすぐさま口を開いた。


「場所はどこにしますか?

お食事がライリーの皆様とご一緒できるか分からずに、予約をしていないのです。

ライリーの出張店舗が一番味がいいですけど、今からだと席があるかどうか」


「お弁当を多めに持って来たので皆で花見をしながらで良いのでは?」

「まあ! お弁当ですか、ご一緒してもよろしいのですか?」

「ええ、もちろん。せっかく春ですもの」


 春休みは我々貴族の社交シーズンだ。


「今からお外ですけど、帽子はありますか? 私のボンネットで良ければ」


 私はレイラの水色のドレスに合わせて水色のボンネットを出して、自分用には藤色のボンネットを出した。


「わあ、フリルとレースと花飾りが素敵。とても可愛いボンネットですね。

これをお借りして良いのですか?」


「気に入ったなら差し上げます。チケットの御礼に」

「まあ! ありがとうございます!」


 レイラはゴスロリ風の帽子のボンネットをとても喜んでくれた。

 前世じゃゴス系の人しか着て無かった衣装だけど、こちらの世界ではこんな華やかなアイテムも違和感が無い。


 そんな訳で我々はこれから、お花見ピクニックに行く事になった。

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