煌めく命の章

第246話

〜(ギルバート視点)〜



 俺の名前はギルバート。

 グランジェルド王国の第三王子だが、正妃ではなく、旅の踊り子の子供、つまり婚外子だ。

 とはいえ、精霊の加護を持つスキル持ちゆえ、王の子として存在出来ている。


 母が他国の内乱に巻き込まれて亡くなる寸前、旅の騎士に俺を託してグランジェルド王国まで連れて来てくれた。


 母を亡くし、生きる喜びも見いだせないまま、城下町でお忍び時に一目惚れをした、同じくお忍び中だった辺境伯令嬢と、紆余曲折を経て、なんとか婚約まで漕ぎつけた。


 彼女もようやく成人の日をつい最近迎えたので、次の段階に進みたい今日この頃だった。


 *

 

 辺境伯領ライリー城の庭園内。




 寝てる……!!


 俺の愛する婚約者のセレスティアナが、無防備に庭園のベンチで……座ったまま寝てる。

 それを俺は少し離れた所から見ている。


 何故かって言うと、弟のウィルを筆頭に、他女の子二人の総勢3人の子供達が楽しそうに、セレスティアナの緩く編まれた三つ編みに花を挿しているからだ。


 ちなみにあの沢山の花はエルフのアシェル殿が子供達にあげた物だ。

 そして花だけ渡して仕事に行く為か、去って行った。


 子供達は春の光を受けてキラキラ輝く、セレスティアナの美しいプラチナブロンドの長い髪に、凄く……沢山の花を飾っている。


 絵本で見た妖精のお姫様と似た花の飾りつけを彼女にして、遊んでいると思われる。


 (お花の妖精のお姫様できた……)

 (とてもキレイね……)

 (キレイ……)


 子供達は彼女を起こさないよう、気を使って小声で話をしている。

 ……本当に綺麗で可愛い……。


「見ろ、エイデン。

私のセレスティアナは寝てるだけで、あんなに可愛い、凄く可愛い」


「それはまさしくそうですが、令嬢は無防備過ぎませんか?」

「それはそうだな」


 スチャ!

 俺はそう言いつつも、ポケットから出した板状の撮影用クリスタルを構えた。


「寝顔なんて勝手に撮って大丈夫ですか?」

「……水着とかじゃ無いから……。でも後で怒られたら消す……」

「──あ、ウィル坊ちゃんと女の子二人がどこかに行きましたね。

飾り立てて満足したんでしょう」


「よし、エイデン、お前も行っていいぞ、後は私が見ているので、おやつでも食べて来い。

庭園内だし、大丈夫だ、外には行かない」


「はいはい、邪魔者は消えます。でも悪さはしてはいけませんよ」

「悪さなんかこの結界内では出来ない」

「……」


 なんかまだ言いたげだったが、それをグッと飲み込んでエイデンはとりあえずその場を去った。


 俺はそっとベンチの上に移動して、セレスティアナの隣に座った。

 さわりと春風が吹いて、彼女の頬を撫でた。


「……はっ!? 寝てた!」

「やっと起きたか」

「あ、ギルバート……」


 セレスティアナは俺を見て目をパチパチとさせて瞬きをした。

 睫毛長い……。


 つい最近、ようやくセレスティアナの成人式が来て、俺は正式に彼女の騎士のお披露目式にも出れた。


 次に俺が望むのは婚約状態からの……結婚だ。


 だがしかし、辺境伯には結婚はセレスティアナが16歳になってからで良いのではないか?と言われている。

 これからあと一年待つのか……。


 ──辛い!


 早く誰にも奪われないように、自分の妻だと言いたい!

 早くこの細くて華奢な腰を抱きしめて寝たい!

 ……。


 ──はぁ。


「ところでもう成人した事だし、結婚しても良いのではないかと俺は思うのだが」

「え? 寝起きにいきなり結婚の話を!?」

「す、すまない」


 確かにいきなり過ぎた、勢いで言ってしまった!

 指輪でも用意して言うべきだ。血迷った。


「確かに私も成人はしましたけど、流石にあと一年くらいは彼氏彼女関係でも良くないですか?」

「カレシカノジョ?」


 セレスティアナは、たまによくわからない事を言う。


「えっと、前世で私の世界では男性の恋人の呼び名を彼氏と言い、彼女が女性側の恋人の呼び名を意味しているのです。つまり彼氏彼女は恋人同士ってことです」


 やはり前世関連の事か。


「恋人って……俺達は婚約者だろう?」

結婚を約束している関係故にその上くらいにはいるのでは?


「そうなんですけど、個人的に夫と妻より彼氏彼女の方が青春っぽい響きで好きなんですよね。

私達はまだ若いので、慌てる事も無いのでは? 

流石に私が18歳になるまで結婚を待てとは言いませんし」


「青春……」

「……なんというか、ギルバート的にはスキンシップとかが足りなくて物足らない感じなんでしょうか?」


「それは……そうだな」


「……しょ、正直ですね。

じゃ、じゃあ〜、えっと、室内に移動して私を抱っこしますか?」


 顔を赤くして、少しあわあわしながらセレスティアナはそんな可愛い提案をしてきた。

 せっかくなので、抱っこくらいはさせてもらおうか。


 ぱたぱたぱたぱた。


「いたー! かーさま見て! ねーさまをお花でいっぱいにした」

「!!」


 ぱたぱたと愛らしい足音がしたと思えば……、


「お母様とウィル……」


「まあ、本当に髪に沢山お花が飾られていて、とても綺麗で可愛いわね」


 あ──、さっきウィルがいなくなったのは、母君を呼んでいたのか!


「……ギルバート、申し訳ありません。

さっきの件は、また今度にしましょう」


「分かった……」



 俺は貴重なスキンシップの機会を逃し、意気消沈のまま、その場を後にした。

 向かった先は自分の竜のメイジーの厩舎だ。

 俺は真珠のように輝く白い竜を撫でた。


「メイジー……俺と遠乗りでも行くか?」

「キュ」


 メイジーが俺の後方を気にして小さく鳴いた。


「ギルバート様、勝手に外には行かないと言ってましたよね?」

「うわ! エイデン、いつの間に!?」


 厩舎の入り口からエイデンが現れた。


「そんな事より、親交のある魔法師からお届け物です」

「……魔法師から手紙?」


 あ、レイラ夫人の夫のコナーからじゃないか。

 つまりロルフ兄上の側近の魔法師。

 隣国で毒を盛られてから騎士だけでなく薬師の知識のある魔法師を探し、王妃が心配してつけたのだ。


「歌劇のチケットらしいですよ。

セレスティアナ様とデートでも行ってみるのも良いのではないですか?」


「デート、デートか……」


「聞けばデビュタント用のドレスのデザインに悩まれて少し寝不足になったとか、歌劇の役者や観客の美しいドレスなどを見たら、何か刺激されていいデザインも思い浮かぶかもしれませんし、流行りも分かるでしょう」


「それもそうだな、たまには行った事のない場所に行くのも良いな」

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