第243話

 冬は空気の乾燥でお肌が荒れる季節。


 前世で心惹かれてたフレーズの、クリスマスコフレみたいに聖者の星祭りの日に化粧品を販売する予定。


 なので本日は学院の帰りに、化粧品の研究員と販売員を王都の店に集め、活版印刷で刷り上げたカードを手に、説明をする事にし、今日は会議だ。


「この化粧品にそのカード……原材料の表記をしたものを付けるのですか?」

「ええ。使う人達にアレルギーがあると大変なので」

「材料がはっきり分かると真似た物が出て、商売の邪魔になるのではありませんか?」


 研究員も販売員も不安顔だ。


「でもお客様の安全の方が大事だし、技術や製法までは書かないわ。

例えば同じ料理を他の人が同じ食材で作っても、調味料の分量や火加減でも味がそれなりに違うでしょう?」


「なる……ほど、全く同じ効果になるとは限らないのですね」


「ええ、そうよ。自社製品の質を信じて売っていきましょう」

「はい! お嬢様!」


 * *


 翌日。


 学院に行く準備中、朝から私の部屋にメイドが荷物を持って来た。


「ラナン様に騎士達から連名で贈り物だそうです」


 メイドが持って来た物は、綺麗なワンピースと靴とリボンだった。


「私に何故?」


 私の側にいた護衛騎士のラナンが困惑している。


「物忌みの塔に引きこもっていた時に、手持ちの食券を全て使ってピザを差し入れしてくれたお礼だそうです」


「あら、ラナン、あの食券、最近まで使ってなかったの?」


 私はだいぶん前に渡した食券の存在を思い出した。


「使いどころが分からずにいたので……。

そうでしたか……無料でいただいた食券を引きこもってる同僚の騎士達に使っただけですのに」


「ピザのお礼にドレスは重すぎるかもしれないから、普段着に出来る綺麗目のワンピースにしたそうです。

男性騎士様達はラナン様の優しい気使いに感動したのでしょうね」


 メイドはそう言って、ほっこりと笑った。

 騎士に優しくされているラナンに嫉妬はしないのか、心が広い新人メイドだ。


 ちなみにアリーシャは最近、諦めていたのに妊娠してしまったと言って、お仕事をお休みしている。

 もう若くないので作るつもりはなかったそうだけど、旦那さんが張り切ってしまったのだと。

 おめでとう。

 元気な子を産んで欲しい。



 *


 学院は冬休みに入るので、本日の学院は早めに終わった。

 終業式ってやつ。


 晩餐後、しばらくして聖者の星祭りの日にやる劇の内容、シナリオを書き上げた。

 サロンに移動して呼び出したギルバートにも読ませてみた。


 兄弟で跡目争いをさせる冷徹な領主の家に生まれ、苦悩する兄弟のお話。

 男の兄弟が四人。女が一人。

 最後に一番強いやつだけ生き残るという弱肉強食。


 弟は三番目の兄を思う気持ちがとても強かった為、後継者の座を譲り、残り二人の後継者候補になった時に、自殺するという内容だ。


 なお、また私が死に役、弟役をすると言ったらギルバートが嫌そうな顔をした。


「なんだこの地獄のような家門。其方は何故幸せな話にしないのだ?」


 シナリオを読んで、兄役をさせられるギルバートが文句を言って来る。


「レイラ夫人はドラマチックなのが好きなので」

「そんな……」


「それにこれも傷ついた兄の心を癒す女性が現れますので、最終的にはハッピーエンドですよ」


「それで……死んだ弟は満足なのか?」

「きっと来世はもっとマシな家に転生出来ますよ」

「来世って……」

「作り話ですよ、深刻にならないで下さい」

「はあ……」



 * * *


 数日後、冬休みになったので、再びライリーにて治水工事に参加する。


 日中であっても、冬は川から吹く風が冷たい。

 本格的な寒さが来る前に、少し作業を進めておく。


「過去何度かこの川は台風による大雨で氾濫したと記録があります。

故にこの川、暴れ川と呼ばれております。

ですので堤防を作り、水の勢いから近隣の町や人を守ります」


 私はインベントリ内からテーブルと地図と設計図を取り出し、騎士達に広げて見せた。


「この地図で記したあたり、集落がありましたが、川の氾濫の度に大勢の人が亡くなっています」


「むう……」


 騎士達が息をのんだ。


「えー、この図面を見て下さい。

この川を利用して木材などを運んでいる人達にも聞いて作った資料にもとづき、計画した物です。

ここにまず洗堰を作ります」


「アライゼキ?」


「これは水を食い止めるというより、水量調整のものです。

土魔法で川底の深くなっている所に私がインベントリ内の岩を落とします。

ここに大量の水が流れ込むと、次はあちらの川にドザーっと流れ込んで、連鎖的にこの辺が大変な事になるので」


 私は図面の地図を指さして説明する。


「はい」


「そして、こちら、地図に線が引かれていますね。

皆さんで、ここの土を盛り上げて堤防を作っていただきます。

いわゆる盛土と言われるものです」


「この線の長さから見るに、だいぶん大きな堤防になりますね」


「はい。工事は大変疲れるでしょうが、未来を見据え、民を洪水から守るために、ここでやらねばなりません。

この工事に携わった方は、治水本に名を残しておきます。

後の世に立派な事をしてくれた人の名として残ります」


「おお、書物に名前が残るのですか!」

「そうです、そのうちご先祖様、偉かったんだね、って子孫が褒めてくれるかもしれません」


「子孫……壮大な話ですね」

「だが、確かに誉れだな」


 広げた図面を差し、また説明をする私。


「こちらは農業用水路です。

水面がちゃんと見えるよう、周囲に住む人達に定期的に周囲の草を刈ってもらい、水位が良く分かるようにしてもらう予定です」


「はい」


「水害は怖いものですが、この大きな川のおかげで豊富な水があるので、この周囲は立派な穀倉地帯になるでしょう。

他領の輸入に頼らず、自領で賄えると助かりますね」


「ええ」


 そんな説明などをしながら、皆さんの協力で工事を進めていった。



 *


 ──それにしても、冬の川の側は寒いな、作業終わりに私は皆に聞こえるように、声を張った。


「本日はお寒い中、皆様、ご協力ありがとうございました!

冬期間の工事は今日で終わりです。

次回以降は春になります。

今から最寄りの神殿から温泉地まで行きまして、温泉で温まって、疲れを癒やして下さい。

美味しい食事も、もちろん出ますよ!」


 わ──っと、一気に盛り上がった。

 温泉に行ける事に素直に喜ぶ騎士達。

 十分に温かい温泉と美味しい料理で癒されて欲しい。

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